*ただしイケメンに((ry問題 part3

「キンモクセイを嗅がせる群と嗅がせない群の2群に分けて…」

岩口はホワイトボードに2×2の表を書き始めた。

「プレとポストで唾液を採取し,コルチゾールの変化量の差を2群で比較するという感じですかね」

コルチゾールとは人がストレスを感じた際に放出されるホルモンだ。唾液中に含まれる当ホルモン量でストレスを量的に計測することが出来る。

「実験の要因はそれだけだと面白くないよねー」

館先生は茶化すように言う。

「性別足すとかでいいんじゃないですか?」

「中山君それはありきたりだよ」

一刀両断。

「じゃあ,トイレの画像を対呈示する群と仙台の町並みを対呈示するとかどうでしょう」

「あー文脈効果ねえ,ありかもしれない」

館先生としては思い付きとしてはまあ,悪くなかったのかもしれない。

「でもそれって交互作用めっちゃでそうですよね」

岩口がそうつぶやくと,ラウンジの扉が開いた。

「あれ,めっちゃ人いる。館先生まで」

黒髪ロングの前髪ぱっつんという一部の層に熱狂的需要がありそうな女の子が入ってきた。確か一年生だったと思う。歓迎会はバイトと被ったので,名前はよくわからない。

「ひ,平野さん,いらっしゃい…」

マスター岩口はニヤニヤしている。

「で,交互作用ってなんですかー」

「『ただしイケメンに限る』ってスラング知ってる?同じ行為をしても顔面偏差値によって受け取り手の評価が変わるって現象の形容なんだけど」

地味に無視された岩口が早口で説明する。

「それと同じように,2要因以上の実験で要因同士の組み合わせで効果が変わることを『交互作用』っていうんだよー」

岩口渾身のドヤ顔である。

「平野さん,岩口くんの説明で理解できた?」

「よくわからないですけど,不細工よりはイケメンがいいですね」

「この関学の先生のHPわかりやすいよ」

スマホの画面を平野さんに向ける。平野さんのまつげは1㎝ぐらいありそうだ。

「”交互作用効果とは,要因の効果が,別の要因によって変化することを指します…”」

平野さんが読み上げ始める。

 「”男性はコーヒーのほうが好きだけど,女性は紅茶のほうが好き,という結果が得られているのがわかります。つまり,飲み物の効果が性別によって違う”

 ”最近だと,『恋愛はお金じゃない,ただし,イケメンに限る』なんていう(酷い)言い方がネットでよく言われます。これも交互作用効果の典型例です。”」

「あーだから岩口先輩,イケメンがどうとかいってたんですねー」

「確かに,若くてカッコいい准教授の講義の方が,年寄りでよぼよぼの教授の講義より学生の評価高いもんな…」

来年退官される館先生がぼそっと呟く。


ラウンジは水を打ったように静まり返った。



参考:http://norimune.net/1733









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文学部情報知能学科 妙葩 @myoha

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