第9話 永遠の夢、永遠の希望
村上 母
「永遠の希望、若がえりの薬新発売」
号外新聞がでたのは、世の中が変わる年末のある夜の事だった。
「そんな物があるなら、見せてみろ!」
道行く人は、みんな興味はあるが誰も信じないのは見てとれた。
新聞を配っている青年に、よっぱらいがからんでも
誰も気にする人はいないのである。
しかし、酔っぱらいは次の日起きると、子供になっていた。
いくら何でも若すぎるだろう。
「もう一度やり直すなら13才からが理想的。」と、
持ち帰った新聞には、そう書いてあったではないか。
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ところが、困ったことに、
いつもと違う布団の雰囲気に、運悪く妻がとび起きてしまったのだ。
「がぁ~! お・男が布団の中に入り込んで、あたしに抱きついているのよぉ!」
あたりまえだった。まさかの13才の少年なのだが、男は男だ。
となりに寝ていたからには、年齢はこの際関係ないらしい。
大騒ぎになると、
何を言っても無駄で、本当の子供たちに投げ飛ばされて、
最寄りの警察署へと連れていかれてしまった。
しかしもっと困ることが、そこでは待っていた。
いくら名前を言っても誰も信じないのである。
年齢なんて、もちろん信じてもらえない。
これでは、未来の夢どころか、希望も感じないではないか?。
「何が若がえりだ!」
涙がホロリとおちた。
冷めた留置場の中で、裸足の足を見ながらほんとうにホロリとおちた・・・。
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そこへ、大きなものが顔をめがけて飛んできた。
「あいたぁ!」
こんどこそ飛びおきて顔をさわると、見なれた妻の丸々とした手が
こんどこそ顔の上に乗っていた。
夢だったのか?
試しに妻のデカい足もさわってみた。
確かにデカいが、愛する我が愛しの妻の足の感触だった。
だが、今はもっと先に確かめるべき事がある。
洗面所へ行き鏡を見ると、45才の自分の、
鼻血のついた顔がそこにあった。
よかったぁ、夢か。だが男は考えた。
うっすらと、疲れがたまっている40代の男のむくんだ顔だ。
瞼もふくれ充血している、ひげも気になる。
若いころに描いた生活は、こんなはずではなかったのに・・・。
「やり直すなら、13才からか・・・。」
充分な準備をして中学校からやり直せるなら、夢のような計画ではないか。
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この経験をもう1度やり直せるのなら、もっと、
もっといい生活ができるかもしれないじゃないか?
探さなくては、もらったはずのあの瓶はまだ家のどこかにあるはずだ。
探さなくては。どこへ置いたのだろう。
確かに、もらったはずだ。
確かに覚えている。
飲みながら、返ったのだから。
今から考えれば、無謀だったのかもしれない。
見ず知らずの飲み物だったのだ。
毒が入っていてもおかしくはないのに。
「フフフッ」
何となく、笑いがでた。そして、家中を朝から探し回った。
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しかし、どこを探してもあの人ビンは見当たらなかった。
帰る途中でどこかへ、投げ捨てたのかもしれない。
それならば、あの新聞を探して詳しく見てみよう。いや、
パソコンにニュースがまだ出ているかもしれない。
男は正月の間、ずっとパソコンの前に座ったまま動かないでいた。
しかし、何処にも彼が探すニュースは見当たらなかった。
休みが明けても、そのままだった。
風呂に入るのも、ひげをそるのも忘れたかのようにそのままだった。
「あなた~」「あなたっ」「あなた!」「あっ、なっ、たっ!」
もしも、あなただったらどうするだろうか?
自分の夫の背中を見ながら、
妻がどんな気持ちで毎日を過ごしているのか? 考えた事なんてない。
他人の家の事は、わからない。
しかし、妻も元は他人なのだ。
これから、どうしてくれようか? と、
心の内も、目を見ていなければ多少は
わかるものなのだろうが・・・
彼は考えようとは・・・していない・・・のだった。
おわり
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