14.激突と終結

<特設フィールド>


「わっ!」

「うわっ!」


木陰に座り込んで休憩するスプルを、横合いの草むらから飛び出したノーラが驚かせる。


「もー。やめてよ、心臓に悪い」

「ごめんごめん。あとこっちじゃ久しぶりだね、スプル」

「うん。一人でやってて、色々と得たものもあったよ」

「そりゃ良かった。じゃあ、始めますか!」

「そういやなんで奇襲攻撃しなかったの……って聞くのも野暮か。約束だしね」

「そゆこと。このコインが落ちたらスタートね」


ノーラは、インベントリから出した1Gコインをつまんで手をとふる。

そして、弾いた。


キィィィン、と。

高い音を立ててコインが落ちる。


「フルスロットルで行くよ! 《急速成長》ぉぉぉぉ!」


毒液を振りまいたあと、【ゼリーホルダー】【ヒトトリソウ】【徘徊樹】【ハードネス・タンブルウィード】【刀竹】を全てばらまいた。


スプルーーいや、春香は知っている。

望美という少女は、決して、冗談でも嘘は言わない。

彼女が、「春香じゃ追いつけない」と言ったからには、彼女の想定を上回る力でないと彼女を倒すことはできるはずがない。


「甘いっ! 《フライング・スラッシュ》!」


初っ端から持てる力を振り絞って挑みかかるスプルを、だがしかし、ノーラは甘いと切り捨てる。

【ハードネス・タンブルウィード】と【ヒトトリソウ】以外の全てを斬り裂き、飛び散る毒のゲルを難なく躱す。


「フルスロットルってのはこういうことを言うんだよ!」


吠え、跳んだノーラは【ハードネス・タンブルウィード】に飛び乗ってそれらの上を渡り【ヒトトリソウ】へと突き進む。

だが、スプルも当然この程度では終わらない。


「《部分成長》!」


【ヒトトリソウ】の顎の部分に手を当て、《技術テクニクス》を発動。

肥大化した食人植物の牙が、ノーラを襲う。


「いいねっ! それでこそスプルだ! 《ソード・ダンス》!」


【熟練二刀流使い】の低位|技術《テクニクス》、《ソード・ダンス》。


踊り狂い、一定範囲を切りつける範囲攻撃の・・・・・技術テクニクス》。

しかし、それを体の向きを細かく変えることで狭い範囲への攻撃に変えていく。


「はぁッ!」


裂帛の気合いとともに放たれた最後の一撃が、数本の【ヒトトリソウ】の耐久値を消し飛ばした。

しかし、低位のため短いがそれでも技後硬直はもちろんあるため、その隙にスプルは次の手を打つ。


「やるねっ! 《種子調合》《急速成長》!」


再びばら撒かれた種だが、今度は一種のみ。


【バウンドデイジー】。

この花は、とりあえず上に乗ったものを跳ね飛ばす。

それだけの花だ。


だがしかし。

スプルは個人フィールド内において、この花を使った戦闘の練習をし、山地エリアにて実戦経験を積んでいる。

あおつらえ向けにここは山中だ。

ならば、この花で埋められた地面はスプルの領域となる。


「うおぉぉぉっ!」


さらに、《種子調合》によってつくられたのは、ドーピングシードと薬草を使って作った「ATK、DEF、AGI、MIND上昇、HP回復」という超高性能ポーション(?)。

ステータスに補正を加えたスプルは、ややぎこちなくも縦横無尽に駆け回り、ノーラを翻弄しようとする。

する、はずだった。


「ふーん。考えたねー。でもちょっと惜しい!」


ノーラの強みは、その応用力。

彼女は【跳躍者】の称号を使いこなしている。

ならば、


「私はそういう足場でも戦えたりするんだよ!」


様々な植物を操り、多彩な手段で持ってノーラとの実力差を埋めようとするスプル。

そのスプルの策を次々と潰し、乗り越えるノーラ。


二者の戦いは、とどまるところを知らない。

だが、終わりは唐突だった。


ポーン。


ノーラにとっては聞きなれた音。

しかし、スプルにとっては未だに少し反応してしまう音。


インフォメーションの鳴る、音。


勝敗を分けたのは、経験の差だった。

生まれたのは、一瞬の隙。

それを見逃すノーラではない。


「もらったぁ! 《スラント》!」


二本の剣を重ね合わせて突進する《技術テクニクス》。


「っ! 《急速成長》!」


【ハウストランク】を出現させ、盾とするスプル。


「盾なら、押し通す! 《エンチャント・ブレイズ》!」


両方の刃に炎の属性を持たせ、【ハウストランク】をも引き裂くノーラ。


「《人身御供・【ガーディアンフラワー】・かい……」


【ガーディアンフラワー】で残りHPをミリ単位にしながらも身を守ろうとするスプル。


「させるかぁぁぁぁ!」


絶対にこのチャンスを逃さないと、全力で剣を振るうノーラ。


そして、決着はついた。


<観客席>


『次は、勝つからね……』

『うん、期待してる』


スクリーンの中で、スプルが光の粒子となった。


「くそぉぉぉぉ! スプルぅぅぅ!」


自分のことのように悔しがるメミリーの姿に、周りは少し引いていたが、何にせよ先程の戦いについての話題で場は騒然としていた。


「そんなに長い戦いでもなかったのに俺めっちゃ長く感じた!」

「わかるわー。息付く暇もなかったよな」

「スプルって子も惜しかったけどなぁ」

「まさかバトルロワイヤル終了10分前のお知らせメールで負けるとはねー」


そう、致命的な隙をスプルに生んだインフォメーション音。

それは、バトルロワイヤルが終了する10分前を知らせるメールだったのだ。


「まあ後半すごいのと当たりまくったしな。アーサーにノーラって」

「MT四天王を一人倒して一人互角レベルとかもうなんで今まで出てこなかったのかが不思議でならんわ」

「それな。……って、ランキングでたぞ」

「お、どれどれ……?」


《MT第1回バトルロワイヤル 討伐人数Top10》


1 ノーラ

2 アーサー

3 カシマル

4 ソフィア

5 メルファナ

6 タナカ

7 クミン

8 スプル

9 ロロン

10 ラティノス


*生き残ったプレイヤーへの報酬とは別の報酬として、称号が送られます。


「流石にMT四天王とユニーク称号持ちは入ってんな」

「ラティノスってやつだいぶ印象悪くなかったか?」

「いや、あれもロールのひとつだってみんな言ってるけど」

「あり、反感買ってない感じ?」

「いや、そりゃ嫌な気分になるやつもいるだろうけどさ。万人受けするやつなんていないだろ」

「MT四天王と言えばだけどさ、ロロンやけに低くね?」

「あいつ今回最後の方写ってなかっただろ。またコレクター魂の発作起こしてあちこち掘り起こしてたんじゃねーの?」

「あー、多分そうだな、わかる」

「てかタナカって何。笑うわ」

「適当つけたけど案外強なっちまったか、それも個性なのか。後者だったら隠密スタイルとか暗殺スタイルとかやってそう」

「それな」


たわいもなく、ランキングについて語り合う者達。

有名どころや、新人についてなど、様々な意見が交わされていくーー

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