11.トッププレイヤーと幼馴染
イベント開始から3時間。
特設フィールドでは、斥候以外に情報を得る手段はない。
よって「ユニーク称号持ちが出た」という情報など当然出回っておらず、スプルは最初の男性と同じような手法を取れば大抵の相手は倒すことが出来た。
「うー……死にたくはないけど、手応えが無さすぎるのもアレなんだよなぁ……」
◇
<観客席>
実際、ここでもすでに同じ戦法をくりかえすスプルへの興味を失いつつあり、メミリーがやきもきしていた。
と、そんな時。
「おいおい、あのスプルって子、やばいのと当たっちまったぞ!」
1人のプレイヤーが、モニターに映るスプルともう1人を指さして言う。
「現時点の最高レベルプレイヤー……アーサーだ!」
かのアーサー王から名前を付けながら、決してその名に負けることのない少年。
その武器は彼の背丈を優に超える剛槍。
蒼い金属鎧を纏い、鮮やかな槍技で敵を薙ぎ払うそのプレイヤーは、自分を見て臨戦態勢を取ろうとする少女へと、大きく突きを放った。
◇
<特設フィールド・スプル>
「うわわっ!」
いきなり攻撃に入った相手の大きな槍を間一髪、偶然避けることが出来たが、スプルは内心ビビっていた。
(怖っ……。この人めちゃくちゃ強いよ……全然動きが見えなかったもん……)
対応策を寝る暇もなく、素早い連撃が叩き込まれるのを、短剣で必死に防御していくが、細かいダメージが蓄積していく。
「ひとまずテンプレで! 《急速成長》!」
今まで通り【刀竹】で撹乱を狙う。
だが、
「ん……? よいしょっと!」
初見のはずの【刀竹】を剛槍を棒高跳びの棒のようにして上空へと躱すアーサー。
「うそっ! なんで!?」
「いや、下から反応があれば上に飛ぶのは常識でしょ」
事も無げに言うが、そんなに容易なことではない。
感知系の称号を持っていたところで、それだけではこんなに早く反応できるわけがないのだ。
ならば、理由はただ1つ。
彼の、プレイヤースキルに依存するものだ。
「あーもう! まだ時間残ってたから使いたくなかったのに!」
「お、また新しいの出るのか? いいぜ、来い!」
「メミリーさんごめん! 《急速成長》!」
腰周りに付いている試験管のうち紫色の液体の詰まったものを全て砕き、辺り一帯に散布したあと、【ゼリーホルダー】を大量に成長させる。
そして、
「オマケに、【パラライズ・ラフレシア】をどうぞ! 《急速成長》」
さらに、黄色の花粉を振りまく巨大な花を咲かせる。
【パラライズ・ラフレシア】は、低確率で麻痺効果を付与する花粉を撒き散らす花。
武器を当てれば毒のゲルが飛び散る植物が生え、麻痺になる効果のある花粉が舞う危険地帯に、だがしかしアーサーは対応する。
「このボールみたいなのはどうせやばいんだろ? じゃあこいつには触れないように、あんたを倒せばいいわけだ」
「来れるものなら来てみなよ!」
威勢よく言うが、ゼリーホルダーの後ろに隠れているあたりだいぶビビっている。
「じゃ、遠慮なく」
そう言うと、インベントリから何かを取り出すと、それをこちらに投げた。
「……っ!? 《急速成長》!」
そして、ゼリーホルダーとパラライズ・ラフレシアによって作られた危険地帯はーー吹き飛んだ。
◇
<特設フィールド・ラティノス>
「ふぅ……流石にこの人数は疲れんな。ちょっと休むか」
そう言って地面に座り込むラティノス。
地面の黄色い光がすっと引いた。
「これがしっかり中継されてるといいんだが。ちゃんと俺のことを知ってもらわないとつえー奴とも戦えねぇしな」
「ふぅん、強い奴と戦いたいんだね、あなた」
「あぁ、強い奴を斬り捨てる感覚ってのを味わってみたいんでね」
「そりゃまたどうして」
「どうしてってそ……ん? んっ!?」
ラティノスは地面に置いてあった自分の刀を取り、自分ではない声のした方を斬りつける。
相手は、それを軽くバックステップで避けた。
「うわっ、いきなり酷いな。最初は返事してくれたのに」
「うるせぇ、俺の【感知者】に引っ掛からないとはどういうことだ」
「簡単だよ、パッシブかつステアップ系の称号でなきゃちゃんと対応した称号ってのはあるからね。まあ他にもいくつか思い浮かばなくはないけど」
「隠蔽系称号……って訳か。気持ちわりー称号だな」
「いやいや、戦略のひとつだよ。リリース初日からやってて隠蔽系の称号を気持ち悪いだなんて言われたことないな」
「まあいい、何にせよこのフィールドじゃあ遭遇イコール敵対だ。お前も斬ってやる」
「いい啖呵だね、嫌いじゃない」
それに対してラティノスはもう何も言わず、ただ地面へと手を叩きつけた。
「テリトリー解放!」
黄色い光が広がっていく。
それに対し、黒髪をなびかせる少女は両腰から2本のロングソードを抜き放って構えた。
彼女の名はノーラ。
「スプルがまだ生き残ってるといいんだけど。まだ会えてないからさっさと会いたいね」
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