ショートショート
村上 K
第1話 悪い人
彼女は泣きながら、話をはじめた。
「あの男、私に新婚旅行用の下着を買わせていたんです。いつの間にか、不倫女にされていました。」
「そりゃあ、悪い男だ・・・。」
「だから、ゆるせないの!」
「なるほど」
「フランスで結婚していたんです。しかも・・・私の、後輩と」
「そうだったんですか・・・でもよくわかったねぇ? 彼がフランスにいたって」
「それは・・・」
「それは?」
「携帯に、全地球型測位システムをつけていたんです。」
「?? それは、どんな物なんですか?」
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「ほら、今流行りのGPSですよ。調べたら、まさかのまさか、フランスにいたのよ・・・ううう~」
「そうなの? しかしあなたも、負けずにストーカーみたいな事していたんだねぇ。」
「だってぇ」
「だって?」
「心配だったのよ」
「しんぱい?」
「何となくって、不安な気持ちってわかる? だからいつも、行動が知りたくて。」
「そりゃあ男の気持ちも、わからんでもないな・・・どっちもどっちでしょうなぁ。
お付き合いには、信頼もだいじですからねぇ。」
「ちょっと、あんた! どっちのみかたなのよ。理由を聞くからはなしたんでしょうが」
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彼女は、立ち上がって叫んだ。
心なしか、また身長も伸びているような気がする。
「まぁまぁ、お気持ちはわかりますが。あんまり怒ると、また、その頭のモノがのびますからね」
彼女は、あわてて頭の上の硬くでっぱったモノをさわると、
ギョッ! としていた。
「え? いやー! またのびているわ」
だから、私は言った。
「だから言いましたでしょう。その、お怒りを抑えないと、鬼化がすすみますからって」
最近の患者は、特に赤くなったり青くなったりだ。
「先生、すぐに手術して! 今してぇ! これが取れないと、街も歩けませんわ」
「そうですね。では、1週間分だけ削っておきましょう。手術しても、又はえてきますから」
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「し、仕方ありません。では・・・、早くけずってよ!」
「しかし、あなたはもう化けれるんですがねぇ・・・。」
「え? どういうことですの先生?」
「何にでもなれるって事ですよ。それが、この病気の特徴なんです」
「そんなの、聞いたことがないわ」
「それはそうでしょう。誰でも自分の病気は隠したがるものなんです。では、ちょっと練習をしてみますか。テレビでよく見る美人のアナウンサーとか、女優さんとかに変身してみませんか?」
「でも、練習なんて・・・、どうやって変われるんですか?」
「ただ、へんしーん。でも、えいっ! でも、いいんです。頭に浮かべればね。」
「わかったわ、やってみます。へんしーん!」
「だから、叫ばなくても化けれるって。ほらぁ、もう変わっているではないですか」
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彼女は鏡をとり出して、顔を確かめた。
「すごい! ほんとうに化けれているわ。角も目立たないし」
「でしょう。では、次は金魚に化けてみましょうか? れんしゅう、れんしゅう」
「そうね、えい!」
(だから、叫ばなくても化けれると言ってるのに。)
ポチャン!
金魚は小さな瓶に入れられて、フタをされてしまった・・・。
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鬼化は静かに広まっている。
だからこの診療所も、静かに繁盛しているのだ。
何故に広まっているのかは、あえて言うまい。
今夜もまた、
コウモリ型ロケットが成層圏をぬけて、外気圏から宇宙空間へ飛び立った。
世にも不思議な、角がある元人間金魚は、宇宙では高価な値段で売れるのだ。
おわり
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