3.【庭師】と管理妖精

昨日はログアウトしてすぐに、またゲーム禁止になりたいの!? とこってり絞られた。

が、春香は特に凝りもせずにMTへとログインしていた。


「ゲーム禁止にはなりたくないからね、アラームでもつけとこう」


スプルはBICのディフォルト機能である定時アラームを、ログアウトしなければならない時間の30分前に設定してから、よし、と昨日やり残したことを再開する。


「えーと、称号【庭師】だっけ。どんなだろ」


何も無い空間を右手でピンチアウトしてメホログラムのニュー画面を呼び出し、【庭師】の説明欄を見る。


【庭師】植物を育てることが出来る。


「ほーん……植物って育てられたんだ」


MTでは、雑草のような見た目の薬草や毒草は採取できるが、花は採取できず、木も枝を折って素材として手に入れられるくらいだ。

育てられるなんて情報は見たことがない。


「でも植物……ってどの範囲なんだろう? 薬草を自分で育てられるとかなら結構儲かるかもだけど。育てる土地とかないしなぁ」


どんな植物を、どんな風に、どこで、どのくらいの時間をかけて、など様々な疑問が浮かぶが、浮かんだところで解決する訳でもない。


「まあ自分で検証するしか無いよね」


昨夜、春香はログアウトしたあとにMTの攻略サイトで【庭師】という名前の称号について調べたのだが、特に情報が出てこなかったのだ。


「じゃあまずは、技術テクニクスの確認からしよう」


称号一覧から【庭師】の詳細を呼び出し、技術テクニクスの欄を見る。


技術テクニクス・成長促進》

技術テクニクス・鑑定(植物)》


成長する称号かは分からないが、とりあえず今のところはこの2つが使えるようだった。

だが、その右上に、


「なんか変なボタンあるなー。アクティベート?」


特に何も考えずにスプルはメニュー上のそのボタンを押した。


称号【庭師】をアクティベートしますか?

<Yes> <No>


「え、もしかしてこの称号ってかなりレアだったりする? わざわざ自分で有効化する必要がある称号なんて聞いたことないけど……」


地味な名前だと思っていた称号が希少なものである可能性にドキドキしながら、<Yes>を押す。

直後、インフォメーションが届いた。



ユニーク称号【庭師】をアクティベートしました。

《個人用フィールド》を獲得

公式ホームページに「ユニーク称号について」の記事を追加しました。

獲得プレイヤー情報を公開しますか?

<Yes> <No>


「え、ちょ、えぇぇぇぇぇ!?」


驚きの結果によってスプルは混乱しまくっていた。

まず、MTによって公式に定められている称号のランクは、「汎用称号」「上位称号」「特殊称号」などがあるが、「ユニーク称号」などというものの存在は見たことがない。


「それに、ユニーク、ってことは一人のプレイヤーにしか与えられないってことじゃ……」


もしそうだとしたら、プレイヤー情報の公開はまだまだステータスの低いスプルにとっては命取りだ。

どんなゲームだろうと、人の幸運を羨み、乱暴な手段をとる者は少なくない。


「公開はNoで、ええと、それから……」


混乱した頭でを何とか落ち着けながら、スプルは【庭師】の持つ力の確認を始める。


とりあえず息を整えた。


「ふぅ……よし、じゃあ機能の確認を始めよう」


そう言うと、少し森の奥に入ってから《技術テクニクス》を発動する。


「《鑑定》」



景色が、変わった。



【ポイズン・クリセンティマム】

【エンプティーツリー】

【エンプティーツリー】

【エンプティーツリー】

【パラサイトアイビィ】

【パラサイトアイビィ】

【】

【】

【】

【】

・・・・・・・・・



視界に映る木、蔦、花、雑草、その全てに名称タグが現れる。

その圧倒的情報量は、目にしたスプルが後ずさる程だった。

そして、タグが表示された花に触れると、インフォメーションがなる。


常時発動型技術パッシブテクニクス・採取》を獲得


その技術テクニクスが発動した手で触れれば、すべての植物に関して【種】が手に入っていく。


「いや、流石にこれはちょっと……便利すぎでしょ」


そう呟きながらも、《採取》を続けていく。

そして、インベントリが種アイテムでほぼ埋まったところで顔を上げた。


「うん、もう与えられたものはありがたく使わせていただく感じで行こう、そうしよう」


スプルは、悩むことを放棄した。

そして、メニューを開いて【庭師】から「個人フィールドへの移動」タップする。


「おわっ……と」


軽い浮遊感のあと、柔らかい土地のあるフィールドへと転移する。


「ここが個人用フィールド……植物栽培用の土地なのかな?」

「ええ、そうですよー。土自体が肥料になっていてー、どんな植物も栽培可能ですー」

「ほぇー、そりゃ便利だなぁ」


我に返るまで3秒程要した。


「え!? だれ!? ここに入れるの私だけじゃないの!?」

「すみませんー。申し遅れましたー、スプル様専用フィールド『ガーデン』の管理妖精、フレアでございますー」


スプルが声のする方向に首を向けると、やけに間延びした喋り方をする、手のひらサイズの妖精が浮いていた。

その妖精ーフレアは、どちらかと言うと「美人」といった見た目で、色白の肌に青の瞳、白銀の髪を持ち、薄い紺の貫頭衣を着た手のひらサイズの少女の姿をしていた。


「え、えっと……管理妖精さん?」

「私のことはーどうぞーフレアとそのままお呼びください、スプル様ー」

「うん、わかった。じゃあフレア、あなたは何をしてくれるの?」


その質問を受け、フレアはスプルの頭の上をくるくると飛び回りながら微笑む。


「私はー気象妖精なのでー、主にここのー気温や湿度やー日差し、水やりなどの管理を行いますー」

「うっわめっちゃ有能じゃん」

「ありがとうございますー。身に余るお言葉ですー」


管理妖精は、終始笑顔を崩さなかった。

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