17.海底王国 と 王女のティアラ

「《ソニックムーブ》《チャージ・スピアー》!」

「《ローカススクエア》!」

「《ファイアウォール》 《ネックハント》!」


アーサーの剛槍が甲羅を貫き、ノーラの二刀による四連撃が鼻の頭に大ダメージを与える。

そして亀の腹の下では【爆発草の種】による爆発が起き、広いうなじにボーナス付きの短剣の攻撃がはいる。

その様は、まさに蹂躙という言葉が正しかった。

そして、【大王亀】が地に伏せる。


『よくやった。主らと刃を交えてわかった。主らに邪な心持ちなどはないだろう。我が責任をもってかの国へと送り届けよう』

「ありがとう、助かる!」

『礼には及ばん、約束を果たすまでよ』

「なんでこの亀ボコボコにされたくせにまだ偉そうに話してんの?」

「もうっ! ノーラはすぐにそういうこと言う! きっと試すためだけだから手加減してくれてたんだよ」

「そうなのかねぇ……」

「ノーラ。ゲームの設定にそこまで詳しさを求めるなよ」

「はいはーい」

『では人間よ、我の甲羅の中に入るが良い』


そうして、【大王亀】の甲羅の一部が開く。


「わお。元からタクシーになる気満々だったんじゃん」

「だーかーらー」


わいわい言いながら甲羅の中へと乗り込み、海底王国へと運ばれていく。


なお、甲羅の中は大きめの車のようであり、ノーラの「タクシー」発言は否定しきれなかったために、アーサーとスプルは微妙な顔をしていた。


そんなこんなで海底王国へと。


『ここが海底王国「アクアリウム」だ。存分に楽しむと良い』

「ああ、助かった!」

『では、また会い見えん』


そして、【大王亀】はまた海を浮上していった。


「よし、じゃあギルド設立クエストとやらをはじめましょうか」

「うん、頑張ろー!」

「待てなんで俺を待たずに……ちょっとー? これでも亀相手にずっと声張ってたから結構疲れてるんだよー?」


MTのレベル第一位も、ノーラの前では形無しである。


「えーと……確か公式のガイドでは……王妃に謁見すればいいんだっけ?」

「そうだよー。まずはお城に向かわないとねー」


そう言って2人と1人は海底王国へと繰り出す。

海底王国「アクアリウム」。

人間ではなく、魚人族の作った国。

周りは半球状の透明なドームに覆われており、中心の王城を囲むように城下町が存在する。

そして、始まりの街と同じく、プレイヤーが購入可能なハウスや、様々に対応したNPC店舗が立ち並ぶ。


「ほぉー。いろんなお店があるんだねー」

「性能は結構良さげだよ。住人の顔が若干キモいのが玉にキズかな」

「まあ魚人、だしな。まだこれでも可愛いほうだと思う」

「そうですか。お、これ何でしょう?」


スプルが露天にあるひとつのアイテムを手に取る。


【オキシボール】

摂取することで海底エリアでの活動が可能になる。*効果時間1時間


「海底エリア、か。多分このアクアリウムから行ける新しいエリアだろう。しかし効果時間が1時間とは短いね」

「馬鹿ね、いくつか買って切れそうになったら新しいのに帰ればいいじゃない」

「確かにそうだ、失念してた」

「買っていきますか?」

「いや、まだいいよ。とりあえずはギルドクエストをこなしていこう」

「ほら、さっさと行くよー」


王城は、なかなかに立派な中世風の城だった。


「この中に入ればいいの?」

「ああ。ただ……」

「え、ちょ、ま、つよ……わぁぁ!」


ノーラは城に入ろうとして衛兵らしき魚人につまみ出された。


「ただ、亀と直接話した俺と一緒にいかないとつまみ出される」

「話くらいは聞くようにします」

「うん、それがいいんじゃないかな」


そして、アーサーと一緒に3人で城に入る。

案内役の魚人が、「謁見の間」へと案内してくれた。


「国王陛下、この度【大王亀】様によってこの国へと足を運ばせていただきました、冒険者のアーサー、スプル、ノーラでございます」

『オオ、ソナタタチガソウデアッタカ。ライホウ、カンゲイスル』

「ありがとうございます」


魚人の言葉は、少し聞き取りづらいが何を言っているかくらいは問題なくわかる。


『デハ、ゾンブンニタノシムガヨイ。ヨハシツムニモド……ッ!』


パリィィィン、と。

窓を突き破り、何者かが謁見の間に侵入してきた。


「二人とも、戦闘準備!」

「了解です!」

「うん!」


侵入者は、国王の横に控えていた王女魚人に魔法を放つ。


「《アクア・バレット》!」


高速の水の弾丸が、王女の手首のティアラを砕き、侵入者の体がドロリ、と崩れる。


「一体何が……」


『ラスプ! ダイジョウブカ!?』

『エエ、カラダノホウハ……シカシオトウサマ、ティアラガコワサレテシマイマシタワ』

『ナニ、ソレデハ「ケイショウノギ」ガオコナエヌ……』


アーサーが、国王に話しかける。


「あの……なにかお困りでしょうか?」

『ボウケンシャドノ。オドロカセテシマイモウシワケナイ……』


王が言うには、こういうことだ。

アクアリウムでは、国を次ぐのが王女派と国王の甥派で分かれており、王女の戴冠には先程壊されたティアラが必要となる。

先程の侵入者は、敵の水魔法使いの眷属で、王女のティアラを破壊し甥に継がせようとした。

まんまと壊されたのは恥ずかしいが、折り入って頼みがある。

このティアラの素材をドロップするボスがいる迷宮に入り、ティアラを作ることの出来る職人を探し出してティアラを納品してほしいと。


『タノメナイダロウカ……』

「いえ、承ります。お任せ下さい」

『カンシャスル。セイコウノアカツキニハデキルカギリノホウビヲアタエヨウ』


クエスト【王女のティアラ】を受注しました。


「この国にあるダンジョンは一つだけだよ! 早くボス倒して王女様にティアラを作ってあげないと!」


意気込むスプル。


「いや、多分このクエほっといても特に問題にはならな……むぐっ」

「ノーラ、せっかくスプルがやる気出してるのに水刺すようなことを言わない」

「へーへーわかりましたー」

「どうしたのー! はやくー!」


3人は、駆け足で海底王国のダンジョンへと向かった。

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