王都魔法学校入学編

第21話 いざ!入学式!

次の日。

 

 今日は待ちに待った入学式。

 待ちに待ってはいないか。

 

 とにかく新しい門出の日。

 

 予定としては入学式とクラス分けの試験だったかな?

 

 しかし、頭痛がするな。

 これは眼精疲労だろうか。

 

 昨日はあのあと、手に入れたお金を持って入学式用に小綺麗な黒のローブを店で購入し、そのまますぐに寮へと帰ってきた。

 そして薬草の件を反省し、もう一度図鑑を読み直していたら思ったよりも集中していて、気づけば大幅な時間経過とともにひどい目疲れを起こしていた。

 図鑑は卒業したけど、誕生日に買ってもらった物だし、樹属性の俺にとっては生命線ともいえる大事な物だったから、こっそりと持ってきたのだ。

 

 もう図鑑からは卒業だ!なんて思っていたけど、人間は忘れる動物であった。俺は慢心していた。先生に褒められて、お前は魔王級だなんて言われて思い上がり、この世界の魔法レベルを知って、ちょっとイイ気になっていたらすぐ失敗だ。驕りだ。

 だからこの痛みはそんな俺への戒めとして受け入れる。これは教訓。

 植物を忘れて、いざという時に魔法が使えなくなる可能性もあるかもしれない。だから日々精進だ。

 

 そしてその後は食堂で食事をとり、大浴場なる場所で湯浴みをしたのだが、疲れはとれなかったようだ。

 学校の関係者を見つけ場所を聞き出し、いざ食堂へ行ってみれば、そこは想像していたよりもずっと豪華な所であった。

 

 金色に塗り固められた壁と天井。

 つるつるに磨き上げられた床は純白の石畳。

 ところ狭しと並べられたテーブルとイスは、俺にはその価値が全く予想もつかないが、木目の綺麗な一枚板と何かの生き物の革が使われていた。

 しかし、それに反して食事はあまりにも質素であった。

 まあまだ学校が始まってないということで、簡単な物しか用意してなかったとかなんとか。

 

 食堂もそうだが、大浴場がこれまたすごかった。

 造りも豪華だが、広い。ただただ広い。湖だ。

 男女別だが、男子だけでも相当な広さだった。

まあ、在校生徒数を考えるとそれくらいの大きさは必要なのだろう。

 


さてと、時間もあまりないようだし、ぼちぼちいくか。

 そうと決まれば、埃や糸屑なんかが付いてないかを入念にチェックした新品のローブを着込む。

食事は摂っていないが、寝起きでお腹が空いてない俺はすぐに出陣することにした。

いざっ!

 

 ┼┼┼

 

 寮を出ると、おめかしをした坊っちゃん嬢ちゃんで溢れていた。

 これだけの人がいると、髪の色がカラフルでまるでお花畑のようである。同じ属性でも微妙に濃さが違うのが面白い。

 見た限りだと、赤系と青系が多いか……? 

 緑は……少なめだな。しかも、濃さで言うと風属性か。

 樹属性は…いない…かも。

 

だが、まあいい。

 

 俺は人の流れに身を任せ、一緒になって開かれた巨大な扉へと向かった。

 ここからはまだ中はよく見えないが薄暗く感じる。

 ただ、入った生徒のものだろう声が外まで聞こえてくる。

 どれもが「うわぁ」「すげぇ」といったものばかりだ。

 そして、俺の番がやって来る。ドキドキしながら扉を通り抜けると、目の前に広がるその室内はまさに幻想的だった。

 俺はそこの光景に驚嘆した。

 

 中は昼間とは思えないほどにやはり薄暗いのだが、室内を照らすのは天井から吊り下げられた巨大なシャンデリア。

 取り付けられた水晶体のようなものは、数千か数万か肉眼では数えることができないほどあり、その中心に光るオレンジの暖かい灯りを乱反射させている。

 そして天井は暗く、壁との境界線は一切わからない。その広がる漆黒にはキラキラと闇夜に光る星々のような明るいものがあり、唯一そこに天井があることを示している。

 眺めていると、幾万の星はポツポツと堕ちてきた。

 しかしそれは下まで届くことはない。落ちてはフワッと途中で消える。まるで火の粉のようだ。

 

 視線を下げると、奥はステージのようになっていてイスがこちら側に向くようにいくつか横に並べられている。

 

 そのステージに対し、広間には縦に並んだ長テーブルが十本。そしてそのテーブルを囲むイスがそれぞれ二十席ある。

 新入生は二百人なのかもしれない。

 ローソクの火がゆらゆらと揺れている以外には何も乗っていない。

 

 左の壁側には巨大な騎士の甲冑が五体立ち並んでいる。

 白銀に輝く甲冑は鏡のように室内を写していた。

 

 反対の右側には三枚の肖像画用の金の額縁が飾られている。

 というのも、額の中は絵が描かれているわけではなかった。

 三枚とも男性なのだが、動いているのである。会話もしている。最早、生きているといえる。

 大貴族のよう豪華な衣装を身に纏い、一人はワイングラスを片手に、一人は顎髭をさすり、一人は自分と他の額縁内を行ったりきたりしている。

 ……なんだこれは。

 

ここだけ切り取った別の空間のようであった。

 俺は驚愕し言葉も出ない。

 とりあえず、どうしたらいいか分からず他の生徒と同じように長テーブルの席についた。 

 

辺りをキョロキョロと見渡すと、二つ隣のテーブルにマホンの姿が見えた。

 無言でステージを凝視している。

 知り合い同士で来ていない者はみんな同じ感じだ。

 誰もが無言で席についている。

 

 あの三人の姿は見えない。と、思ったら、「兄貴!兄貴!すごいでやんすー!」という声だけが耳に入ってきた。

 姿は確認できないけど、確実にいるな。

 

なんて考えていたら、突如シャンデリアの光が消え、後方にある巨大な扉がゆっくりと口を閉じた。

 真っ暗な空間では天井から落ちてくる光の星がより鮮明に輝いている。

 

 俺が光に目を奪われていたら、どこからともなく女性の声が会場内へ響き渡る。

 

 「皆さま、お待たせいたしました! これより入学式を始めます。 進行役は、わたくし魔法薬学を担当しております、ヴィヒレアが務めさせて頂きます。では、最初に校長のお言葉。━━校長先生お願いします」

 

その言葉が終わると、後方の扉方面から闇を切り裂く一条の光線がステージ上部を照らす。

 すると、死角になっているステージの天井から、ローブはためかせながら校長先生らしき老人がステージへと舞い降りた。

 追うようにして光線は動き、スポットライトを当てる。

 片膝をついて着地した校長先生はゆっくりと立ち上がった。

 

 赤い帽子を被り、赤いローブを着込んだ老人。

 白髪の長髪で、地面にくっつきそうなほど伸びた、これまた白髪の髭。一つに結っていて、そこには不潔な感じは一切しない。むしろ清潔感がする。

 そして手には何の素材か分からない長い杖を持っている。

 

 「わしが校長のグリムランドです。 まず、新入生の諸君、入学おめでとうございます。 諸君が数ある学校より本校を選択したこと、心より御礼を申し上げます。そして職員一同、諸君の入学を心から歓迎いたします。

 

 本校の建学の精神は『体躯・智能・思想・えにし』であり、それに基づいた教育を行っています。

 知っての通り、数百年前に天魔戦争が起こりました。

 この大陸に甚大な被害を与えた戦争です。そしてまた同じような事がいつ起きるとも分かりません。だから、私達に出来ることは『備える』ことです。

 『体躯を鍛えること』それは己を、家族を、友人を、大事な人を守ることに繋がります。

 『智能を磨くこと』それは自然を知り、社会を知り、歴史を知り、世界を知り、魔法を知ること。視野を広げ、生きるためのすべを知るのです。

 『思想を培うこと』それは生きる希望を見つけ、強き豊かな人へと育つ基盤となります。

 『縁を大切にすること』それはあなた達の人間性を育み、人生観の基礎を築くきっかけとなることでしょう。

 

 さて、これから本校で過ごす十年間というのは諸君にとって、一番大切な時期と言えます。人生の成長期の真っ只中を全て本校で費やします。ここでの生活が人生に与える影響は大きいことでしょう。

 だから、しっかりと勉学に励み、体を鍛え、遊ぶときは遊び、生き生きと、のびのびと楽しく生活して欲しい。そして世のため、人のため、ひいては全ての生き物、全種族のためになる立派な成人になることを目指してください。


短いですが、時間もあまりないので、以上をもってわしからの挨拶を終わりにします」

 

校長先生の話が終ると、静まり返っていた広間にパチパチと拍手が響き渡った。

それに対し、校長先生は満足そうにニッコリと微笑むと、そのまま光の粒子となって霧散して消えてしまった。

 

 そして会場には再度光が灯り、最初と同じ明るさが戻ったのだった。 

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