8.PvPイベントと全力準備

スプルは最高レベルの装備を手に入れ、メミリーに見送られながらそれを装備して表通りに向かう……はずもなく、店を出てすぐ個人フィールドに入った。


「ただいまー」

「おかえりなさいませー。だいぶお召し物が様変わりされましたねー」

「うっかり庭師をバラしちゃってね。でもおかげで専用の装備を作ってもらえたよ」

「悪い人でなくてーよかったですー」


メミリーが【庭師】のことを外に漏らせば、すぐにスプルのことは広まるだろう。

彼女が生産くらいにしか興味が無い故の幸運である。


「でね、こんな素敵な服も作ってもらったし、種をちゃんとセットしたいのよ」

「いいと思いますー」

「でも私、初日にやらかしたせいで植物の生え方がしっちゃかめっちゃかなんだよね」

「整理ですかー?」

「うん、今日は整理してからログアウトしようと思う」


まず、全ての植物を種へと変換する。

スプルは背の高い植物の間を、触りながら走り抜け、インベントリの中の種をを加速度的に増やしていく。

フレアは、薬草や爆発草をはじめとする背の低い植物を抜き、1箇所に積み上げていく。

あとからスプルが一気に種への変換を行うための準備だ。

役割分担をはっきりさせ、二人はハイスピードで作業を進めていった。


「よし、終わったね。じゃあちゃんと種類ごとに撒こうか」

「ではー柵を出してー区切っていきますねー」

「え、何そんなことできたの?」

「私に出来ることはーこれで全てですよー」

「なんで言わなかったの」

「聞かれなかったのでー」


お得意のやつだった。


まあ何はともあれ、フレアの生み出す柵によって綺麗に種類ごとに整えられた畑が生み出された。


「《成長促進》はなくなっちゃったから、このままだね。《急速成長》はMP食うからこの膨大な量には使えないし」

「ではー、今日はー、お休みになりますかー?」

「うん、そうしようと思う。けど待ってインフォだ」


運営からのお知らせメールが届いた。


「PvPイベントについて……? なになに、えーと……」


ざっくりとした内容を確認していく。


「よし、なるほどね。ねぇ、フレア」

「なんでしょー」

「私、ここで【庭師】をお披露目したいかな」


フレアは、いつものように、のんびりした笑顔で言った。


「それはー派手なデビューステージとなりそうですねー」



そして、ログアウトした春香は、MTの公式ホームページでPvPイベントについての詳しい情報を確認する。


「これなら、うん、いいとこいけるかもしれない」


その後は、学校の準備や諸々を終えて眠りについた。


翌日。

いつものように朝ごはんを食べたあと、隣の望美の家へと向かう。


「のっぞみー! おはよー!」

「おはよ。今日は一段とテンション高いね」

「PvPイベントが楽しみだからねー」

「でもまだ始めて2週間弱でしょ? アイテム狙い?」

「ふっふっふー。一応そこそこに残れるように秘策があるのですよ」

「10人とかに残ったら私とも会うかもね。私もそれぐらいには残るだろうから。その時は全力で行かせてもらうよ」

「自信満々の上に手厳しいなぁ。ちょっとは手を抜いてくれたり……」

「しません」


そんな会話をしながら学校へと歩いていく。


<PvPイベント 詳細>


日程 五日後、日曜日


形式

特設フィールドにおいての、参加希望プレイヤー全員でのバトルロワイヤル


ルール

時間は午後1時から午後7時までの6時間

武器、防具、その他アイテムの持ち込み数制限なし

回復魔法使用不可

特設フィールド内でHPを全損した場合、始まりの街にて蘇生*デスペナルティーはなし


報酬

特設フィールド内の限定アイテム

Top10には称号【強者の証 No.〇】(〇には順位)が与えられる



スプルがこのイベントでの【庭師】公開を考えているように、もう1人、ここで鮮やかにデビューしようとしている者がいた。


「ここでひとつ、新しい俺の力を見せつけてやるか」



PvPイベントに向けて、スプルは着々と準備を重ねていった。


サハヤの森林を超えた先にあるフィールド"リヒャ山地"と"ノーラン砂漠"に行き、新しい植物の探索や森より高レベルなMobでの称号の強化。


個人フィールドでの栽培によって種の数を増やし、「プランターガール」のどのポケットに何の種を入れるかの確認。


始まりの街で受けられるクエストで入手できる水系アイテムの上位素材「ラマネー清流の純水」集め。


フレアの召喚するサーバント相手の、植物を効果的に使った戦闘方法の考案。


戦闘中に調合を行うことも可能にできるよう、素早く効率的な動きの研究。


新しい、称号や【庭師】の《技術テクニクス》も獲得した。


それらを、学校から帰ってから、やらなければいけないことをやるための時間以外をフルに使ってでこなしていった。



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プレイヤー名 スプル

頭 なし

上着 プランターガール

右手 クラッシュ・スモールソード

左手 炎の篭手

下半身 プランターガール

靴 プランターガール


称号

【腕利き冒険者+21】

【駆け抜ける者+11】

【駆け出し短剣使い+12】

【駆け出し魔法使い(水)+14】

【駆け出し魔法使い(火)+8】

【魔力を多く持つ者+5】

【駆け出し暗殺者+19】

【見抜く者+8】new

隠れている相手や、不可視の攻撃などを察知する。

【庭師】

技術テクニクス・部分成長》new

植物の一部分だけを大きく成長させる。この《技術テクニクス》を使われた植物は耐久値が大きく減少する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そしてイベント当日。

イベントに参加しないプレイヤーが次々と観戦用の空間に転移する中、スプルは、個人フィールドで特設フィールドへの転送を待っていた。

このPvPイベントは世間的注目度も高く、ネットでは生配信されると共にのちのちまとめたテレビ番組も作られるそうだ。


「いやー、いよいよだね。緊張してきたよ」

「特設フィールドはー、山岳地帯でしたっけー?」

「うん。海とか砂漠みたいな所じゃなくて良かったよ。流石に土のないとこじゃ戦えないし。そういう時のことも考えとかないとなぁ」


そんな会話をしていると、メッセージが3件。


ノーラから、

『頑張って私のところまで来てね(笑)』

と。


メミリーから、

『私の作った装備を見せつけてやってくれよ!』

と。


そして運営から、

『転送を開始します』


そして、スプルの体が光に包まれ始める。

そっと目を閉じた。

高まる期待を胸に、すっと意識が遠くなっていく。

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