ショート、ショート。2.
村上 K
第4話 恋人
「りょう? やっと、みつけたぁ!」
彼女が言った。
男は、僕たちを見て言った。
「えっ・・・。なんで?」
「だって、3年ぶり? じゃなーい。あなたとっても元気そうね、」
「お前も、げ、元気そうじゃないか? 元気なんだよな」
なぜか、男は顔をひきつらせている。
「あなた、にげるから。ほんとうに困ったの。」
そうなんだ。この男だったのか。
彼女が探していた人は・・・。
ぼくは、理解した。
「で? ど、どうして、ここにいる・んだ・い?」
言葉が、どもっている。
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「あら、連れてきてもらったのよ。彼に・・・。ありがとう。みつるくん」
カラオケ店。
楽しむには、もってこいの場所だ。ふつう、知り合いならば、
もっと、笑顔がでるかするはずだが、のっけからこの男はぼくを、キイッ!
と、するどい目でにらみつけた。
「待ち合わせをしてるんだよ! だから、二人とも、はずしてくんない?」
それは困る。今、来たばかりなのだ。特に二人ともは絶対に困る。が、
「あら、それは困るのよ。」
彼女も同意見らしい。
「あの時は、誰も助けてくれなかったんだもの。今は、あなたしかいないのよ」
シャンとした身だしなみの彼女は、どこか、薄汚れた感がたまにでる。
薄暗いカラオケボックスの明かりと、たばこの臭いばかりのせいだけではない。
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いっぽう、男の声は、あらっぽくなってきた。
「2人とも、かえれよ! 迷惑なんだからさ」
「そんなの、ダメよぉ。あなたには、貸しがあるもの」
低い声で彼女は、負けじと言った。
「貸しなんてないし! 元気ならさっさと、消えてくれ。ジャマなんだよ」
彼は彼女を振り払った。が、彼女はうまくよけていた。
「あーら。あたしの、ブルガリし盗ったじゃない。しかもあなた、悪い人よねぇ。あたしの友達にはケンって、名前使って騙してたでしょう。名前はいくつあるのか気になるのぉ~・・・。」
「どこに、そんな証拠があるんだよ。昔のことだろう? もう時効だぜ」
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男が今つけているのは、高価なロレックスだった。
「何を言ってんだか、さっぱりわかんねぇ。まったく」
こういう場合、ただのケンカならばさっさと帰るべきかと悩むのだが・・・。
「あーっ。見ろよ。この男が、手につけているじゃないか。」
そうなのだ。だから、僕はここにきているのだ。
「だってあなたね、あの時あたしの首しめたでしょ。」
「な、何を言いだしてるんだよ? 誰が、信じるっていうんだよ。彼氏に誤解されるじゃないか」
こんな時、「あの・・・僕は、彼氏ではないです」と、言うのは簡単だが
彼女の邪魔はしたくなかった。
「いやぁねぇ~、話をそらしてもダメよ。まだ傷が残ってるのよ。ほら見てよ、ここ」
「あぁ、もう! 3年も、前のはなしだろ。まだ残っているはずないじゃん!」
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「じゃあ、これはなにかなぁ~、黒くなっているのよ。ほらぁ」
彼は、横を向いて彼女を振り払って答えている。しかし、彼女は怯まなかった。
確かに首に絞められたはずの跡がある。
話の内容は、ヒートアップしてきた。ここで、ドアが開いてる事に気づいた店員が、何事かと申し訳なさそうに入ってきた。部屋の空気が変わった。
「あのう。怒鳴り声がしていますが、どうかなさいましたか?」
店員は、僕に近よってきた。いや、その時は僕しか目に入らなかったらしい。
「いえ、あの、その・・・。」
「?」
店員はすぐに困った顔をした。
男性がもう一人。壁に向かい、しゃべっているからだ。
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しかたがない。今回も僕が説明しなければならないのだ。
「いやぁ。どうも、この男性。警察に行かなきゃ! て、先ほどから叫んでいたんです。・・・でも・・・まずは、病院行きでしょうかねぇ? 壁と話をしているし。」
ぼくは、買ってから3年。
はずされるのを嫌がる時計を、やっと手首からとることができた。
「これ、彼のものです。」
おわり
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