第24話 次世代エネルギー

 思いの外、人員は確保できた。一度は破った関所を石積みで塞がれ、攻めあぐねていたソウ国軍が徐々に攻撃の手を緩めたのだ。だから徴兵された市民を攻撃があった際だけ戦わせ、攻撃が来ない時間帯に新防壁の工事に就かせることができた。


 市長が敵国に送り込んだスパイからの情報によると、どうやら戦争によってソウ国民が疲弊し、ソウ国では物資不足が嘆かれているのだとか。カケモリ市国同様、国民を出兵させているわけだから本来の仕事が疎かになっているわけだ。

 とは言え、カケモリ市国はソウ国ほど戦争に人員を割いていない。軍や下級市民以外は三交代で本来の仕事をしている。もちろんその働きぶりには頭が上がらないのだが、それは休みを取っていないから。週休2日の休みを戦争に当てているイメージだ。


 ただ、戦火が弱まったとは言え、とうとう北のヤン国に情勢を悟られてしまった。ヤン国の使いが北の関所に来ては、ヤン国王がカケモリ市長に政治的面談を求めているのだと伝える。市長はその面談を受けるか頭を悩ませていた。


 そして俺は時々新防壁の築造現場に出向くわけだが。


「敵襲!」


 今までよりは弱まったとは言え、不定期でヤン国は火矢を撃ち込んでくる。もちろん投石器も。そして旧防壁ではとうとう内側に衝撃が来るほどになった。つまり、どこかが破られるのも時間の問題だ。

 そして攻撃がある度にツインテールのメイドは俺の盾になる。幅の広い剣を使って俺から火矢を振り払うのだが、いくら護衛とは言えメイドにだって俺は情を持っている。守られながらもメイドへの心配は拭えない。頼むから無事でいてくれ。


 そんな心配とは裏腹にこのメイドに思うところもある。とにかく強い。当初護衛だと言われた時は心もとないなんて失礼なことを思ったものだが、俺を刺客から守ったことと言い、この戦地での働きと言い、かなり訓練されている。


 因みに人員は確保できたと言っても新防壁のコンクリート工事は規模が大きい。なかなか工事は進まない。関所から東西両側に向かって進めてはいるが、これは年単位で時間がかかりそうだ。


 そんな高校3年になったばかりの頃だった。


「親善大使様! 堀川の対岸にリン様とフタバ様がお見えです」


 兵から言われて川の対岸を見るが米粒ほどの馬車は確認できるものの、人影は認識できない。さすがは幅1キロの川だ。リンとフタバがいることは間違いないのだろうが、彼女たちは俺に向かって麗しい笑顔で手を振っているのだと妄想する。


 俺はメイドから馬に乗せてもらい、対岸まで移動した。そこにいたのはやはりリンとフタバで、俺が馬から下りるなり抱き着いてきた。


「トモ君……」

「無事で良かった……」


 俺の胸で2人の恋人がそんなことを言うものだから、なんだか凄く愛おしくなって俺は2人の頭を大事に撫でた。


 やがて俺たちはリンとフタバが乗ってきた馬車に乗り込むと、鉱業区の閉山された場所に行った。そこは岩肌が剥き出しで、緩やかな勾配ではあるもののほぼ平地だと言って差し支えない場所。既に閉じられた地下トンネルの入り口もある。ここから少し離れた場所で転移した時の俺は発見された。


「トモ、生産の第一便が届いた。あれだ」

「うおっ!」


 俺はその資材に駆け寄った。それは青いガラスだ。いや、表面がガラス素材と言うだけで、その中身が青い。その資材が大量に置かれていた。


「これがソーラーパネルというやつか?」

「そう、そう!」

「これで本当に発電ができるのか?」

「そうなんだよ!」


 俺はリンの言葉に振り向くこともなく、その資材に頬ずりをしながら答えた。そう、これはソーラーパネル。つまり俺の思惑は太陽光発電だ。


 シリコンを発見した時から俺はずっと太陽光発電の可能性を頭の片隅に入れてあった。やがてそれを市長に進言すると、それに対して市長は乗り気になった。

 しかし俺には太陽光パネルの生産知識がない。あるのは大学生の時にシリコンが原料であることなど、その理論を学んだ際の乏しい知識だけ。しかもそれももう10年以上前だからうろ覚えだ。そんな断片的な知識しかないと市長に言った。すると市長は言ったのだ。


「それでしたらその断片的な知識を提供してください。それをヒントに山頂の行政区から人員を集めて、工業区と共同で開発チームを作ります」


 そしてこの次世代エネルギーが開発され、今この場所に運ばれて来たのだ。ここは閉山された場所でほぼ平地だ。寂れたゴルフ場みたいなもの。広いだけで土地の利用用途がないから、大量の太陽光パネルを敷き詰めるのにもってこいだ。


「親善大使さん、これをどうやって設置したらいんだ?」


 すると作業員の1人が聞いてくる。

 俺は太陽光の開発が始まってからずっと注意して気候を観察していた。気温や日照時間からするに、恐らくここは元の世界で言うところの東海地方に近い。それを基準にした考えから指示を出す。


「面は真南に向けて、傾斜角を30度にしてくれ」

「30度?」


 あ、そうか。角度を出す術を知らないのか。


「えっとな、高さ1に対して水平距離をルート3の計算で角度を出して」

「そんな計算できねーよ」


 こんにゃろう。筋肉バカかよ。まぁ、間違ってはいないがそんなことは口にしない。


「えっと……30度と60度の三角比は人並みに驕れよだっけ……」

「高さ1に対して、水平距離は1・732だ」


 すると俺が答えにたどり着くと同時にリンが先に言った。さすがは成績優秀、容姿端麗の元生徒会長。3年生になってから生徒会は引退したのだ。


「なるほどな。お嬢さんの言う方がわかりやすいや」


 ちくしょう。俺だって答えにたどり着いてはいたんだよ。

 まぁ、それはさておき。太陽光パネルの敷設工事が始まった。


「今回搬入分の配線は防壁の方に流してな」

「了解」


 男たちが景気よく俺の言葉に返事をしてくれる。次回搬入分からは市国内の生活発電だ。シリコン抽出には大量の電力が必要だからこれで火力発電の負担も軽減できるし、そもそもシリコン抽出もこの国の生活電気容量を圧迫していた要因だ。


 初回搬入分の設置工事は1週間ほどを要した。そしてしっかり発電されているかを確認するために蛍光灯を持って来た。


 パリンッ


 配線すると一瞬光って蛍光灯は割れた。当たり前か。電力が大きすぎるのにたった1本の蛍光灯を繋ぐなんて愚行だ。


『うおー!』


 しかし上がるのは歓声である。発電ができていると確認ができ、労働者たちは雄叫びを上げた。これで次世代エネルギーによる発電所の完成だ。


「トモ、さすがだな」


 すると俺の腕を取って労ってくれるリン。ぐふふ。その豊満な胸が柔らかい。今日の夜も頑張っちゃおうっと。


「またトモ君の魔法が咲きましたね」


 するとフタバが反対の腕を取る。ぐふふ。フタバの笑顔も綺麗に咲いているよ。今日の夜も頑張るからね。


「今日は戦地には行くのか?」

「いや、今日はその予定はない」

「そうか。それなら一緒に帰れるか?」

「あぁ、そうしよう」


 と言うことで俺とリンとフタバは客車に乗り込んだ。御者席には俺の護衛のツインテールのメイドとリンの護衛のメイドがいる。


「はぁっ……、トモ……」

「あんっ! トモ君……」

「ほれほれ」


 切ない顔をするのはリンとフタバで、俺はゲスな笑みを浮かべている。


「トモ、家まで我慢できない……」

「トモ君、ここでおねだりしてもいいですか?」


 ぐふふ。バッコンバッコン揺れる客車の中で求められて、俺はリンとフタバを喜ばせた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る