第12話 配管工事

 基礎のコンクリート打設で懸念事項が増えた。と言うか、1つの懸念が増した。

 まずは基礎の底盤だがこれは建物の範囲外の地上で作ったコンクリートを、一輪車で運んで打設した。これには問題がなかった。


 今回はベタ基礎で、天井の低い地下室のような空間を作った。それがそのまま基礎となる。その側壁となる地中梁の立ち上げと1階の床となるスラブの打設の時に焦った。

 打設するコンクリート量が多く、しかも今の季節は夏なので硬化が早い。手動での打設は途中で硬化が進んでしまったのだ。しかもコンクリートを型枠内で満遍なく充填させるためのバイブレーターもなかったので、これは外側から壁を叩き、加えて棒で突くだけに留まった。


 今回は基礎だったから地中壁の厚さがあってちゃんと充填できたと思う。しかし壁厚が薄くなる地上階ではそうはいかない。更に高さがあるので打設するコンクリート量も増えるから、今の作業効率では早い硬化による打ち継ぎができてしまい一体性が心配だ。それに突くにも棒が届かない。


 そしてコンクリート埋設の先行配管だが、コンクリートを打設する前にセットしなくてはならない。これは地上階の電気や給排水のための配管だが、基礎でも1階の床下で底盤の上には現れる。

 給水と排水の配管は結局鉄の管を使った。とは言え、防腐のため配管の内外をシリコンでコーティングした。そのため配管は1つサイズの大きなものを利用したわけだが、熱に強いシリコンなのでこれで安心だ。


 電気は硬くしたシリコンの管に針金を通して空配管としてコンクリートに埋めた。後に針金の先を電線に結び、反対から引っ張れば配線の完了だ。


「考え事ですか?」


 寮の真っ暗な寝室で天井を見上げていると、隣で横になっているフタバが問い掛けてきた。


「うん。どうしても重機や道具がないから今後の工事に詰まっちゃって」

「じゅうき? ……ですか?」

「うん。大型の機械」

「そうですか……」


 消え入りそうなフタバの声は耳に心地よく、俺はフタバの頭の下に腕を潜らせフタバを抱き込んだ。


「磁石と銅線とゴムが欲しい」

「磁石なら鉱山で取れますよ?」

「え? そうなの?」

「はい。銅線って電線に使ってるアレですか?」

「あ、そうか」


 完全に失念していた。アナログ世界ではあるが一応発電所はあって、国内に電気は通わせている。銅が取れることを耳にしたことがなかったからないものだと先入観を持っていた。しかしどうやらよくよく話を聞いてみるとそれも鉱山で取れるらしい。

 そして磁石も鉱山で取れる。これは朗報だ。コイルを巻いてモーターが開発できる。そうすればバイブレーターができる。コンクリートの充填は解決だ。


「あとはゴムか……」

「ゴムってゴムの木のゴムですか?」

「ん? ゴムの木?」

「はい。自転車や一輪車のタイヤに使われているあのゴムですよね?」

「あ……」


 本当、俺ってバカだ。アホだ。クズだ。ゲスだ。

 間違いない。この世界でゴムを目にしている。馬車の車輪が木製だったためこれにも先入観を持っていた。更にゴムは化学物質だという先入観まで持っていた。なんで天然ゴムの可能性が浮かばなかったのだろう。

 どうやらよくよく聞いてみると、これは西の林業区とその南の放牧区の奥にゴムの木があるらしい。だからゴムの生成は可能だ。


「フタバありがとう!」

「えへへ。よくわからないけど、お役に立てたなら嬉しいです」


 俺がギュッとフタバを抱きしめると、フタバは俺の胸に頬ずりをした。俺はフタバの秘部をわさわさしながら言った。


「バイブができたらもっとフタバを喜ばせてあげるからな」

「んんっ……。それって道具ですか?」

「うん」

「私はトモ君の肌がいいです」


 キュン。萌えた。悶えた。


「あと、俺が元いた世界では、ゴムを究極に薄くしたものを使ってエッチするから避妊ができるよ」

「え……」


 するとフタバは顔を離し、表情を無くしたように俺を見据えた。


「避妊……ですか?」

「うん」

「妊娠を避けるってことですよね?」

「うん、そう」

「そんなの嫌です!」

「ほえっ?」


 するとフタバはギュッと締め付けて再び俺の胸に顔を埋めた。


「トモ君との赤ちゃん、欲しいです」

「え? でもまだ高校生じゃん? 学校に通えなくなるよ?」

「確かにそれは寂しいですけど、大好きな人との赤ちゃんができたら幸せです。当然私は学校より赤ちゃんを選びます」

「ほわぁぁぁぁぁ」


 昇天するかと思った。これはフタバに限らずこの国の人たちの価値観なのかな? て言うか、昇天しよう。俺はフタバを離して彼女の潤々した瞳を見た。


「フタバ……」

「トモ君……。お代わりをおねだりしてもいいですか?」


 相思相愛。意思疎通も完璧。いっただっきまーす!


 翌日、俺はシイバ家のメイドにお願いして馬車を出してもらった。俺だけ授業のない午後からだ。現場はコンクリートの養生中のため、作業員は誰も入っていない。


「いきなり裾野に行きたいとは、まったく……」


 客車の中で不満を垂れるのはリンだ。こいつ、授業をサボってまたついて来た。そんなに文句を言うなら学校に残れば良かったのに。

 とは言え、俺ももうリンの扱いには慣れてきた。


「移動中にいっぱいイチャイチャできるじゃん?」

「……」


 途端に顔を真っ赤にして黙り込むリン。やはり嫌ではないようだ。


「あはん! トモ、もっと……」


 と言うことで、バッコンバッコン揺れる高速馬車の客車でイチャラブを開始した。


 最初に到着したのは林業区とその南側の放牧区に跨る辺り。堀川寄りのかなり奥だ。確かに前回の裾野の取材では気が付かなかったがゴムの木がある。そこで働く人たちに俺は自分が抱くイメージを伝えた。


「そりゃまた大層なもんですな、親善大使さん」


 労働者の皆さんは驚いていたが、快く製作に挑戦してくれることになった。


 そして裾野を90度回って到着したのが工業区。そこで電線を作る工場の人を訪ねた。そこには鉱山で取れた銅も確認できたので、俺はできると確信する。


「これ磁石なんだけど、この図面のものを作ってもらえない?」


 俺が図面と一緒に渡したのは、鉱山で取れた磁石。ここに寄る前に工業区の別の工場から入手していた。


「これ、なんだい? 親善大使さん」

「これは電磁石って言ってこういうふうに作ると回転力が生まれるんだ」

「ほえぇ……」

「それをモーターって言うんだ」

「わかった。ちょっくらやってみる」


 と言うことで、こちらも快く挑戦してくれることになった。


 それから1カ月後、季節は8月になった。1階の壁と2階の床になるスラブの型枠、配筋、配管はできている。足場は丸太で組まれた丸太足場だ。因みに今回の型枠工程もまた苦労があったのだが。――窓だ。


 基礎、つまり地下では無かった窓だが、地上階には存在する。それを垂直面の壁に予め開けなくてはならない。鉄筋は開口周囲に補強筋が必要だし、型枠はコンクリート打設時の空気抜きが必要だ。

 そして何と言っても大工への指示出しで苦労したのが開口の逃げ寸法。設計図のとおりの寸法で開口を開けては、窓枠が入らなくなる。ここで俺はとうとう設計図のみならず施工図も描いた。まぁ、最初から描いとけよって話なんだが。


 それでこの日はその1階の柱壁と2階の床梁、床スラブのコンクリート打設の日だ。コンクリート打設後は躯体の修正が利かないからかなり入念に確認した。

 そして建築現場に新開発の重機と道具が到着した。とは言え、手動だから本来は重機と言えないけど……。

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