双子姫で婚約者を釣る

 時刻は昼。他の巫女はすでに昼食を食べている時間帯だ。

 ついつい話が弾んで長々と話し込んでしまいったリリアナは自室に用意されているであろう食事の為に先を急いだ。しかし、戻った部屋に食事は用意されておらずそこには無表情な世話役の女が一人佇んでいた。通常ならば最低三人の世話役で迎えるはずである。それがいつもと違うパターンであるならば予期せぬアクシデントが起きたのではないかと推測できる。何か問題がなかったか世話役に問おうとしたがその前に女は口を開いた。


 「お勤めご苦労さまでございました。昼食を共にしたいとユーリヒト王子殿下が神殿内の客室の間にてお待ちでございますが、如何致しましょうか?」


 「貴方との食事はお断りしますと伝えておいて」


 「そうおっしゃた場合はアナイシア王女殿下、並びにシライシア王女殿下もご一緒したいといらっしゃっていることを伝えるようにいわれております。既に神殿の客室にてお待ちですが如何致しましょうか?」


 相手が王位継承権二位の王子であっても遠慮なく断っている時点で第一第二王女でも同じ対応ができるが、せっかく来た可愛いらしい双子姫と一緒に食事というのも悪くない。悩んでいると再び世話係が話しかけてきた。


「それで悩まれるようならこの手紙を渡すようにいわれております」


 差し出された封書をしばし見つめていたが、そうしていても手紙が消えるはずもなくただただ世話係の手が疲れるだけである。袋が少し膨らんでいるのも気になり、リリアナは仕方なく受け取り封を切ると一つの鍵が出てきた。中を確認しても他には何も入っていない。


 「殿下は何かおっしゃてた?」


 「はい。双子姫の鍵とおっしゃっておりました」


 「!?行くわ」


 「かしこまりました」


 リリアナの気を変えた訳が不思議でならないだろうに世話係の女は微塵も顔に出さず伝令係に伝えると巫女装束からドレスに着替えるリリアナを手伝った。

 相手の思惑通りというのも気に食わないがユーリヒトの元へと急いで向う足取りがいつもより速く、その勢いで扉を開けた。


 「長らく待たせたようで申し訳ございません(会いたかった‼)」


 「いえ。急に訪ねた私に非があります。本日もお勤めご苦労様でございました(熱烈な歓迎だな)」


 美形はニヤニヤしても美しいというのはこの世界に来て知ったことである。事実、目前の人物を見た世話役数名の瞳がハートから変化していないことが証明している。ただ唯一リリアナだけイラッとしてしまうのはその人柄を知っているせいだろう。


 「労いのお言葉ありがとうございます(お前じゃねーよ。早く持ってきた品を渡しなさい)」


 「当たり前のことを言ったまでです(そんなに急がずともよいではないか)」


 二人の間にバチバチと散るやり取りに控えている者たちは気づいていない。それどころか婚約中ゆえの熱い眼差しのやりとりだと勘違いる。そう思われていることに片方は気づいていないが、もう片方は気づいていても訂正するつもりはない。

 内心詰めが甘い所も可愛らしいと思われていることを本人は知らないだろう。


 「「ずるいわ。兄様ばかり巫女姫様とお話しして私たちもお話ししたいわ」」


 下に視線を落とすとふわふわの金髪に大きな青い瞳、幼さの残る面差しをした女の子が二人。同じ色、形である上に可愛らしい声までも異なることのない双子姫がいた。


 「「巫女姫様、お久しぶりにございます」」


 「アナイシア王女殿下、シライシア王女殿下。お元気そうでなによりでございます。ーーーーが、私の記憶が正しければ先日お会いしたように思いますが?」


 「確かに先日お会いしましたわ。ですが、一日会わないだけで私たちには千日のように長く感じますの。一日千秋の想いですわ」


 「そうですわ。そうですわ」


 視界の片隅で同意するかのように頷いている美形は気のせいだろう。うん、きっと。


 「私達が王城から出るのは基本許されませんわ。それを巫女姫様に会いたいからとお兄様に無理をいって連れて来てもらいましたの。毎日お会いしたい想いをいつも押し込めていますのよ」


 「そうですわ。そうですわ」 


 スルーに対抗してか存在感をアピールするかのように先程より上下に頭を動かしている。

 引き続き気のせいだろうで誤魔化したいが今夜は悪夢にうなされそうだ。オーバー首振りリアル美形人形は恐い。


 交互に説明し相槌を打つ二人の姿は可愛らしいとは思うが言っていることはユーリヒトみたいに黒く感じるのは気のせいだろうか……。


 「フリュドを持っていくのはお兄様の役目ですが今回はこれを利用させていただきましたわ。まっ、当然の権利ですわね」


 「ですわね。ですわね」


 「「うふふふふふ」」


 (やはり黒い!!)


 フリュドとは地球でいうプリンのことだ。この世界には調理スキルというものがある。スキルが必要な品を作ろうとし条件を満たしていなかった場合、調理中の食材は炭と化す。だが、別にスキルを持っている者しか料理ができないという訳ではない。仮にそうだった場合、平民の食事は考えたくもないメニューになっているだろう。

 正確にいえばデザートを作るには調理スキルが必要なのだ。

 デザートを作る料理人はパティーナと呼ばれている。貴族の間ではこのパティーナを雇うことで権力と財を示しているといわれている為、雇用に置いても引く手数多ということはいうまでもないだろう。

 さて、この王家秘匿であるフリュドに関しては通常のパティーナとは異なり固有調理スキルが必要といわれている。シェフも公表されておらず簡単に作ることのできないデザートは何を隠そう前世からの私の大好物である。こちらの世界で初めて口にした時は巫女姫の権力で毎日献上して貰おうかと思ったが、作るにはいくつもの条件があり毎日どころかいつ作れるかもわからない品だと言われた時には思い出してはため息が一週間続いた。その間の天候は今までの経験からいうまでもないだろう。

 ちなみにこの固有調理スキル所有者のことをプロパティーナというのだが、ならばこのプロパティーナだけでも手元に置こうとしたが無理な身分の方だった。

 いや、無理を通せるだけの力は持っているがさすがにデザートでそこまでするのは外見が子どもではあるが大人げないと思ったのだ。しかし、国としてもそのままにしてはおけずに作れた際は必ず献上するということで話がついたのは懐かしい記憶である。


 ふと目をやれば、話している間に料理が運ばれテーブルには様々な品が並べられていた。

 世話係の者に下がるようにいいつければ急に双子姫は先程までとは打って変わってしょんぼりした。


 「「ごめんなさい。急にきて迷惑だった?」」


 口調まで変わって年相応の話し方になっているのは余程心配なのだろう。


 「いいえ、会いに来てくれて嬉しいです」


 「「よかった。それでは作ってきたフリュドをお渡ししますわ」」


 「ありがとうございます」


 「喜んで貰えて何よりです(貴女に会える手段があるなら例え可愛い妹でも利用しますよ)」


 「…………(貴方だけなら荷物だけ貰うのに!この手で来るとは姑息な!!)」


 こうして一見和やかそうに見える食事会は始まった。

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