12.決着と対峙

<特設フィールド・スプル>


もうもうと立ち込める煙。

そこら中に散らばる紫色の物体。


「初めて使ったけどなかなか使えるな。手榴弾、なんてファンタジー系のゲームで生産されるべきじゃないとは思うけど」


目の前で起きた大爆発に、少年は自分でも少し驚いている。

彼は、あの爆発で相手の少女が生きているとは思っていなかった。


「最後なんか叫んでたのが気になるなぁ。なにしようとしてたのかな」

「これ、だよ」

「っ!!」


返事があったことに驚き、煙の中に目を凝らすアーサー。

そこにあったのはボロボロになったプレハブ小屋。


「……は?」

「まったく、爆発草の種何個分だろ……。明らかにゲームバランス壊すでしょ、それ」

「なんで……生きて……」


スプルは、呆れたように首を傾げる。


「なんでって……。見たらわかるでしょ、この小屋で防いだの」


少年は、自分がこのMTを相当やりこんでいる自信がある。

その彼ですら、先の爆発は「起きてしまえば」逃れる手段は思いつかない。


「あー、言ってなかったかな。うん。ユニーク称号【庭師】所持者、スプルです。以後よろしく」


その言葉にすっ、と切り替えを済ませた少年が目を細める


「ユニーク称号……そうか、君が」

「そゆことだね。じゃあ仕切り直して、私から。《ファイアショット》!」

「低級魔法で何が……うおっ!」


スプルの放った火の軌道上から難なく外れるアーサー。

だがしかし、そのあとの爆発の煽りを受ける。


「意趣返しか? いいね、面白い。ならこっちも得意なやり方で行かせてもらう!」


少年は、剛槍を構えてスプルへと突きを放つ。

それを下から弾こうと短剣をはね上げるスプルに対し、アーサーは剛槍を引く。

勢いのついたスプルの短剣はそのままはねあげられ、格好の隙が生まれた。


「うぉら!」


そこに、再度突かれた剛槍が入り、スプルを大きく吹き飛ばす。


「うぅっ。《急速成長》!」

「まだ行くぞ!」


追撃を仕掛けようとするアーサーの目の前に、大きな口が現れる。


「なっ」

「まだ使いたくなかったのにー。その子増やせないんだよー!」


スプルを守るように生えるのは、【ヒトトリソウ】。

巨大な上顎と下顎のような葉には、本物の牙が生える、食人植物だ。


「こいつ……倒しても経験値が入らない上に破壊可能オブジェクト扱いで何度も復活する意味のわからない植物……」

「私用みたいでね。増えないから難儀するんだけどめちゃくちゃ強いよ」


アーサーが見た目の割に素早い動きでアーサーに噛み付こうとするヒトトリソウの相手をしているうちに、スプルはまた新たな種を取り出す。


「《急速成長》! お願い、行って!」


今度は【徘徊樹】。

根を土から出し、歩き回って相手を踏み潰す巨木だ。


「くそっ、次から次へと!」


しかし、アーサーはこのくらいでは倒れない。

危なげなく、的確に2つの奇怪な植物からの攻撃を逸らし、避け、さらには互いにぶつからせる。


「あっ…….」


ヒトトリソウが、徘徊樹に潰された。

アーサーが徘徊樹を攻略していくのをHPを回復しつつ見ながら、スプルは次の一手を考えていた。


<特設フィールド・ラティノス>


あの男性プレイヤーたちの言った通り、【土着神】には確かなデメリットがいくつも存在する。

ただ、ラティノス自身は逆に得られる恩恵に比べれば些細なものだと思っていた。

だが、今この時にその認識は塗り替えられた。

相手の少女の連続する剣筋を受けて、防御に徹さざるを得な・・・・・・・という状況下で、彼はデメリットの重さを噛み締めていた。


【土着神】の固有権限とそれに伴うデメリット。

それは、「解放した領域内での物理系とAGIステータス1.5倍」と「領域内での刀以外の武器、魔法、回復アイテム使用不可」である。

圧倒的なスピードと攻撃力、防御さえあればどんな敵にも勝てると思っていた。


しかし、相手の彼女ーーノーラの二刀流は、そんな甘い考えを打ち砕くものだった。

連続して絶え間なく打ち込まれる両手の剣は、こちらから攻撃する暇を与えない。

一旦逃げようとすれば、思考を読まれているかのようにその先へと割り込まれる。

そして、コンボボーナスを重ねた剣の攻撃は、徐々にラティノスの底上げされた防御力を突破しつつあった。


「くそっ! せめて回復魔法ぐらい使えたら……」

「ほほーん。情報ありがと。あんまりそういうこと言うもんじゃないよ」

「何をっ……」


剣を振るう腕は止めないまま、ノーラが《|

技術テクニクス》を発動する。


「《フレイムランス》《コピー・トリプル》」


本来なら1本のはずの炎の槍が3本生み出され、ラティノスを襲う。

ただ、彼は詠唱の時に生じた一瞬の間を見逃さなかった。


「《地形操作・隆起》!」


二人の間の地面が盛り上がり、フレイムランスを防ぐ。

ラティノスは後方へと転がり、ノーラはバックステップで避けた。


「《地形操作》かー。ユニーク称号ってのはそんなことも出来るんだね」

「ユニーク称号じゃねぇ。俺の【土着神】に与えられた力だ! 《地形操作・土壁》!」


ノーラを囲むように横と後ろに三枚の高い壁が出現する。


「《居合い一閃》! はぁッ!」


逃げようのないノーラに出の早い刀の《技術テクニクス》を打ち込む。


それでも、まだ甘かった。


「《ストッパー・スラッシュ》」


ノーラが選んだのは《技術テクニクス》の発動。

しかし、壁に向かっての。

一太刀目を真後ろの土壁へと突き刺さし、一瞬固定される。

続く二刀目の前に、体を反転させ、横の壁をけって駆け上がる。

1歩間違えれば、《技術テクニクス》のシステムによって定められた動きを阻害し、中断させかねないところを、決められた動きに反しないよう改変された《技術テクニクス》。

そうして出来た、「先程まで自分の居た位置」にラティノスが空振りの居合いを放ったあと。


その脳天に、上から最後の一撃を加えた。

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