第7話 設計図書

 生徒会室に持ち込んだ図面を受け取るのはリンだ。他の役員はいない。後から知ることになるが、この日は事前に俺が言ってあって、来ることを知っていたリンが他の役員を排除していた。


「は、早かったな」

「ぐっふっふ。ご褒美がかかってるからな」

「かぁぁぁぁぁ。――と、とりあえず見させてもらう」


 と言うことでリンは真剣に図面を見始めた。その図面は手描きということでやはり困難を極めた。フタバに教える以前に俺も慣れていないから。


 まず、木の板を30センチと40センチに切った。それをTの字に組んでフタバが仕入れた樹脂を張り付け、T型定規の完成だ。

 それは絵画用のベニヤパネルの側面を走らせ、平行線が引ける。加えて三角定規を乗せれば直角線が引ける。それを俺とフタバ用に2台だ。それからやっと製図の開始であるが、俺とフタバは学校の傍ら、夜中まで製図に励んだ。


 シイバ家が用意してくれた俺の学習デスクは空き部屋にセットし、フタバの学習デスクもこちらに移動した。そして用意された俺用のベッドを元のフタバの部屋に据えて、ダブルベッド状態にした。毎晩製図に励んだ後は部屋を変えベッドで励んでいた。


 たださすがに学園を牛耳るだけあってリンをはじめとするシイバ家のバックアップは絶大だった。俺の授業を午前だけにしてくれたのだ。尤も俺は既に高校卒業の知識があるため、勉強が遅れることはない。

 そのため俺は先行して午後も図面を描いていたので、ハイペースで進められた。


 因みに学校はと言うと、クラス教室などは広い空間が必要だ。どのようにそれを確保しているのか興味があったのだが、登校初日に俺は驚いた。

 用途上広さが必要な空間はなんと木材でトラスを組んでいた。金物を使った接合になっているため金属があるようだと思うが、2階の床があるのにそれを適切に組んであったから恐れ入る。


 そしてクラスメイトをはじめとする生徒たちからはと言うと、やはり親善大使ということで崇められた。しかし俺は17歳として学校に来ているわけで、対等な関係を築きたかった。だから生徒に友達として接してくれと懇願した。

 当初こそぎこちなかったみんなだが徐々に慣れてきて、今ではやっとタメ口呼び捨てで話してくれる。君付け敬語はフタバだけだ。


 加えて驚いたのが、生徒の面々である。さすがは仮称平行世界なだけあって、元の世界で俺が通っていた掛守高校の面々が多い。顔だけだが。キャラは所々違うように思う。


 このカケモリ市国に高校は1つだ。俺が元いた世界の掛守市にはど真ん中偏差値の普通課程掛守高校の他、進学校の掛守中央高校、それから掛守工業高校、掛守農林高校があった。

 工業と農林は専ら就職高校だが、農林はその名に反して農業のみの専攻課程しかなく、林業を学べる高校ではなかった。掛守市の産業に林業はなかったから。


 しかしカケモリ市国は違う。林業がある。そしてこのカケモリ学園。この4校を1校にまとめたマンモス校だ。普通科以外に特進科、工業科、農業科、林業科がある。

 但し、国内に大学がないので特進科は行政機関のエリート養成コースだ。所謂官僚。て言うか、特進って特別進学の略称じゃないのかよ。


 それにここで気づいたことがある。カケモリ市国ではあるが、恐らく掛守市にある俺の実家と類似した家庭はない。なぜなら掛守中央高校に通っていた1歳年下の妹がカケモリ学園に在籍していなかったから。

 この理由はわからないが、俺が召喚されたことの影響を受けているのだろうか?


「す、素晴らしいな……」


 すると一通り図面に目を通したリンが言った。


「こんな図面見たことない」

「ぐふふ」


 そうは言うもののリンに建築の知識はない。リンはメイドを呼び寄せ、技術者の確認を取るため図面を預けた。そして再び2人になった生徒会室。俺はすかさず言う。


「ご褒美は?」

「こっちに来なさい」


 顔を真っ赤にして俺の目が見られないリン。可愛いじゃないか。リンに恨みはないが、ちょぉっとお高い性格の女の子をメチャクチャにできるかと思うと萌える。

 するとリンは生徒会室の奥の扉を開けた。俺は驚いた。


「なっ! ベッドがあるじゃん!」

「私の仮眠用よ」


 なんとそこにはセミダブルくらいのベッドがあった。そのリンの仮眠室は6畳くらいの広さだ。しかし仮眠が必要とは、リンはどれだけ働いているのだ。学園を牛耳る生徒会長も色々大変なんだな。


 とにかくだ。


「いっただっきまーす」

「わっ! ちょっと! がっつかないで!」


 俺はすかさずリンをベッドに押し倒したが、リンは俺の顎に腕を突っ張る。何だよ、約束と違うじゃないか。


「待って! 私、経験ないから怖いの」

「優しくするよ」

「本当?」


 潤々した目で俺を見上げるリン。頬は紅潮していてそれが俺の心を鷲掴みにする。


「本当。フタバに聞いてないか?」

「聞いた。トモは優しくしてくれたって」


 すでにフタバの了解も取ってある。これはリンの口利きだが、それを俺はフタバから聞いていたので把握している。フタバも初めてだったのでその感想を伝えたとか。


「私にも優しくしてくれるか?」

「もちろん」


 がっついておいてなにを言ってんだか、俺は。客観的に見て調子がいいなと思うよ、ゲス俺。


「うぅ……」


 すると恥ずかしそうに唸るリン。やっべ。めっちゃ可愛い。


「工事着工の話も進めたかったのに」

「そうだな。けど、まずはリンの開通工事が先だな」

「トモに全部任せて大丈夫?」

「あぁ、任せろ」


 なんせ経験値は36歳。建築士合格まであまり遊ばなかった俺だから経験人数は少ないが、美人妻を娶って回数のうえで経験値は高い。とは言え、処女はフタバが初めてだったけど。


「よ、よろしく、お願いします……」


 するとリンがゆっくり目を閉じて観念した。俺は優しくキスを投下した。そしてリンと合体した。


 ごめん、フタバ。今日は帰りが遅くなる。


「トモ、もう一回。お願い、トモ」


 なぜなら女の喜びを知ったリンがなかなか放してくれなかったから。こいつ、ベッドでは典型的なニャンニャンだ。この甘えようったらない。

 俺は22時過ぎに寮に帰った。するとフタバが食事もせずに、待ってくれていた。


「トモ君、おかえりなさい。今お食事を取りに行ってきますね」


 麗しい笑顔で迎えてくれたフタバが戻ってくると早速2人で食事を始めた。

 因みにフタバは食堂から食事を取って来たわけだが、ここの食堂も広い。それ故にトラス構造だ。ただ学校と違って寮の食堂は2階の床がなく、天井の高い吹き抜け構造だ。


「トモ君、会長とはいい仲になったんですか?」

「ん? 気になる?」

「そりゃ、まぁ……」


 食事をしながらではあるが、目を伏せたフタバ。やきもち焼いちゃったのかな? 可愛いなぁ。


「へへん。まぁ、そうだよ」

「そうですか……」


 少し落ち込んだ様子を見せたので、いじめるのはこれくらいにしようと思う。


「リンとの約束でもあるから、フタバにも約束するよ」

「なにをですか?」

「フタバとリン以外には手を出さない」

「本当ですか?」

「うん。俺が想うのはフタバとリンだけ」

「えへへ。安心しました」


 はにかんだフタバが眩しかった。そしてこの夜はフタバにも甘えられ、17歳の体の俺は頑張った。


 それから当の目的の校舎建築だが、ここまでは順調だ。なんとか設計は終わった。

 ただしかしこれから着工。とにかく資材や重機が不安だし、現場監督も俺がこなさなくてはならない。俺はフタバの寝顔を見ながらそんなことを考え、眠りに就いた。

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