第3話 請負と入寮
資材は? 重機は? 俺にあるのは体1つだけだ。その中に知識が入っているに過ぎない。それなのに4階建ての校舎を建てろと言うのか?
「頼む! トモ!」
「いやいや、なんでそんなに懇願するんだよ?」
「当たり前じゃないか! 何かしら技術を持っていてその技術を提供してもらうためにお前を呼んだんだ! それで我が国は発展するはずなんだ!」
「……」
「あ……」
こいつ、今絶対失言を吐いた。鳴らない口笛をスースー拭きながらそっぽを向いている。
「俺は、もしかして召喚されたのか?」
「スースー」
「何も答えないなら協力しねぇ」
「や! 待ってくれ!」
と掴みかかってくるリンだが、その大きな胸の弾力が俺の腕を包むので素晴らしい。そう、こいつは絶対巨乳だ。
綿は体のラインを模らず真下に下り、その膨らみが顕著なため、胴まで膨れている。しかしスラっとした生足が細いので肥満体質ではないことくらい既にわかっている。
「悪かった! 召喚の儀をしたのは私だ! うちの女の血筋はそれができる家系なのだ。占いで召喚すれば技術をもたらす者が現ると出たから!」
「はぁ……」
俺は一度大きくため息を吐く。まさか死のうとしてフラフラしていたら仮称平行世界に召喚されるとは。どうせ一度捨てた命だ。と言うかそもそも、リンがいないと俺は間違いなく路頭に迷う。この世界で生きていけないから実は文句も言えない。
そんなことを思っていると胸が弾むことをリンが言う。
「協力して結果が出た暁には親善大使様としてこの世界でできることならなんでも叶えてやる!」
「え? マジで?」
「あぁ。本当だ」
「他に召喚してほしい奴がいるんだけど?」
「召喚の儀は人生で一回、1人の召喚しかできない」
「ん? じゃぁ無理?」
「いや。私は今回やったしお婆様は過去にやったことがあると言っていた。お母様に頼めばあるいは……」
「それ、約束できる?」
するとリンはキリッと俺を見た。凄く美人だから思わずうっとりする。
「約束する!」
「そいつを奴隷なり幽閉するなりできる?」
「召喚した後はどうにでもできる」
「よし、わかった。協力しよう!」
へー、まだ召喚できるんだ。俺から妻と仕事を奪ったあいつをこっちに連れて来て、復讐してやる。て言うか、俺以外にも召喚された奴がまだいるの?
「ありがとう! トモ!」
すると突然腹に柔らかい感触。なんとリンが勢いよく抱き着いてきた。俺はいただきますとばかりにリンの背中に目一杯腕を回した。とは言え、どうしたものか。完全に安請け合いだ。
「それからトモの今後だが」
リンは俺から体を離すと俺を見上げて切り出した。ヤバい。頬を赤く染めたリンがメチャクチャ可愛い。しかも腕だけは俺の腰から離さない。それならば俺もリンの肩に両手は添えたままだ。
「学校は通うか?」
「そっか、そうだよな。俺って今17歳の状態だもんな。通ってた方が自然か」
「それならば編入の手続きはこちらでやっておく。明後日の月曜日から早速登校だ」
さすがは学園理事長の娘。その辺はお茶の子さいさいか。
「それから住むところだが、学園の寮に2人部屋が1室空いている。同室人はいるから親善大使様には恐縮だが、そこでどうだろう?」
これにはちょっとガッカリした。何の考えもなしにリンの家でお世話になれると思っていたから。とは言え、仮称平行世界。地形や戦争の脅威など相違点はあるが、倫理観は元の世界と同等に考えておいた方が良さそうだな。
「住まわせてもらえるなら文句は言わない」
「心が広いんだな。できるだけ生活の面倒はシイバ家で見るから安心しろ」
そう言ってリンは微笑んでくれた。
そして俺はリンから学園都市にある寮に案内された。やはり木造2階建てで、そしてでかい。
「ツバサ寮だ。真上から見るとそう見えるらしい」
なるほどなと思った。このツバサ寮は外から見たところ真ん中には平面が円形の食堂がある。そして両翼が男子棟と女子棟に別れている。確かに真上から見れば鳥が翼を広げた形に見えるだろう。
ただ飛行技術がないから航空写真を撮ることもできず、「そう見えるらしい」なんて言い方をしたわけだ。
俺はリンの案内で片翼側の階段を上がった。その時リンはしきりに寮の説明をしてくれた。
「1階は玄関や大浴場などで、個室は全て2階だ」
リンの声は耳に入るが、俺は安請け合いをしてしまってこれからどうしようかと思い悩んでいた。
ただしかし、この階段を見る限り日本の木造建築にかなり近い。踏板を支える両側のササラ桁などはしっかり溝が掘ってあって仕上げが綺麗だ。
「ここは……だが、親善大使様は特別だから、邪険にする者はいないだろう」
上り終わりはしっかり寸法を控えて梁にかけているのだろう。2階の廊下との床の仕上がりがスムーズだ。腕のいい技術者はいるのだと期待できる。
「着いたぞ。ここがトモの部屋だ。これが鍵な」
そうして建物を見ているとどうやら部屋に到着したようだ。俺は鍵を受け取った。
「ここに来る前にメイドを使って同室人には知らせてあるから安心して使ってくれ」
「そうか、わかった。ありがとうな」
「礼には及ばん」
少しはにかんだ様子を見せたリンは颯爽とこの場を去って行った。それを見送って俺は鍵を開けた。そしてずんずん中を進む。
「ほう……」
俺は唸った。なんと学生寮にしては贅沢な広さだ。ここはリビングダイニングのように見える。次に俺が開けた個室はがらんどうなので、俺にあてがわれる個室かな? もう1枚の扉が同室人の個室? と言うことは2L? やっぱり贅沢だ。
同室人はいるのだろうか? 俺はもう一室の扉を開けた。
「きゃー!」
俺はすぐに扉を閉めた。あれ? 女の声? そして見てしまった裸体。あれ? 気のせい?
俺はそのままリビングのソファーに腰かけた。幻でも見たのだろうか? 確かに女と思われる人物が綺麗な肌を晒してパンツ一枚でいた。柔らかそうで手に余りそうなお椀だった。先端2つもしっかり見たが、色、形ともに綺麗だった。
「はっ!?」
やっぱり女だ。冷や汗が伝う。謝らなければ。けどまだ服を着ていないかもしれない。て言うか、ここ女子棟じゃん。リン、間違えてるよ。
するとそっと問題のドアが開いた。俺は恐る恐る首を回しその方向を見る。本当に申し訳ないことをした。
「あのぉ……」
「すいません!」
「い、いえ! そうじゃなくて!」
慌てたように出てきたのはやはり女子だった。俯いていて髪で表情が隠れているのであまり顔がわからない。ただ髪から覗かせる耳は真っ赤だ。既に服は着ている。
俺は立ち上がり畏まった。
「すいません。突然でびっくりして大きな声を出してしまいました」
「いえ。こちらこそ部屋を間違えたみたいで、しかもノックもせずに……」
「え? 親善大使様じゃないんですか?」
少しだけ彼女の目が見えた。あれ? どこかで?
「違うんですか?」
「いえ。そう呼ばれている池脇智弘です」
「きゃー! やっぱり!」
「おふっ」
すると勢いよく抱き着いてきたその女の子。先ほど拝んだお椀が俺の腹で潰れる。
「あっ! すいません!」
すると正気を取り戻したのか女の子は慌てて離れた。しかし今度はしっかり顔を俺に向けた。
「私、フタバ・スミダです」
「え? えええええ!」
その顔と名前……俺は驚いた。
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