10.【土着神】と領域

スプルは、20分で1人という遭遇率だが。これはかなり低い。

実際は、何人もが一気に鉢合わせたり、連戦もおかしくないのだ。

そして、至る所で乱戦が起こり、観客席は大いに賑わっていた。


その中でも、ひときわ盛り上がっていたのは、現在スプル対男性プレイヤー戦とあと3つだった。


「いやぁ……【庭師】だっけか。短いが面白い戦いだったなぁ」

「あの種が何種類もあるならもう対処のしょうがないよな。準チートみたいなもんだ」

「まあスプルちゃん可愛かったしいいけどな」


そんな会話をしている3人組のプレイヤーのところに、別のプレイヤーが駆け寄ってくる。


「おい! 何呑気にくっちゃべってんだよ! やべぇ戦闘やってるんだ! 見に来いよ!」

「お、マジでー? いいねー、急いでいこうぜ」


そこで彼らが見たのは、十数のプレイヤーを相手に圧倒する1人のプレイヤーの姿だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<特設フィールド>


フィールドは山岳地帯だが、別に平地がないわけではない。

もちろん、開けた場所も存在する。


「うわぁ……」

「やるしか、ないかぁ……」


そこで、10人を越えるプレイヤーが出会ってしまった。

そこそこの広さを誇る特設フィールドにおいて、なかなかレアな状況である。


「仕方ない、先手必勝! 《袈裟斬り》!」


そのうち1人が《技術テクニクス》を発動させたのを皮切りに、乱戦が始まった。

魔法が飛び交い、剣戟による火花が飛び散る。

観客席の注目度も、スプルの戦いに次ぐレベルの注目度もだった。


そして、2、3人が退場した頃、そこそこの経験は持つプレイヤーである彼ら彼女らは全員その場を飛んだ。

【見抜く者】やその上位の【感知者】によって範囲攻撃魔法を察知したからである。

発動の遅い範囲魔法での奇襲など、成功するはずもない。

直後、それまで立っていた場所を幾つもの風の刃が駆け抜けていった。


「くっ! 乱入者か!」


魔法が飛んできた方向から1人の男が歩いてくる。

大胆に、持っている杖をぶらりと下げたまま、ゆっくりと。


「いやぁ、皆さんお揃いで。まとめて潰して差し上げますよ」


そして、唐突の挑発。

1人が、それに易々と乗ってしまった・・・・


「後衛がソロで前衛職に勝てると思うなよ!」


業物らしい光を湛えたロングソードを構えた剣士の少年が吼え、駆け出していく。

それに対し男は、


彼のみに与えられた《力》を解放した。


「【土着神】固有権限! テリトリー開放!」


そう声を上げて地面にダンッ、と手のひらをつける。

すると、その手のひらを中心として、地面を淡い黄色の光が覆っていく。

勢いに乗った少年はもうすぐそこまで来ていた。

が、次の瞬間。

男は少年の背後で刀を振り切った姿勢で立っており。

少年はHPを全損して光の粒子となった。


一部始終を呆気に取られて見ていたほかのプレイヤー達の誰かが、ポツリと呟いた。


「ユニーク称号、だと……」


男は、不敵に笑って、こう言った。


「ユニーク称号【土着神】のラティノス。てめぇらまとめて潰してやるよ」


次の瞬間、1人が光と散った。

そこからは、一方的な虐殺だった。


「速すぎてっ……見えない!」


急造の連携をとったそこそこのレベルのプレイヤー達を目にも止まらぬ速さで斬り捨てていく。

刀1本で縦横無尽に立ち回るその姿に、「殺す斬る」以外の動作は存在しない。

攻撃は最大の防御、という言葉を体現するが如く、斬って斬って斬る。

ダメージなど与えられない。

目にも止まらぬ速さの上、たまにかする攻撃はなんのダメージも与えられないのだ。


「異常なのは速度だけじゃない……? 攻撃と防御も高すぎる!!」

「ここまでの称号だ! 確実にデメリットはある! そいつを何とか見つけ出す……ぐあっ!」


また、一撃。

完全に無双状態だ。


「デメリット、ねぇ。見つけ出すまでに一人でも残る気あんのか?」

「うっ……」


挑発も、ここまでの力を見せつけられた後では、戦意を削ぐものに変わる。

そして、最後の1人になった。


「大したことなかったなぁ? こんなあっさり全滅とは」

「はは……まあステータス上げりゃあ俺らみたいな中堅組は下せるだろうな」

「あぁ? 含みのある言い方すんじゃねぇか」


最後の1人は気丈にもラティノスに向かって笑って見せた。


「お前、高いステータスにあぐらかいてるだろ。このゲームのトッププレイヤーはな……技術にも長けてるんだよ」

「下らねー意見だ。BGMにはそぐわねぇ」


剣閃が走り、また1人、光を散らして特殊フィールドから退場した。

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