第20話 報酬額ちがくね?
空は蒼がどこまでも広がり、温かな陽の光りが鬱蒼とした森に木漏れ日を落としていく。
俺は徐に立ち上がり、俺の作り出したモノへ杖を振り、消していく。
そこに残ったのは、見るも無惨な夥しいオークの死体と事切れた二人の冒険者だけだった。
あれ?何か忘れてる?
「━━おーい! 少年!」
あ、ああ、すっかりんこで忘れてた。
「すいませんっ! 今降ろします!」
俺は木の枝を魔法で操作し彼らに巻き付けていく。ヒイッという声が聞こえた気がしたが、無視だ。
そして、ゆっくりと五人を地面に降ろした。
「あ、ありがとうっ!! 君のおかげで助かった」
そう言うと、ピュールは俺の脇に手を入れる。
俺はまだ子供で身長が低いから、持ち上げられて抱きしめられた。扱いとしてはヌイグルミと同じだな。
つーか、コイツ身長高いし、顔もハンサムだな。男の俺から見ても相当いい顔している。
「いえ、みなさんが無事で良かった…で…す……あの、倒れてた人は大丈夫なんですか?!」
それもすっかりんこで忘れてた。
「━━あっ!! そうだ、急いで戻らないとっ!」
ピュールは思い出したように慌て、俺を放り投げる。
あぶねーし。
「ケガは酷いんですか?」
呼吸はしてるし、大丈夫そうに見えるけど……。
「……ああ。 マクランの方が、えっと斬られた彼の方があまりよくないんだ。 ハイポーションで止血は出来ているんだけど…。 もう一人の気絶してる方は大丈夫…かな」
「そうなんですか…」
どうやら見た目よりも容態は酷いらしい。
変に止血だけして、ケガの状態が見た目に分からなくなってるな。ハイポーションの存在意義って…。
「だから急いで王都に戻ることにするよ! 後でお礼したいからギルドで━━」
「あ、あのっ!」
「━━なっ、なに?! どうかした?」
俺はピュールの言葉を遮るようにした口を挟む。
「よろしければあの傷治しましょうか?」
「………えっ?」
ピュールの目が点になっている。
しかし、それでもイケメン。無駄にイケメンだな。
「まあいいや。 ちょっと待っててください」
なんだか説明するのも面倒になった俺は、有無も言わさずに治療することにした。
「
地面に生やした神秘的な花を無造作に引っこ抜くと、その花の雫をマクランに垂らした。ついでにと、ナイフ使いのテンにも。
二人は青白い光りに包まれると、すぐに血色はよくなり安定した呼吸を繰り返した。
テンは気絶しているだけで、大したことはなさそうであったが。
「………」
ピュールと女子二人の方へ目を向けると、文字通りの開いた口が塞がらない状態になっていた。
俺がブンブンと手を振ると、ハッとする三人。
「あの、これで大丈夫だと思います」
「━━な、何をした?!おいっ!」
慌てふためくピュール。
仲間に変なことでもしたと思ったのだろうか?
何をした!じゃねーし。傷を治すって言ったじゃん。
「━━ピュールっ!! 来てっ!!」
名前の分からない方の魔法系女子が手招きした。
マクランの近くで地面に膝をついている。
呼ばれたピュールはまだ何か言いたそうであったが、急いで向かった。
俺はあと他にやることあったかなーと考えたが、思い付かない。
なのでもういいかと思い、立ち去ろうとする。
すると、ピュールの野郎が「待って!」と、大声を出しながら俺の前に回りんで、あろうことか土下座の体勢をとった。
「何から何までありがとうございましたっ!」
ピュールは女子に呼ばれてマクランの様子を見て分かったのだろう。
止血だけだったはずの傷痕が、跡形もなく消えていたのだから。
そのまま二人の女性に視線を移すと、二人も土下座をしていた。
「いいですよ。 何も気にしないでください。それから頭上げてください」
すると、ガバッと頭をあげるピュール。
「ありがとうございます。あ、あの後処理は俺達がやりますんで!それからお礼のほうもしたいんで━━」
「あー、お礼はいらないんで……」
「えっ! 何で?! お礼させて! じゃないと俺達の、いや、俺の気がすまないんだ!」
ピュールは自分と仲間の命を救ってくれたことに対する感謝の気持ちもあるが、仲間を護ることができなかった不甲斐なさから、このまま何もしないのは納得ができなかった。
「……じゃあ、お礼の代わりに俺が関わったことは一切無かったことにしてもらえませんか?」
「……そんなことでいいなら全然それはいいけど……でも、そんなことでいいの?」
「いいんです、いいんです。 あと、後処理?もよろしくお願いします」
レッドオーク倒したとか知れ渡ったら、なんか色々めんどくさそうだしね。
それに後処理ってなんぞや。
一応、お互いに納得した上での解散となった。
あー、自己紹介もしてね。
時間もあまりなかったから、まあ名前くらいなもんだけどね。
時間がないっていうのは、レッドオークの最期の雄叫びが大きかったから、王都から人が来るかもしれないということだったので、早々に俺が立ち去ったのだ。
ちなみに後処理というのはオーク達の死体のことだ。
そのままにしておけば血の臭いに他の魔物が集まってくるかもしれない。
魔物が来なくても、ゾンビとして復活するか、死霊化する可能性があるらしい。
土に埋めても同じだ。
焼いて黒ずみにするのが一番いいらしい。
あとは、武器なんかもまたオークのような人型の魔物が拾って使わないように、壊すか売るらしい。
色々と労力がかかるようだし、剥ぎ取り報酬と武器の売却で獲たお金はそのまま彼らで山分けしてもらうことにした。
もちろんごねたが。
ついでに、何でオークがこんなところに、ましてやレッドオークなんてのが現れたのかは不明だから、そのことも報告をしてもらうことになった。一応倒してはいるけど、調査が入るだろうとのこと。もちろん、俺に関することは一切伏せて。
冒険者二人については、巻き込まれて命を落としたと報告するらしい。まあ巻き込まれたのは間違いないしね。
ちなみに、全員気絶していて、何でオークが死んだのかは不明ということにするそうだ。レッドオークを倒せる冒険者がそこらにポンポンいるわけでもないから、他に説明のしようがないらしい。
というわけで、一件落着。
じゃあ、改めて薬草探しだ。
「薬草……薬草……あれ? 薬草ってどんなだっけ」
見れば至るところに草は生えているが、これといって特徴もない。みな似たり寄ったりの物ばかりだ。
魔界の薬草ならわかるんだけど……。
俺の知っている限りは、魔界の薬草から作られる回復薬のほうがここのハイポーションよりも断然上質だ。むしろ薬草のまま使ってもハイポーションより効果は高いはず。
あれ?もしかしたら高く買い取りしてくれるかも……?
……よし、試しに魔界の薬草を持ってってみようっ!
レッツトライだ!!
そうと決まれば、俺はお試しということで二十本の薬草を地面に創った。それを刈り取り意気揚々とギルドへと帰還した。
┼┼┼
「こちらは買い取りできません」
受付嬢の第一声はそれだった。
俺の淡い期待はその一言で脆くも砕け散った。
「…あの、これも薬草だと思うんですけど、どうしてもダメですか?」
「はい、こちらはギルド指定の薬草ではございませんので報酬は発生いたしません。お返し致します」
機械的なしゃべり方だ。
マニュアル通りに坦々としゃべりやがるぜ。
でも、かわいいぜ。
無理なものは仕方がない。今からもう一度探しにいくか?
いや、きついな。今日はもう行く気がしない。メンタルをやられたせいだ。
なので、もう採りに行くのは止めて、聞いて、見て、魔法で作るしかない。
それしかない!
「おねぇさん、買い取りしてくれる薬草ってどんなでしたっけ?特徴ありましたっけ?」
「あー、えっとですね…少々お待ちください」
そう言うと、受付嬢はカウンターの下から分厚い本を取り出した。表面には細かい傷跡が多く、だいぶ年期を感じる。
「えーっとたしか……あ、これだこれだ」
受付嬢がパラパラとページをめくり、目的の物が載っている箇所を見つけると、開いて俺側へ向けてくれた。
すると、開いたページの上に草が浮かんでいた。
俺はそれを触ろうとするがスカッと通り抜けてしまう。
何度かやっとみたがダメだった。
それをクスクスと笑う受付嬢。
やっぱりかわいい。
「そちらはホログラムといいまして、魔道具になります。本に記憶した映像を浮かび上がらせるもので、実体ではありません」
「すごいですね。初めて見ました!」
「うふふ。そのようですね。 そして、そちらがギルド指定の薬草になりますので、お間違えないようにお願いします」
「わかりました!ありがとうございました」
よし覚えたぞ。
じゃ、ちゃちゃっとつくっちゃおっかな。
俺は手に持っていた魔界の薬草を近くにあるゴミ箱に捨てると、ギルドをあとにした。
┼┼┼
「お疲れさまっ!」
「お疲れ様です、マリンさん」
「あれ?レイン、その本見てたの?」
「違いますよ、冒険者の方が調べものしたんですよー。あ、それよりもうこんな時間っ!」
「そうなのよ、交代の時間だから早く上がって!」
「す、すいません!上がりますねっ!お疲れ様でした」
「うん、本も片しておくから、そのままでいいわ。お疲れさまー」
レインと呼ばれた受付嬢はヴェルデに見せた本をマリンにま任せ、せかせかと帰っていった。
「あの子も忙しないわね。 用事があるとか言ってたけど、間に合ういいわね…。しかしこの本、久々に見たわ。 ずっと使ってなかったから埃がすごい……ゴホッ」
マリンは近くにあった紙で、本の表面に付いている埃を拭き取った。
そして、ゴミ箱へそれを捨てようと近づく。
(…ん?見たこともない植物が捨てられているわね。 これ何の草だろう……?新種かしら…?新種ならお金貰えるかも……。よし、ダメもとで鑑定に回そ)
王都には鑑定局があり、日々冒険者などから多種多様なモノが運ばれてくるのだ。
それが未確認生物であったり、新種のモノであると認定されれば賞金が貰えるのだ。場合によっては命名権も与えられる。
マリンはヴェルデが捨てたそれをこっそりと懐にしまうのだった。
┼┼┼
俺は
杖を取り出す。
そして、周りをキョロキョロと、再度人がいないことを確認すると、地面に杖を向けた。
「クリエイトプラント」
ニョキニョキと生える薬草。
すかさず摘み取る。生やしては摘み取り、生やしては摘み取る。摘み取っては生やす。あれ?地味にめんどくさい……。
とりあえず三束分、三十本を収穫すると急いでギルドへ戻った。
┼┼┼
ちょっと戻りが早すぎたかな、怪しまれるかなと思いつつ戻ってみると、あのかわいい受付嬢がマリンさんに交代していた。
ラッキー。
俺はすぐにマリンさんのところへ薬草を持っていく。
纏めてドンッとカウンターに置く。
今度はどんなもんじゃい、と勝ち誇った顔だ。
口角を少し上げ、フンッと鼻を鳴らす。
マリンさんからしたら何でそんな態度なん?って感じかもしれないけど、そんなの関係ねー。
高い値がつくかもと期待した魔界の薬草が、まさかのゴミ箱行きだった件が、俺の心を少し傷つけたことなんて説明してやらないぜ。
「お疲れ様、ヴェルデくん。 買い取りだね。 えーっと……こ、これは! いや、ちょっと待っててね」
「あ、はい」
何かやっちまったか?
慌てたように奥へ引っ込むマリンさん。
それから五分ほど待っていると、マリンさんは小袋片手に急いで戻ってきた。
「では金額ですが、まずはご確認ください」
マリンさんはマニュアル通りの丁寧な言葉で小袋を俺に手渡してきた。
中身を確認すると、金貨一枚と銀貨五枚が見える。
あれ?報酬額ちがくねー?
「……えっと、これ合ってます?」
俺はビックリどっきりでおそるおそる尋ねた。
「ええ、こちら上薬草だから間違いないわ。しかし、この数をどこで……」
ぬぁんだって??薬草ではなく上薬草??
「あれ?……これって薬草では……?」
「えっとね、薬草は緑色で、上薬草は青色の葉っぱなのよ?」
あれ?あれれ??
「すいません。 魔道具の本で薬草見せてもらえませんか?」
「え? ……ああ、いいわよ」
マリンさんは該当ページを開いて見せてくれる。
やっぱり青色の草がそこに浮いている。
「…あお……ですよね?」
「ああ……これ、古いせいもあってホログラム映像が全部青みがかって見えるのよね」
「そ、そうですか……」
ぎゃふ。
なんてこった。
本来は緑の薬草が青みがかっていたせいで、上薬草を薬草と勘違いしてしまった。めったに採れないもなのに三十本も持ってきてしまったよ。
「ヴェルデくん、しかしこんなに何処に生えていたの?」
マリンさんは俺が作ったとは思っていないようだ。
普通はそこまでの考えには至らないか。
作ったって言ったら不正になるのだろうか?
捕まっちゃうのだろうか?
だから俺は答えた。
「それを聞いたら俺に惚れるぜっ!」
俺は金を受け取り、出口で振り返ると、飛びっきりのウィンクをぶちかましてギルドをあとにしたのだった。
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