9.既視感と【庭師】披露

たんっ、と自分の足が地面につく感覚。

個人フィールドのそれよりも硬い土の感触に、スプルは目を開けて周りを確認する。


「流石にいきなりほかのプレイヤーと鉢合わせってことはないよね。じゃあまずフレアのところに……」


個人フィールドへのボタンを押す。

すると、ブブー、という音とともに赤いウィンドウが開く。


《PvPイベント中、【庭師】の固有権限はロックされます》


「前もって言ってよ……」


スプルは予想になかった事態にため息をつく。

まあ、バトルロワイヤルで1人だけ個人フィールドに閉じこもっていてはどうしようもないため理屈は分かる。

ただ、前もって言ってはくれないところに、間延びした「聞かれなかったのでー」を思い出した。


「ま、別にそこまで困る訳じゃないし、探索から入りますか」


スプルは、満遍なく歩きながら、《鑑定》を行い、持っていないこのフィールド特有と思われる植物の種をインベントリに収めていく。

これだけでもはや彼女の成果としては十分すぎるほどだ。



そうして歩くこと20分程度。

このフィールドで初めてのプレイヤー……つまり敵と遭遇した。

膠着は一瞬。

両者はその場を飛び出し、お互いの得物をぶつけ合う。


「《ストライク》!」

「よっ、と!」


全力で《ストライク》を放つスプルに、相手の男性は自分のメイスを軽く合わせることで対処する。


「あんまり女の子に攻撃とかしたくないんだけどなぁ……」

「手加減無用ですよ、見た目ほどか弱くありませんから」

「いや、見た目はそんなか弱くはないけど……あ、ごめん」


スプルは若干キレた。


「あぁもう、デビュー戦にしては締まらないけど……ユニーク称号【庭師】持ちのスプル、全力で御相手いたします!」


その言葉に、男性は露骨に反応する。


「ユニーク称号!? まさかそんな」


それに構うことなく、スプルは相手の足元に種を複数投げつける。


「《急速成長》!」


まず使われたのは、【刀竹】。

地面から、鋭い先端をもつ竹が男性を襲い、ダメージエフェクトを散らした。


「うおっ! 何だこれは……」

「ぼーっとしてるとやられますよ!」


言いながら、【ポイズン・クリセンティマム】の種を短刀の柄で砕き、水と一緒に試験管へと流し込む。


「《種子調合》《急速成長》」


毒液を散布した地面にひとつの種をまた育て上げる。

今度は【ゼリーホルダー】。

根から周辺の水分を吸い上げ、それらを全てゲル状に貯蓄した大きな実をつける。

スプルはそれを、思いっきり蹴り飛ばす。


「はっ!」


弾けて飛び出たゲル状になった毒液が男性にまとわりつき、バッドステータスを与える。


「いつまでもやらせはしない!」


そう言って構えられた相手のメイスの突進を喰らい、吹き飛ばされながらも、スプルは短刀で二の腕を浅く切りつけた。

HPが大きく削られるスプル。

だが、


「私の、勝ち……! 《急速成長》」


男性の切りつけられた部分から蔦が伸び、その身に巻き付く。


「くっ。でもこの程度は……」


違う。

男性から生えたのは【パラサイトアイビィ】。

つまり、


「っ! HPをきゅうしゅ……」


最後まで言い終えることなく、光の粒子となって消えた。


「よし、勝てたけど……最初から強かったなぁ」


一番取り出しやすいようにと胸ポケットに入れた薬草の種を《種子調合》で回復薬液にしながら、また歩き始めた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<観客席>


複数あるうちのあるディスプレイにスプルと男性プレイヤーとの戦いが流れだし、スプルが名乗りをあげて能力を発揮し出した瞬間、観客達は湧き上がった。


「うおぉぉぉぉぉ! ユニーク称号キタぁぁぁ!」

「今日まで隠してきてここで開放かよ! 演出最高すぎだろ!」

「やべぇ、こんな能力見たことない!」

「あれってたぶん種だよな!? そんなアイテムあったのか!?」

「ユニーク称号持ち限定のアイテムなんだろ! ありゃ絶対バリエーション多い!」

「【庭師】らしいからな! 絶対MT中の植物全部とか言い出すぜ!」

「一瞬で毒薬とか作ってたしもうなんか【庭師】って名前負けだけどな!」

「てかあの装備見てみろよ! ポケットに『容量拡張』使われてるぞ!」

「マジか! こないだ発見されたばっかの付属効果だろ? それをあんなに使った防具とか誰が作ったんだよ!」

「それだけじゃねーぞ! あの短刀もそうだ! 中に種をすり潰すような機構を入れてあるのにメイスにぶつけても壊れやしねぇ! あっちも一級品だ!」

「やべぇどんな構造してるのか想像もつかねぇ!」

「全身高級装備で固めた上にユニーク称号持ちかよ! でもまあ許せるな!」


「「「「「「「美少女だから!!!」」」」」」」


随分とお得な時代である。

そして、その喧々囂々とした男達のやり取りを見ながら、珍しく外に出てきていたメミリーが、自分の作った装備が褒められているのを聞いて静かにガッツポーズをキメていた。

そしてスプルは、ちょっとぞぞっとしていた。

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