13.攻防と最強の盾

<特設フィールド>


両者残りHPは八割ほど。

徘徊樹はアーサーの攻撃によって縮められた活動限界時間が尽き、自ら崩れ落ちた。

仕切り直しだ。


「まだめんどくさいのある? これ以上は勘弁して欲しいんだけど」

「まだ結構あるんだよね、迷っちゃうくらいには」


焦りを悟られないように不敵に笑う。


「それは困るなぁ。じゃ、ちゃっちゃと片付けますか!」


予備動作を徹底的なまでに排した剛槍の突き。

それに対し、スプルは自身の持つ防御手段の1つを咄嗟に解放した。


「《急速成長》!」


【ハードネス・タンブルウィード】。

タンブルウィードとは、砂漠を転がっているイメージの強いアレである。

ただ、この"MT"の世界においては2つほど違いが存在する。

1つは、人一人ほどもある大きさ。

そして、「ハードネス」の名の通り、


「あーもう! 今度は『無駄に硬いやつ』か!」


切り裂こうとするアーサーの剛槍が、弾き返された・・・・・・


「ふふーん。その子は絶対正面突破できないでしょ。《急速成長》!」


ばらまいた【ハードネス・タンブルウィードの種】を、起点に最高レベルの盾が量産される。

相手に対して球体を挟んで対象な位置を取り続け、爆発草の種と《ファイアショット》による爆発で少しづつHPを削っていく。

しかし、


「あんまり使いたくなかったんだけど、仕方ないね。《背水の陣》」


身体系強化系称号全てを強化値+50にすることで得られる上位称号【身体強化】の+30時点で獲得できる《技術テクニクス》、《背水の陣》。

その効果は「ATK×3、AGI×2、DEF×0、HP×0.1」である。

全ての《技術テクニクス》の中で最も「壊れ性能」「ワンミス即死の超高等技」と言われるこの《技術テクニクス》を、アーサーはこの決め手にかける状況を打破するために使った。

圧倒的な火力と機動力の代わりに、相手の攻撃をまともに喰らえば命取りの使い所の難しさだが、それを使う状況だと判断したのだ。

元々MT最高のステータス称号を持つ少年。

その3倍ともなれば追随するものは無い。

そう。

再度振るった彼の攻撃は、【ハードネス・タンブルウィード】さえも斬り飛ばした。


「うっそぉ……」


スプルと己の間にある盾をすべて斬り捨て、慌てるスプルが直接当てようと放つ火弾を軽く避けながら、彼女に肉薄する。


「《チャージ・スピアー》! これでチェック、だ!」


アーサーの全力の攻撃が、放たれた。



ここで、少し前の話をしよう。

スプルがアーサーに会う前……六人ほど倒した頃。

少し疲れていたスプルは、相手を倒す時誤って自分にも【パラサイトアイビィ】を1つ生やしてしまった。

触れば種に変わるので、全く大事には至らなかったが、休憩した方がいいだろうとスプルが思ったとき、スキル取得のインフォメーションが鳴った。

このPvPイベントで、「対人戦の経験」以外の唯一の彼女の成長だった。



それを、ここで今、解放する。


「私の命で咲いて! 《人身御供・【ガーディアンフラワー】・開花!》」


植物の固有名称と共に発声することで自分のHPを消費し、インベントリ内や、ポケット内の「花の」種のみを瞬時に開花させるスキル。

現在のスプルの最終防衛手段。

【ガーディアンフラワー】の効果は、「どんな攻撃も必ず1度だけ無効化する」。


アーサーの剛槍はスプルのHPを大きく減らして咲いたその【ガーディアンフラワー】にまっすぐと放たれ。


花は役目を終えてその花弁を鮮やかに散らし。


ダメージが完全に無効化された。


「その攻撃を待ってたんだよ。こちらこそ、チェック、だね」

「一手、先を越されたか……!」

「《ネックハント》!」


ボーナス判定のあるうなじではなかったが、それでも今の彼を倒すには、十分すぎる攻撃で。

MT最高のステータスを持つプレイヤー、アーサーはバトルロワイヤルの終了を待たずして光の粒子となった。


<観客席>


アーサーとスプルの一進一退の攻防に、声も出さず見入っていたプレイヤー達は、スプルの短剣がアーサーのHPを削り取った瞬間、歓声をあげた。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「スプルのやつ、アーサーも下しやがった!」

「よく今まで表に出てこなかったな! あのアーサーと接戦なんてほぼ無双状態だろ!」

「てか対戦中にまだまだ手の内は出きってないとか言ってなかったか!?」

「は!? 流石に強がりだろ! アーサー相手に出し惜しみなんかしてる場合かよ!」

「流石にそうだよな、いやあれ以上あったらマジチートレベルだろ!」

「何にせよあの子が最強クラスのプレイヤーとして認識されたことは間違いないだろ? うっかりPKされないように俺たちが守ってあげないと!」

「ちょっと、それ関わり持ちたいだけでしょ! 」

「ち、ちげぇよ! あくまで俺は親切心からだな……」


そこで、背伸びをするスプルを未だ映すスクリーンから声が響いた。


『うーーーん。はぁ! いやぁ、強かった強かった。これもうゲーム内最高のレベルのプレイヤーさんとか勝てっこないでしょ。温存分もあと何個かしかないし』


観客席が、再び静まり返る。


「え、えーと……まさかあいつがアーサーだって気づいてないんじゃ……」

「そ、そ、そ、そんなわけ……」

「でもあいつ名乗ってなかった気が……」

「やめろ! だとしたらあの子のセリフが現実になっちまうだろ!」

「まだ温存とか……マジチート」

「ねぇ、PKから守る必要あると思う?」

「PKしようと思うやつが現れるか疑問だな」

「同感」


攻略サイトには画像までは載っておらず、アーサーという名前しかわからなったスプルは、自分が倒した相手がまさかゲーム内最高のステータスを持つ少年だとは思っていなかった。


そして、遭遇戦の勝敗を賭けるギャンブル持ち金をすべてスプルにかけていたメミリーが、ストレージに超加速度的に増えていくGをみてニヤけていた。

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