第3話 クリスマス・フィードバック・リーマンストレッチ
クリスマスイブ。
なのにわたしはイルミネーション煌めく夜の街を走っている。
種々疑問は湧くけれどもしょうがない。
『時給に色つけるから』という成瀬さんの言葉に乗せられた自分が悪い。
「えー。では、当ジム主催のクリスマス恒例、『シングルベル・ランニング』スタートしまーす。皆さん足元に気をつけて完走しましょう!」
『シングルベル』なんていう自虐的なダジャレを冠したこのイベントに該当するインストラクターはわたしだけだった、と、まあそういうことだ。
参加者もいかにも『独り身』という感じの若い男女と、あとは孫たちとの約束にあぶれたご高齢の男女ばかりだ。
コースは嫌がらせのように街屈指のデートスポットをうねうねと蛇行して走る。
しょぼい格好だとみじめさが増すので、全員ビシッとしたランニングウエアにタイツ、本番レース用の高価なシューズでキメている。
夜だというのにサングラスを装着してすれ違うカップルを威嚇するツワモノまでいる。
こんなネガティブなイベントの中で唯一の救いは
「ええの? お父さんお母さんと過ごさんで」
「うん。今日は絶対に
わたしが親元を離れて暮らしていることを気にかけて香奈ちゃん
「みなさーん。親水公園に入りまーす」
わたしがそう言うと集団がざわざわする。
「リア充の巣窟か」
「いいわよね、予約入れられる相手がいて」
親水公園にはお洒落なカフェと三つ星レストランが誘致されておりさらに水面に映えるイルミネーションのセンスがネットで拡散されている。クリスマスの最終兵器と呼ばれるスポットだ。
「女の人も愚痴ってるね」
「そやなー。みんな寂しいんやなー」
「はーい、みなさーん。ここで給水でーす。ストレッチも各自やっておいてくださいねー」
カフェの総ガラス張りの客席からはこちらが丸見えだ。
一応はフルスタイルのランニング集団がお洒落と映るのか、哀れと映るのか。
「
「そうそう、声出してさ」
「一矢むくいたいんだよ、俺は」
常連のシングルリーマンの皆さん(女子も)が、懇願するように言う。
『一矢報いる』の用法は完全に誤用だけれども・・・
「しょうがないなー。じゃあ、整列してください」
そう言ってたまにわたしが余興で常連さんと一緒にやってる、『
「いち・にい・さん・しい、ゴクローサン!」
「はい、ゴクローサン!」
「にいに・さん・しい、腰入れて!」
「おう、こっし入れて!」
「さん・にい・さんし、
30秒と経たないうちにカフェのスタッフがやってきてわたしたちに懇願した。
「すいません。勘弁してください」
香奈ちゃんがお腹を捩って笑っている。
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