第41話 戦い 2
「どっちと結婚するのよ! この際ハッキリしましょ!」
「ヴェルー、結婚しよー」
俺の前には眉毛をハの字にした女性とうっとりした目を向けてくる女性がいる。
ハの字の彼女は誰もが目を奪われるであろう美貌。
シルバーの髪。そしてそれを片方だけかけ、少しつんとした耳を出している。
スラッとした長身。
胸は…まぁ。
もう一人は髪がブラウン。
出るとこが出てる豊満な体で、シルバーの女性とはまた違う美人だ。
身長は俺より頭一つ小さい。
「え、えーっと……」
結婚……。
どうしよう…。
「ハッキリして!」
「ヴェルー、結婚ー」
迫る二人にたじろぐ俺。
「よ、よし! じゃあ、最初にキスしたほうと結婚━━」
と、俺が条件を口にしかけた瞬間、目の前の二人が目の色を変えて飛び付いてきた。
鼻息が荒い!
どっちかって?
どっちもさ!
でも、嫌じゃない!
嫌じゃないけど━━イテテテッ!
何か突起物が頬っぺたに当たってる!
爪かな!?
爪だよね?!
痛い痛い痛い!!
そして息ができない!
口と鼻が塞がれてるよ!!
死ぬ!
死ぬー!
「んぐー!」
俺は目を開く。
夢だった。
似たような夢を見た記憶はある。
デジャブか?
と、それよりも目を開けたら目の前にドアップで顔があった。
鼻から口にかけて何かに塞がれている。
息ができない。
これは夢の続きか?
パニックで両手で押し退けようとするがびくともしない。
俺は俺とそれの間につっかえ棒するように木を出すと、すぐにグロウアップさせた。
近すぎて認識できていなかったけど、吹き飛ばされたソレはカーラだった。
「何だ、おい!」
鼻から顎にかけて何だか濡れているし、…何だか唾臭い?
カーラは尻餅をついて、パンチラしているが全く気にする素振りもない。
目はとろーんとしているし、顔が何だか赤い?そして、目が血走っている…。
「カーラ…?」
「ヴェルー! 体がポカポカしてー、あー、食べちゃいたいっ! ウズウズするー!あぁー」
「えっ…」
何この人…。
え、えっ?
とりあえず俺は袖で顔を拭いた。
その時、俺は一瞬目を瞑ってしまった。
その瞬間を狙ったように、四足歩行の動きでカーラは迫ってきた。
動きが意外に速く、反応が遅れてしまう。
ムッチュウ━━。
また口が塞がれた。
しかもガッポリだ。
ガッポリと塞がれた俺の口。
いや、唇。
塞いでいるのも唇。
めちゃんこ柔らかい━━イテテテッ!
「ギレウ!ギレウ! おい!アーラ!アーラ!」
俺の唇をあろうことか、噛み千切ろうとするカーラ。
俺は思わずカーラに腹パンする。
力の篭ったマジパンチだ。
さっきのはマジパンチラだ。
いや、それは今はいい。
しかし、やはりびくともしない。
子供の俺が出来るパンチなんてたかが知れている。
すぐさま、もう一度つっかえ棒をし吹き飛ばした。
威力は抑えてのつもりだったけど、意外に強めだったのか、涎を撒き散らしながら床に転がるカーラ。
そして体制を崩し衣服が捲れ上がるも、やはり気にする素振りすらない。
「どうしたこりゃ…」
とりあえず俺はいつもの
そして、正気を失ってなら…
「
空いてる手に向けて杖を振るうと、一輪の青い花が手の中へ現れた。
数枚の花弁が、中心に向かい渦を巻くように円く型どった鎮静効果の花である。
その花の香りをカーラ嗅がせるように近づけた。
するとすぐに効果は現れる。
顔の赤みと血走っていた目が治ったのだ。
「う…」
「カーラ?……大丈夫?」
「………。 キャーー!!」
「いやいやいや!え!?いやいや!!」
急に叫び出すカーラ。
なんだ?なんだ?
顔を手で隠してキャーキャーワーワーだ。
そして落ち着くのを待つこと五分。
「……ごめんなさい」
「全然いいけど…、どうしたの?」
いいけど、俺のファーストキスだからな!
アレがカウントされるならだけど。
父と母を抜かしたら、俺の大事なファーストや。
ファーストや……。
「外に出て日の光を浴びたら…何だか体がポカポカしてきて、気づいたらあんな感じで…す」
「それは赤い光の影響…?」
うーん、とコメカミを押さえるカーラ。
「まあ、それしか考えられないかな……。そ、それと…あ、あの……」
「ん?」
「…は……てだから」
「え?」
もじもじと喋るから全然聞こえねーぞ?
ちょっと顔が赤い?
あれ?まさか!
まだ残ってんのか?!
「だから、…じめ…から」
「カーラさん? 顔赤いけど、まさかまだ??」
「ちがいます! 初めてだから!バカッ!」
という事で、カウントされましたとさ。
それはさておき。
俺達は落ち着いて今の状況を整理することにした。
カーラは広場に向かえず、結局は俺と情報量は変わらなかった。
要するに、全然分かんないと。
「 みんな大丈夫なんかな?」
「どうなんだろ……。ヴェルは具合どう?」
「もう全然大丈夫だよ!すっかりんこで元気いっぱいさ」
「……じゃあ、ヴェル。 もし良かったら様子を見てきてくれませんか?」
「俺が?」
「うん。 私は、ほら…光浴びたら…ごにょごにょ…」
指先をモゾモゾするカーラさん。
かわええ。
「ああ。それはいいんだけど、場所がわかんないや…」
「あー、そっか、そうだよね…どうしよう…」
と、そこで突然ドアが開いた。
バンッと激しく開き、血走った目をした男が一人立っていた。
「カーーーラァァーー!!」
光の影響をモロに受けたネグロだった。
┼┼┼
「すいませんでした!」
ネグロは何度も何度も土下座していた。
カーラに襲いかかろうとしたのを俺が急かさず鎮静化したのだ。
もちろん記憶は残っているようだ。
「もういいって。それより、ネグロもやっぱり光のせいで?」
「も、ってことはカーラも?」
「あ、いや、私はその……」
「カーラは影響受けたみたいだけど、ネグロ程ではなくて。少しだけね」
俺がすぐに横からフォローする。
ナイスな俺。
「そ、そうか。すんません…。 何かあの光は聞いていたのとはちょっと違うみたいだ…。こんなこと言うのは恥ずかしいんだけど、どうやら自分の本能がモロに出てくる感じ?かな。 本能を呼び覚まして、本能のままに行動するみたいな」
「………」
カーラは顔を赤くして無言になってしまった。
そりゃそうだ。
あれが本能のままの行動なら中々なもんだぜベイベー。
ナイスな俺の口を吸いなしているカーラは、俺のことを好いているのだろうか。
食べようとしたのだろうか。
それとも、本当の意味で食べようとしていたのだろうか。
唇とれかけたし。
「…とりあえず原因はわかったことだしさ、ネグロ、俺は様子を見に戦っている場合に行きたいんだけど、ネグロはどうする?」
「俺も行きたいんだけど…光がな…いや、うん、もう負けん! ヴェルデ、行くぞ!」
こうして俺とネグロは雪白馬に跨がり、一路"狩場"を目指した。
ただ、馬に跨がり出発してすぐに、ネグロがまた再発したのだ。
耳元で、俺がカーラは狩場に向かったよって囁いたら、目の色変えてスピードアップで一直線だったけど。
何度も尻を叩かれた雪白馬がとても可哀想であったことは、後で正気に戻ったら責めてやろっと。
┼┼┼
「……ハァ…ハァ………もう少し…もう少しで殲滅じゃ…。タツ坊━、そっちは大丈夫かえ…?」
「よっちゃン……ちと疲れたぎゃ…。 よっちゃンは大丈夫だぎゃ…?」
ちょうど、敵を倒し背中合わせになる二人。
周囲にはゴロゴロと転がる魔物の死体。
生きているホワイトファングとアイスコングはこの二人によって、残りを五分の一以下にまで減らされていた。
鬼ババと村長の二人は、狩場に到着してから既に一時間は戦っている。
村長は投げる玉を既に切らしており、握力と腕力にものを言わせて力任せに殴り、潰し、ホワイトファングとアイスコングを圧倒していた。
しかしそれでも体には無数の傷がつき、高齢といことも相まって、体力の底が見え始めていた。
「まだまだじゃ…ハァ…ハァ…。あ、あと百は斬るかえ」
「…おう、よっちゃンがその意気ならこっちも負けていられんだぎゃ。 よっちゃンが百なら、わしも百殺って……━━ん? あ、あれは…よ、よっちゃン!!」
「急に大声だして何かえ? 」
村長の言葉に振り替える鬼ババ。
すると、雪原の奥から向かってくるアイスコングの集団と、さらに奥にある氷山の陰から姿を現す魔物が目に入った。
「ここにきて
呆然とする鬼ババ。
しかし、呆気にとられつつも手は止まっていない。
正面にいるアイスコングを袈裟斬りにし、その隙を狙った右手から来た一体も逆袈裟斬りする。
しかし、ここにきてあの集団を目にし、疲れが一気に出たのか鬼ババの動きは、明らかに鈍くなっていた。
「よっちゃン、あれはちとキツいだぎゃ…」
「確かに……アイスコングとホワイトファングも合わせて千じゃなく、二千はいたのかえ…クリスタ━━がはっ!」
突如、鬼ババは体をくの字に曲げ吹き飛んだ。
「━━よっちゃン!!」
村長に話し掛けられた一瞬、ほんの一瞬だけ鬼ババは気を緩めてしまった。
その瞬間にタイミング悪く、死角にいたアイスコングの岩をも簡単に砕くパンチが脇腹に入ってしまったのだ。
さらに追い討ちをかけようと近づいていくアイスコング。
「ぐうぅぅ…がはっごほっ」
「よっちゃゃゃン!!」
村長は数体のアイスコングに行く手を阻まれた。
意識が朦朧とし、起き上がれない鬼ババ。
あばら骨が折れ、内臓をやられたのか吐血をする。
それに殴られた拍子に剣を手離してしまっていた。
そして、追い付くアイスコング。
止めにと腕を振り上げたその時。
アイスコングの拳がボッと燃えだした。
「ウボォアアア!」
そして、拳から腕へ火が移り、そのまま全身を一気に燃やし炭化してしまった。
「…ふぅ…やっとお出ましかえ…ゴホッゴホッ」
鬼ババの視線の先には三ツ目族の面々がいた。数はそれほど多くはない。
それに、三ツ目族の村にいた者達なのか、ちらほらと鬼族や単眼族、それには一際大きい巨人族の姿も混じっていた。
「よっちゃン!よっちゃン!」
途中、"常闇の妖剣"を拾い、アイスコングを数体葬りながら近くまで来た村長。
「タツ坊…、そう慌てんなて。 大丈夫じゃ…ゴホォッ」
鬼ババは大きく吐血をした。
「よっちゃン、もう喋んな! ほら、あっちからも助っ人が来たようだぎゃ」
村長の指す方へ目を向ければ、タイミングを合わせたかのように単眼族と巨人族も歩いてくるのが見える。
「ああ。タツ坊よ、少し休憩にしようかえ…ゴホッゴホッ…ちとキツいのぉ」
と、そこへ三ツ目族の男が三名やって来た。
三人とも鍛え上げられた武人のようである。
「どうにか間に合ったようだな、鬼族の村長よ。 あとは我々に任せて下がられよ」
「遅かっただぎゃ。 …でも恩に着る! じゃあ悪いけど少し休憩させてもらうだぎゃ!」
首肯する三ツ目族の男。
そしてそのまま両目を閉じ、額の目を開いた。
仲間の二人は男の肩にそれぞれ手を置いている。
そして遅れて両目を閉じ、額の目を開いた。
二人の目からは、スカーレットデスペアの赤い光を切り裂くように、それぞれ一筋の白い光線が伸びた。
そして、一本が魔物に当たり、もう一本がそれに重なる度に、当てられた魔物は次々と炭化していった。
「すごいだぎゃ。しかしどうやって照準あわしてるだぎゃ?」
「おそらく、あの男の肩に手を置くと、男の視覚を共有できるんじゃ。聞いたことないかえ?」
「あ、あるかもしれんだぎゃ…」
鬼ババと村長が座り込み、そんな会話をしていると、
「ババ様ー!村長ー!」
「遅れてすいませんでしたー!」
声を張り上げながらサンとゲンがやって来た。
「サン、ゲン。 お疲れ様だぎゃ」
「ああ。よくやったよくやった! お前達もここで休むかえ?」
「いえ、自分たちは戦いに参加してきます!」
「ババ様と村長の安否確認ができたのでサンと行って参ります!」
そう言って腰を九十度に曲げると、来たばかりですぐに乱戦の中へと二人は消えていった。
それを見送った鬼ババはゆっくりと仰向け倒れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます