ショートショート

村上 K

第1話 悪い人


 彼女は泣きながら、話をはじめた。


「あの男、私に新婚旅行用の下着を買わせていたんです。いつの間にか、不倫女にされていました。」

「そりゃあ、悪い男だ・・・。」

「だから、ゆるせないの!」

「なるほど」

「フランスで結婚していたんです。しかも・・・私の、後輩と」

「そうだったんですか・・・でもよくわかったねぇ? 彼がフランスにいたって」

「それは・・・」

「それは?」

「携帯に、全地球型測位システムをつけていたんです。」

「?? それは、どんな物なんですか?」


===================================


「ほら、今流行りのGPSですよ。調べたら、まさかのまさか、フランスにいたのよ・・・ううう~」

「そうなの? しかしあなたも、負けずにストーカーみたいな事していたんだねぇ。」

「だってぇ」

「だって?」

「心配だったのよ」

「しんぱい?」

「何となくって、不安な気持ちってわかる? だからいつも、行動が知りたくて。」

「そりゃあ男の気持ちも、わからんでもないな・・・どっちもどっちでしょうなぁ。

お付き合いには、信頼もだいじですからねぇ。」

「ちょっと、あんた! どっちのみかたなのよ。理由を聞くからはなしたんでしょうが」


=====================================


 彼女は、立ち上がって叫んだ。

心なしか、また身長も伸びているような気がする。

「まぁまぁ、お気持ちはわかりますが。あんまり怒ると、また、その頭のモノがのびますからね」

彼女は、あわてて頭の上の硬くでっぱったモノをさわると、

ギョッ! としていた。

「え? いやー! またのびているわ」

だから、私は言った。

「だから言いましたでしょう。その、お怒りを抑えないと、鬼化がすすみますからって」

最近の患者は、特に赤くなったり青くなったりだ。

「先生、すぐに手術して! 今してぇ! これが取れないと、街も歩けませんわ」

「そうですね。では、1週間分だけ削っておきましょう。手術しても、又はえてきますから」


=========================================


「し、仕方ありません。では・・・、早くけずってよ!」


「しかし、あなたはもう化けれるんですがねぇ・・・。」

「え? どういうことですの先生?」

「何にでもなれるって事ですよ。それが、この病気の特徴なんです」

「そんなの、聞いたことがないわ」

「それはそうでしょう。誰でも自分の病気は隠したがるものなんです。では、ちょっと練習をしてみますか。テレビでよく見る美人のアナウンサーとか、女優さんとかに変身してみませんか?」

「でも、練習なんて・・・、どうやって変われるんですか?」

「ただ、へんしーん。でも、えいっ! でも、いいんです。頭に浮かべればね。」

「わかったわ、やってみます。へんしーん!」

「だから、叫ばなくても化けれるって。ほらぁ、もう変わっているではないですか」


===========================================


 彼女は鏡をとり出して、顔を確かめた。


「すごい! ほんとうに化けれているわ。角も目立たないし」

「でしょう。では、次は金魚に化けてみましょうか? れんしゅう、れんしゅう」

「そうね、えい!」

(だから、叫ばなくても化けれると言ってるのに。)


ポチャン!

金魚は小さな瓶に入れられて、フタをされてしまった・・・。


=====================================


 鬼化は静かに広まっている。

だからこの診療所も、静かに繁盛しているのだ。

何故に広まっているのかは、あえて言うまい。

今夜もまた、

コウモリ型ロケットが成層圏をぬけて、外気圏から宇宙空間へ飛び立った。

世にも不思議な、角がある元人間金魚は、宇宙では高価な値段で売れるのだ。


                            おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る