16.騎乗と大王亀

「おぉ、お主ら、儂の頼みを聞いてくれるのか」


海小屋の中のクエストNPCに話しかけると、彼はそう話し始めた。


「ねえスプル、この人って毎回違う人に同じお願いしてるし、絶対もう必要ないよね」

「ゲームとはそういうものなの! そんなこと言わない!」

「NPCの話はちゃんと聞けよー」


NPCからノーラの疑問について返答がないが、もともとNPCはプレイヤーが個別に話すレベルの会話には対応出来ない。

フレアのような存在が特別なだけなのだ。

そのフレアは、ここのところ毎日顔を出しているのでご機嫌で植物の世話をやっている。

昨日からは、PvPイベントで手に入れた植物たちも育ててもらっているところだ。


「……というわけで、【トレントの枝木】を100本集めてほしいのじゃ」

「あ、どういう訳か聞くの忘れた。まあ集めるだけだしいっか」


そう言うノーラをジト目で眺めるスプルとアーサーは、花歌を歌いながら山地エリアへと向かう彼女を追いかけた。



「《トルネード》!」

「《ソード・ダンス》!」


【トレントの木】を守るモンスター、【ワイズマン・コボルド】をアーサーが剛槍で吹き飛ばし、残ったHPをノーラが削り切る。

特にスプルがすることは無かった。

「その分採取でもしててよ」とは言われたのだが、「触ったら全部種になるんだよね」と言ったらすごく優しい目で黙られたので、彼女は2人を遠い目をして離れたところから眺めていた。


「これで100本、っと。よーしスプル! 帰るよー」

「はーい……」


そして十数分後。


「ほれ、これが海馬じゃ。こやつらに乗れば、海を渡ることが出来るぞ」

「うわっー! すごい! かっこいい! 早く乗りたーい!」


落ち込んでいたのも忘れ、海馬に大興奮するスプルの姿があった。


「なんか……娘を見守る母親の気持ちがわかる気がする……」

「奇遇だね。俺もだ」


ノーラとアーサーは、またもや優しい目になっていた。


「二人とも早く早く! 次のクエストに行こー!」


急かすスプルたち一行は、海馬に乗って次のクエストの開始地点である沖の小島へと向かった。



「「きっもちいーっ!」」


潮風を受け、海を駆ける感覚に、スプルだけではなくノーラも完璧に虜になっていた。


「いや、これは凄いね! 気持ちよすぎでしょ!」

「【海馬を駆る者】のおかげで操作はちゃんとガイドが出るし! ずっと乗ってたいね!」


アーサーも、表面上冷静を装っていたが、口元が若干緩んでいた。

だが、まだ女子2人よりは落ち着いているし、周りも見ている。


「2人とも、もうすぐ着くよ」

「「えーーー」」

「名残惜しいのは分かるけど海馬にはこれからも乗れるんだからまた今度にしなよ」


若干ふてくされている女子と少し名残惜しそうにしただけで海馬から降りたアーサーは、小島へと降り立った。


「えーと、これでどうするの?」

「スプル。あのー、なんだっけ。爆発する粒みたいなのあったでしょ。あれを地面でやって」

「了解です。《ファイアショット》」


小島の上で、小爆発が起きる。

すると、


ゴゴゴゴゴゴゴ……と、地響きが鳴り響き。

突如高く盛り上がった小島から3人は振り落とされる。


「わわっ! 落ちるー!」

「ちょっとアーサー、どういうこと!?」

「まあ見てなっ、と」


海面に打ち付けられる直前、体が宙に浮かぶ。


「おお、ファンタジー」


そして、海面上に姿を現した小島「だったもの」の正体は、巨大な亀だった。


『お前達か、我の眠りを妨げるのは!』


目を白黒させる女子勢とは反対に、浮かんだままのアーサーが気丈に応じる。


「眠っているのを邪魔したのは済まない! ただ、一つ頼みがあるんだ!」

『ほう……頼み、とな?』

「ああ、海底王国に連れて行って欲しいんだ!」

『なるほどな。確かに貴様ら人間では我のような存在の力を借りねばかの国には行けまい。だが、我にも信用というものがある。素性のわからぬ輩を運ぶわけにはいかんのだ』

「じゃあ、どうすればいい!」

『ふむ……貴様ら、ボウケンシャという者たちだろう? 戦いを生業とするはずだ。なら、その力を持って我を打ち倒してみよ!』


相手……【大王亀】を中心として、海面がみるみる凍りついていく。

同時に、氷でできたフィールド上に、3人は降ろされた。


「え、えっと、私はどうすれば……」

「ん? あのでっかい亀をを倒せばいいんじゃない?」

「NPCの話は聞けって言っといたはずなのになぁ……」

「何、違うの?」

「いや、倒せばいいってのはあってんだけどね……」


諦めたアーサーは、【大王亀】へと向き直る。


「まあ、それでいいよ。くるぞ!」


相手の突進攻撃。

ノーラは自分で、スプルはアーサーに抱えられて飛び、それを避ける。


「きゃっ!」

「あらかっこいい。でもスプルに手出だしたら許さない」

「分かってるって。無駄口叩いてる暇があったら相手をちゃんと見ときな!」


2人には軽口が言えるほどの余裕があるようだが、アーサーに抱えられているスプルはそうでもない。


「あの、アーサーさん……えと」

「ごめんごめん、ずっと抱えっぱなしだったね。今下ろすよ」

「あ、ありがとうございます」

「おい、ラブコメしてないでさっさと参加しろや」


ノーラさんの口調が悪くなってきていた。


「はいはい、《ソニックムーブ》!」


一気に加速したアーサーが、【疾駆者】の《技術テクニクス》で【大王亀】へと迫る。


「《ブレーキングポイント》」


防御無視の貫通攻撃を初手に叩き込む。


「《二刀流》にも貫通くれないかなぁ。硬い敵がめんどくさいんだよね。《アーマーブレイカー》!」


ノーラも、防御力低下の《技術テクニクス》を打ち、次以降の攻撃に繋げる。


「《急速成長》! 《ファイアウォール》!」


スプルの投げた【パラサイトアイビィ】が亀の膨大なHPを吸収して成長し、いくつもの【爆発草の種】が炎の壁に巻き込まれて大爆発を起こす。


「わ、ちょっとスプル! 私たちまで食らうでしょ!」

「ごめーん! でもノーラはちょっと痛い目見た方がいい気がする!」


ようやく混乱から復帰したスプルも参戦し、本来8人のフルパーティー推薦のはずのクエスト【大王亀への力の証明】を、3人のみで優位に戦っていく。

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