4.急速成長とユニーク称号

フレアについて解決したところで、本題に入る。


「あの、ここでさっき採った種を育てたいんだけど……どうしたらいいの?」

「それでしたらー、種は適当に撒いてたらー大きくなりますよー」

「はぁ。言い方あれだけど縛りとかはないんだね」


言われた通り適当に撒いておいた。


「えーと、これで、《成長促進》!っと」


ぴょこっと芽が出た。


「もう1回、《成長促進》。あれ? 何も起きないなぁ。連続で同じ植物には使えないのかな」


大体を把握したスプルは、適当に撒いたためにどこにあるのかイマイチ分からなくなった種に悪戦苦闘しながら、《成長促進》を施していった。

そして、毎度のインフォメーション。


称号【魔力を持つ者】が強化。【魔力を持つ者+1】になりました。

技術テクニクス・成長促進》が進化。《急速成長》になりました。


「おおっ!進化と強化がいっぺんに来た!」


称号は、その称号に沿った行動をすることで「強化」される。

名称部分に+1とか+2とかつくわけである。

称号自体の名称が変化するのはこの「強化」以外では起こりえない。

そして、《技術テクニクス》は反対に「進化」しかしない。

より効果が高く、強力な《技術テクニクス》へと変わるのだ。

なので、【魔力を持つ者+1】は単純にMP量が増えただけなのだが、《急速成長》はどのような強化かが分からない。


「で、どんな感じか確かめたいんだけど……さっき全部に《成長促進》使ったせいでどれに対しても効果がないんだよなぁ」


スプルがため息をつくと、


「スプル様スプル様ー」

「なに?」

「私ー便利な妖精郷の植物の種をー1種類のみですがー無限に持っておりますよー」

「なんで今言ったの」

「聞かれなかったのでー」


フレアはおすまし顔でそう言った。


「まあいいや。えっと、その種貰える?」

「ええ、もちろんー。はいどうぞー」


フレアが差し出したのは、紅色の握りこぶし大の種だった。


「でかっ!」

「この種はですねー、木になるんですよー」

「ほかの木の種ってこんな大きかったけ?」

「いえー木に実としてなるんですー」

「そっち!? え、実って種を守るためにあるんじゃなかったっけ!?」


種の大きさと元の木の生態に対してのツッコミはさておいて、スプルはまずその種を地面に植えた。

手をかざし、《技術テクニクス》を発動する。


「《急速成長》!」


発動の光と共に、スプルの体が大きく持ち上がる。


「うわー!!!これ何どゆことー!?」


《急速成長》を受けた妖精郷の木、【ハウストランク】は、一気に大きくなり、プレハブ小屋サイズにまで成長した。


「え、1回進化しただけだよね!? 強化されすぎじゃない!?」

「すごいですねー、ここまで大きくなるのにはー普通だったらーかなりの時間がかかりますよー」

「かなりって?」

「1週間くらいですー」

「あ、それでも普通に早いね、ファンタジーだ」


成長した【ハウストランク】はプレハブ小屋サイズというか、プレハブ小屋そのものだった。

ただし、床はなく、地面に直接外装を置いた感じだ。

ご丁寧にドアまでついた小屋が、そこにはあった。


「もう私には【庭師】の扱いは『驚かないように』くらいしか思いつかないよ……」


屋根部分から飛び降りながら、諦観の表情を浮かべるスプルの頭に、直接電子音が鳴り響いた。


「おっと、もうこんな時間か。結局今日は種と苗木集めただけで終わっちゃったなー」


まだ30分は遊べる訳だが、【庭師】の無茶苦茶っぷりで割と精神的に疲れていたスプルは、ログアウトボタンを押す。


「じゃーね、フレア。また明日来るから」

「はいー。では楽しみにしておりますー」


微笑むフレアを見ながらスプルは春香へと戻った。



その日、MTの公式ホームページが更新された。


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【お知らせ】ユニーク称号について


MT広報部からのお知らせです。

このたび、ゲーム内で初の「ユニーク称号」獲得者が出たため、規制されていた情報を解禁します。

ユニーク称号とは、MT内でただ1人しか手に入れられない称号で、数多く存在します。

様々なフィールドに存在する「ある場所」でそれぞれの場所に定められた条件をクリアすることによって獲得することができ、他にはない特殊な効果を持っています。

また、この称号には「固有権限」という特典があり、称号の固有|技術《テクニクス》や特性をより生かせるようになります。


以上で、お知らせを終わります。


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このお知らせを受け、MTプレイヤー達は燃え上がった。

運営が全ての情報を開示していると思わていた「称号の種類」に、新たな可能性を提示されたからだ。

ただ、彼らには「ある場所」を知る術はなく、しばらくの間はまだ「その」一人の持つものとなる……と思われていた。

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