5.爆発する種と寄生する蔦

次の日、MTへログインしたスプルのスタート地点は、昨日ログアウトした個人用フィールドからだ。


「ただいまー、フレア……って、何してんの?」

「体が柔らかくなる体操ですー」


フレアは、形容しがたいポーズでぷるぷるしていた。

この気象妖精、AIで動いてるはずなのだが、嫌に人間くさい言動や動きが多い。

日本の技術は日進月歩である。


「まあいいや、昨日植えたやつらの成長度合いは……って、めっちゃ育ってるんだけど」

「草花の類はー半日と少しでー木はー1週間もあれば完全に育ちますよー」

「そりゃファンタジーだね」


そこら辺はゲームだから仕方がない。

木とか年単位で育てなくてはならなくなってしまう。


「じゃあいくつか植物としての能力を見てみようか」


スプルは、足元にたくさん生えているシソのような植物を《採取》する。

インベントリに種が収まる。

と、そこで気づいた。


「待って、《採取》の効果ってパッシブなんだよね。じゃあ私、もしかして種しか使えない人……?」

「ほんとだーそうなりますねー」

「運営ぃぃぃぃぃ!!」


スプルは雄叫びをあげたが、これは別に運営が考えなしにやらかした訳ではない。

通常、草や木の枝は普通にプチッと行くことで素材アイテムとして手に入れることが出来る。

ただ、【庭師】を手に入れた者は触れると全て種になってしまうため、素材の収集は不可能なのだ。

ちなみに、種は【庭師】持ちにしか扱えないため、NPCへの売値はもちろん0G、プレイヤーに差し出しても首を傾げられるだけだろう。


「マジか……素材長者にはなれないんだね……」

「世の中ーそんな甘くはないですからー」


こういうのを見ると、他にも【庭師】のデメリットがあるのではないかと切実に心配になるスプルだった。


「でも、種しか手に入れられないのに何のいいことが……」

「種自体がー効果を持つアイテムになっていてー【庭師】を持つ人はーその効果を発揮できますー」

「えっと、じゃあこの種の効果は……」


種をタップして、アイテム説明欄を見る。


【爆発草の種】爆発する。


「危険物じゃん」

「危ないですねー」


だが、火気がなければ爆発物も特に反応はない。


「フレア、ちょっと出かけてくる」

「お待ちしてますー」


そして十数分後。


「ただいまー」

「おかえりなさいませー」


解放して二日目にして、もはやホーム並の馴染み方をしている。

ちなみに、人に見られないようにログインはまた森からだ。


「スプル様ー、どちらに?」

「いや、これを買ってきたくてね」


左手をひらひらと振る。

そこには、先程までの淡い水色ではなく暗い紅の篭手がはめられていた。


「なるほどー、火属性魔法の篭手ですかー」

「うん、これで爆発草の種の実験が出来るから」


そして、爆発草の種の爆発力がどのくらいなのかを確かめる実験の準備をする。


「フレア、ハウストランクの種ちょうだい」

「はいどうぞー」


スプルは多種多様な植物の群生地となっている場所から離れたところに種を埋め、《技術テクニクス》を発動する。


「《急速成長》」


これで、木目調のプレハブ小屋の出来上がりである。


「よし、この中に爆発草の種を置いて、と」


プレハブ小屋の中央に十数個の種を置き、ドアを開け放つ。


「よーし、フレア、危ないから離れててー」

「も、もちろんですー」


言う前からとてつもなく遠くにいた。

ビビりまくっていた。

スプル自身も魔法が届く限界まで離れる。


「じゃあいこう、《ファイヤ・ショット》!」


ドカァァァァン!!!


と、地面を揺るがす程の大爆発が起きた。

ハウストランクのプレハブ小屋も、至る所が弾けて見るも無残な姿になっていた。


「えぇ……」


スプルは、自分の起こした爆発に、自分でドン引きしていた。

いくら複数の連鎖爆発とはいえ、流石にデカすぎた。

そして、この種はインベントリの奥に非常用として蓄えられることが決定した。


気を取り直して。


「次はこの、ポイズン・クリセンティマムってのを調べようか……と言いたいところだけど……」

「分かりきってますよねー効果はー」

「うん、だからどのくらいの効果があるのか見たいんだけど。フィールドに出よっかなー」

「それでしたらーお手伝い出来るかもしれませんー」

「ん?どゆこと?」


フレアは少し高いところに飛び上がると、目を瞑り祈るように両手を組んだ。


「《召喚サモン》 リキッド・サーバント」


魔法陣が現れ、そこから水を纏う獣が出現する。


「うーん、意味わからん」

「私はー妖精郷の魔獣をーよびだすことができますー」

「フレアって割と一点の隙もないよね」

「ありがとうございますー」

「これって倒したら経験値入ったりする?」

「いえー何も入りませんー。単なる戦闘訓練用ですー」

「了解」


スプルはリキッドサーバントに近づくと、その口の中にポイズン・クリセンティマムの種を投げ込んだ。


「グルゥゥゥァ!」


状態異常が発生する。


【毒】残り30秒


「持続30秒か……そこそこ長いね。そういや初期の配布物の中に毒消し草あったし、あれで消せるのかも食べさせて確かめ……あっ」


毒消し草は、取り出して触った途端に【毒消し草の種】に変わった。


「薬草とかもこうなるのか……」


一応毒消し草の種にも、毒消し草と同じく解毒効果があったので、それを食べさせて解毒した。


「よし、じゃあ次はこれだね」


そう言って取り出したのは、【パラサイトアイビィの種】だ。


「よくわかんないから、説明を見ないと」


【パラサイトアイビィの種】寄生した相手の生命力を吸い取って成長する。


「あー、これあかんやつや。多分あれと組み合わせたら大変なことになるね」


フレアからハウストランクの種を受け取り、《急速成長》でプレハブ小屋を作成。

さらにその壁に傷をつけて小さな【パラサイトアイビィの種】を埋め込み、


「《急速成長》」


技術テクニクス》に反応した【パラサイトアイビィの種】は、ハウストランクの生命力を奪い取りながら成長した。

そして、プレハブ小屋の種を埋めたあたりは、水分や栄養を取られてグズグズに枯れていた。


「うわぁ。やっぱりえげつないなぁ」


またもやスプルはドン引きしていた。

これもまた、爆発草の種と同じ扱いを受けることとなった。

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