第5話 とっぴな事件
第6話 とっぴな事件
会議と言うと、昼間が多いのだが、この会社では違うのだ。
夜中だった。
さすがに残業で会議はつらいものだが、仲間がいると、ささやかな夕食を食べながらだから、我慢もできるものである。
しかし、優良な企業はささやかさが違う。
食事は、取り寄せのコース料理。すばらしいものだった。
「社長、今回は何を調べていたんですか?」
若手の男性研究員が、味を楽しんでいたかは疑問だが、一番に食べ終えてから、初めて今回の会議の内容を聞いた。
「いやぁ、ここ数年のありえない事件特集を調べていたんだが、おもしろいよ」
「それいいですね。いつの話ですか?」
「もう、ずっと昔の話でねぇ。記録を調べていたところだよ。みんな、ゆっくりコーヒーを飲みながら聞いてくれたまえ」
事の始まりは、一組の夫婦であった。
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「あなた、やめて! ごめんなさい」
まず、妻がなげとばされて、今夜も始まった。
「あたりまえだ! だれが食わせていると思ってるんだ」
彼女はただ、夕食の買い物が15分遅くなっただけで、なぐられていた。
夫は頭も秀才だし、社長だし、ハンサムで金持ちでもある。
ただ、外面はおだやかに見えるのに、暴力を振るう人とわかったのは、
結婚してすぐだったのだが、妻は誰にも話す勇気がなかった。
「許して下さい。もうしません」
「何でも許せるならケイサツはいらないんだよ。 オラッー!」
理由は何でも良かったのかもしれない。きっかけがあれば、よかったのだ。
本来、掃除に使うはずの掃除機で、今回はなぐられそうだ。
今だけ、ガマンしてなぐられたら、あとでゆっくり休める。きっと、休めるから・・・。
と、彼女は1回目の足をなぐられて、次を覚悟してじっとしていた。
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プッツン!
このタイミング? と言う時、二人の頭の中で音がしたのだ。
実は、これがこのとっぴな事件のはじまりだった。
その音が何だったのか、はっきりわからないのだが、
頭の血管が破裂して血液が広がっている感覚と、首すじをあたたかいものが流れた気がした。と、あとで聞くと大勢がそう証言している。
ちょうど、夫は掃除機のノズルを、振りおろし、妻はノズルが頭にあたれば、
正直出血するかもしれない。と、覚悟して目を閉じていたところだった。
プッツン!
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すると、床に転がっていたはずの妻が、じつは自分を見下ろして、
妻自身の頭めがけて、ノズルを振り下ろしていたから驚いてしまった。
いっぽう、
「いたい!」と、叫んだのは妻でなく夫であった。いや、
今まで妻を見おろしていたのに、見上げたら自分が掃除機で殴り掛かってきたから、ややこしい。
古いDVDを取り出して、社長が言った。
「だが、事件はそこだけでは、おさまらなかったんだ。この、ニュースを見てくれたまえ」
「わたくしOOが、現場からお伝えします。入れ替わりの事件は流行しています。
とうとう殺人未遂事件までおこり、容疑者はパニクっています」
「私が、私を刺してしまったわ。どうしよう!」
「現場は混乱しています。なぜ、こうなったのか、わかりません。とりあえずマスクをしてください。ちょっと、カメラ! どこ向いてんのよ!」
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プッツン!
TVの画面で、アナウンサーが、困惑している。
「??? やだぁ、どうしちゃったのかしら? 私、さっきまで運転してたんですが、この女性と入れ替わってしまったわ! オレの体はどこにあるんだよ」
うしろで、叫びながらコンビニへ突っ込んだ運転手が、
女言葉で言い訳をしていた。
「どうやら、人前では温厚そうな人ほど、このとっぴな事件には多かったんだ」
「で、その後どうなったんでしょうか? おもしろい事もあるのねぇ。」
「うがい、マスクの推奨。そして、みんな出かけないようになったんだが、一週間ほどで収まったんだ。」
「風邪じゃあ、あるまいし・・・。それで? 入れ替わった人たちのその後も気になりますね。」
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「あぁ、最初の事件の、夫婦の話が残っていたんだ」
「妻になった夫は、もとに戻った後女性になったらしい。がまんにがまんして、
八つ当たりしてたらしいんだ。とても、悪いことをしたと供述しているよ。」
「へぇ、そうなんですか。では、奥さんはどうなったんですか?」
「夫目線で、妻を殴ってしまった妻は、殴るのが、快感になったんだよ。」
そうなのだ。誰もがそうなったわけではないが、
この事件がきっかけで、生き方が大きく変わってしまった人達がいた。
たまたま結婚したばかりの最初の彼女たちは、離婚できなかっただけの夫婦である。
それからの彼女は、努力の人と呼ばれた。
夫が女性になって、子供もいないし、居場所がなくなったからと、自立したのだ。
ボクシング、合気道、剣道、柔道を始めて、護身術を習った。
「彼女が、この研究所の創立者。ぼくの祖母なんだよ」
「えぇ!」
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それは知っていたが、そんな経緯があったなんてと、若手研究員たちは驚いた。
「さて、そこでだ。君たちに相談がある。そんなきっかけを、体験してみないかね。今度、認可がおりそうなんだよね。内緒で体験してみるのも経験だ。それに・・・データが、もっと必要なんだよなぁ・・・。」
何人かが手をあげたが・・・。そこから先はまだ企業秘密というものだ。
だ・か・ら、教えられないのだ。
おわり
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ショート、ショート。2. 村上 K @murasakidaisuki-yuyu55kk
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