第二話 小さな天使

第2話 小さな天使


世の中には、勢いが必要な時がある。

それが、いつなのか?

わかれば、誰も苦労はしないだろう。

たとえば、この朝陽がいい例だった。


スーッ と、手が切れた。

というか、指先が、まとめかけた会議用の書類で、切れただけだったのだが、

今の朝陽には、涙がにじむほど大ごとで、疲れていた。

思えば、これが災難のはじまりだったのかもしれない。

しかも、


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「あいたたた」

足が上がらず、何もない所でこけてしまったわけで、

医務室へ行くほどでもあるまいに・・・。

幸い廊下には誰もいなかったので、恥ずかしさは免れた。

「あーあ」

(疲れてるなぁ・・・。さっきは、自販機の前で百円玉を落としたし、

週末までは、まだあるし。土曜日は、思いきり寝てやる!)

と、ひとりごちた時だった。

一般人は、こんな経験があるだろうか?

ふと、目についたものを、ふりかえって二度見してしまう。事だ。

この朝陽には、これが初めての二度見だった。


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「ん ?」


また、寝ころぶほどに、見る価値があるかはわからないが、

ふいっと、見上げた時。

たまたまそこに天使がいただけなのだ。

5才? 位の男の子。ん? 

この場所にいる?

頭に、わっかがあるし、光っているから天使だろう。と、直観が、そう言った。

だが、この朝陽の良い所は、何事にも動じないところだった。

「やっぱり、つかれてるな」

さっさと、仕事に戻ってしまったのだった。


しかし、幻覚はさらにつづいた。

たとえば、社訓の額縁のなかで天使が笑うとか。


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たとえば、給湯室のシンクの中で天使が、お湯につかっていたり、

壁の中を出たり入ったりなんて、ありえないし・・・。

ポスターまでもが、すべて天使にかわってるし。

しまいには、車のミラーの中からのぞくなんて。ありえないだろう。


「とうとう、妄想まで見え始めたか、」

朝陽の独りごとを、たまたまその天使は読み取って、

言葉を、返してきた。

「別に、ゲンカクではないよ」


「しゃべるんかい?」

子供のくせに、なんというタメ口で、しかも声は大人。


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「そうダヨ。だって、ほんとうに天使だから」

何も、壁にぶつかる前に言わなくてもいいではないか?

どうせなら、危ないと、言ってくれ!


朝陽は倒れてしまった。

(今度、目が覚めた時はどうか、普通でありますように。オレの、あ・た・ま)

夢の中で考えながら、さまよっていると、あの天使がでてきた。


「おまえなぁ。自分の限界を知らなきゃなぁ。少しは大事にしろよ。

倒れそうだから、でてきてあげたのぉ。 お前の、息子のすがたでな。

彼女、悩んでるぞ。今すぐ、電話しろ。いや、家まで行ってみろや」


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パチッ っと、目が覚めた時。浮かんだ言葉があった。

「あとは、自分で考えろや」 

気がつけば、もう、土曜日だった。

忙しさにかまけて、しばらく彼女とは会ってなかった。

「会いたい。」

朝陽は、久しぶりにスマホをいじりながらドキドキが止まらないでいた。


その後、どうなったかは、想像してくれ。

なんせわしは、天使だから先の事が見える。だが、なんでもは教えんのじゃ。


   おわり


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