第11話みっちゃんと、だるまさん
村上 母
おやつの時間です。
お茶が2つ。和菓子が2つ。
だるまさんとみっちゃんは、向き合って座っています。
遊びながらは、楽しいのですよね。
「だるまさん、だるまさん! にらめっこしましょ。笑うと負けよ。あっぷっぷ!」
だるまさんはいつもべろをだして、変顔がじょうずなのでにらめっこは強いです。
だけど心やさしいから、たまーにでなくて、いつも負けてあげます。
「あっぷっぷ!」
みっちゃんに、お友だちができたのは、いつからだったのかわかりません。
ただ、気がついたらいつも、だるまさんがそばにいてくれました。
みっちゃんが言いました。
「だるまさん! ななころび、やおきってなーに?」
「それはねぇ、7回転んでも8回目はおきる。
転んだままではなく、何回失敗してもあきらめずにがんばることだよ。
だから、こんなにゴロンゴロンしても~」と、言いながら、
だるまさんは7回転んだら、目が回って、おき上がれなくなりました。
だ・か・ら、みっちゃんが手伝いました。
「ほらぁ、7回もころんだら、みんなが見てるから、
誰かが助けて8回目はおこしてくれるんだよ!」
「そうか!」
みっちゃんと、だるまさんはニコニコ笑いました。
3時のおやつは今日も、おいしかった!
あれから、八十年。
だるまさんは、すすけた感じですが、みつよさんのそばにいました。
「もう、そろそろ私も逝かなくちゃならないわ!」
病院にはそぐわないだるまさんが、ベッドの横のイスに置いてありました。
「大丈夫だよ。ちゃんと、ついててあげるから。」
「ありがとう。あなたとは、私の家族よりも長いつきあいになったわねぇ。」
「そうだね、あはは!」
笑ったものの、だるまさんはおこっていました。
(こんな時ぐらい。子やら孫やら、顔を見せにきてもいいだろうに・・・。)
しかしみつよさんは、心配していました。
「だるまさん。私が逝っちゃったら、どうするの? 捨てられちゃうかしら?」
「大丈夫だよ。友達はたくさんいるから。」
それからだるまさんは、美人の女子大生の話やら、
不倫中のOLさんの話やら、
中学生に最近の流行を教えてもらってる事だとか、話をしてくれました。
「もう、だるまさんたら、おもしろいのね・・・おともだちって、
女の子ばかりなのねぇ。ふふふっ」
息苦しそうに、みつよさんは、笑いました。
「じつはだねぇ、みっちゃん。ちょっと、見てくれよ」
だるまさんは、ぴょーん。と、イスから飛びおりましたから、
さすがのみつよさんも、これには驚きまた。
だるまさんには、あるはずのない手と足が、ひょいとでてきたからです。
「こんなだからさ、よなよなうろつき回っても、誰にも会わないんだよ。へへっ!」
たとえば、霊安室の探検とか、繁華街の研究とか、
たとえば、普通の人にはいつの間にか姿が見えなくなった事だとか
、たくさん教えてくれました。
「つくも神って、知ってるかい?」
その晩みつよさんは、眠るように、笑いながら逝ってしまいました。
けれど、だるまさんがこつぜんと消えてしまっても、
誰も気にする人はいませんでした。
1か月後。
だるまさんは、船に乗って大西洋の上でした。
親友のみつよさんがいなくなって、だるまさんは港へ行きました。
そして、みつよさんが乗ってみたいと言っていたこの、
豪華客船に乗り込んだのです。
しかし、船長さんも、船員さんにも、
こっそりいただいているフランス料理が得意なシェフにも、
だるまさんは見つかりませんでした。
お昼は、甲板で昼寝です。
夜は、レストランのピアノにあわせて、ダンスの練習をしたりして楽しみました。
その日、だるまさんは、飛んでくるカモメに、
カモメ用のおやつをあげながら、ふと、みつよさんの事を思い出していました。
青い空に浮かんだ雲が何となくみつよさんに見えてきたからです。
(今頃、天国で何してるんだろうな?)
その時です。
ふと、こちらを見ている男の子と、目が合いました。
ジーッ。
「・・・。」
「赤い顔のおじさん。何してんの?」
「青い目の君、わしが見えるんかい?」
「面白いおじさん! 顔にペイントがついてるよ」
「うむ、これはなぁ。これが、わしの顔なんだなぁ。わぁはっはぁ! わしと、友だちになるかい?」
「いいよ」
「にらめっこ、って、知ってるかい?
だーるまさん、だーるまさん。って歌うんだよ。教えてあげよう」
空はカラリと晴れ渡り、空に浮かんだみつよさんの白い雲が、笑っているようでした。
おわり
わがままショート、ショート。3 村上 K @murasakidaisuki-yuyu55kk
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