第4話 緑の世界
第5話 緑の世界
西暦3016年。
ビジネス界は、随分と様変わりをしていた。
スタイル抜群のツアーコンダクターの女性が、案内の旗をもって小さなケースの前で、私たちに手招きをしている。
人工皮膚が進歩しているので、
この頃はロボットなのか人間なのか見分けがつかない。
しかし、質問をするとすぐに答えてくれるシステムはあるのだ。
事前のあいさつで、子どもたちがロボットだと聞いて喜んでいた。
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これから、旅行だというのに、ここは、空港ではなくビルの中である。
地球には森林がなくなり、水は地下にもぐり、地上は砂嵐が吹き荒れていた。
飛行機なるものは、随分昔になくなっているのだ。
「ようこそ! 申し込みいただきました。こちらがサバイバル旅行コーナーです。」
ツアーの総勢は15人。まぁまぁの人数だった。
人が多すぎると待遇もゆき届かないのだろう。
彼女は笑顔もステキに笑った。ニコッ! 人工の皮膚は、まさにすばらしい。
「では、これからの予定を、ひととおり確認いたしましょう」
ケースの中には、ミニチュアの島があり、山の上にはホテルが見えた。
よくよく見ると、ホテルの中では人が慌ただしく掃除をしているのだが、
参加者はみな、彼女の話にうわの空もようだ。
「みなさん! 聞いてください」
彼らは、目の前で見える人口の雲から降りそそぐ、雨にみとれていたのだった。
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「わぁ・・ここへ、行くんだね!」
子ども達が、はしゃいで彼女に話をしている。
「今から、ケースの中へ出発するわけですが、ライトをあびる順番を必ず守ってください! それから、このツアーの期限は、6日間です!」
人間を小さくする技術は、そうとう進化していた。
「この、6日間は、とても重要なんです。違反すると罪になります。
賠償金は身体で払うことになります」
人々の、ワクワクする姿は、このビルのあちらこちらであふれている。
違反やら罪の言葉が、どこまで耳に入っているのかわからないが、彼らはうんうんと頷いていた。
山登りやら、川下り。
世界旅行やら、キャンプのツアーが、彼らをまっているのだから当たり前だった。
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「くれぐれも、6日後には・・・」
のんびりした、ムードが突然変わったのは、その時だった。
けたたましく、となりのコーナーからサイレンが鳴りだすと、数人のスタッフが、あたふたしていた。
「支配人! また一人、姿が見えなくなりました」
「また錯覚をおこしたのか!」
「はい。このまま、島に住むと言い張りまして、逃げてしまったんです」
「どうなるのか、教えなかったのか?」
「説明したはずなんですが、信じないんです」
ほどなく、並んだケースの一つから男性の足がとび出してきた。そのあと、
頭と、両手がガラスを突き破って飛び出してきた。
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「あぁ、だからいったのに~」
若い、社員たちが血だらけの男性を、引っ張り出していた。が、その後、
次から次へと、動物やら人が、飛び出して逃げ惑っていた。
彼女は、無表情で説明をつづけた。
「だ・か・ら・このツアーの心配な所は、6日の間に、この世界が本物と錯覚をおこすことなのです。みなさんは気をつけて下さいね。こうなりますから。」
10分後。
男性はどこかへ連行されて行き、後片付けが終わっていた。
「ね、あの男の人、どうなるのかな? ロボットママ」
一人の子どもが言った。
「そんな事、子どもは知らなくていいのよ。さぁ、ケースの中へ行くわよ」
「うん、わかった」
会場には、また新しいケースが置かれて、新しい団体が集まっている。
何事もなかったのように、時は過ぎていた。
おわり
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