第22話 クラス分けするってよ
「では、こらからクラス分けを行いたいと思います。 ですが、その前にまずはステージをご覧ください」
進行役のヴィヒレアの声と共に、ステージ上の空席のイスにスポットライトが当たる。イスは十席。
俺を含め、ここにいる誰もが何が起きるのかとステージに目を向けていると、袖幕から登場する十人の大人。
全員がイスに腰を下ろしたところで、さらにヴィヒレアは続けた。
「今、登場していただいたのが、新入生である皆さんの担任の先生達です。
時間もそんなにないので、今は名前だけご紹介したいと思います。 では、皆さんから向かって左から━━━」
どうやら、ヴィヒレアさんは俺達新入生の担任ではなかったようだ。
どの先生も俺の見知った顔ではないが、名の通った人達なのだろうか?
あれ?何か一人だけ見たことあるような顔してるな。あれは誰だっけ…名前を聞けば思いだすかもしれない。
と、俺が考え事をしていると、横に座っているやつが肩をトントンと叩いてきた。
「なあ、あそこのテーブルの席に座ってるやつってさ、アレキサンドリア家の奴かな?」
こいつ誰だ?そして、そのアレキサンドリア家なんて知らねーぞ。そいつが言うアレキサンドリアって奴は隣のテーブルに座っている生徒だ。言われてそっちを見るもやっぱり知らない。
とりあえず、両隣の女の子とキャッキャしてるのは確認したけど。
「ごめん。分かんない」
「そうかー。まあ僕も顔は知らないんだけど、赤髪の女好きっていったらアレキサンドリア家なんだよなあ」
「……いや、人を知らないんじゃなくて、アレキサンドリア家を知らないんだわ……」
俺の言葉にそいつは目を開き驚いている。
驚きすぎて顎が外れかけているし。まだ発展途上の顎なんだから外れたらクセつくぞ。アッパー喰らわしてやろうか?
と、思ったら目と口を元に戻し、小声で話始めた。
その間もヴィヒレアさんの教師の紹介は続いている。
できればそっちに集中したいだが。
というか、こいつは誰だよ。
「まじかよ。 アレキサンドリア家を知らない人がいることにびっくりだわ」
俺は今、明らかに興味無さそうな顔をしているのに、それでも話を続けるあんたにびっくりだよ。
「……そういうことには疎くてね」
「そうか…そんな奴もいるんだな……あ、
「………」
何だ?ヒーローか何か?全然しらねぇよ。
「おう……。 めちゃめちゃ有名なんだけどな…。 アレキサンドリア家もそうだし、あっ、ほらあそこにいるトンプソンも」
「トンプソンだとっ?」
「おっ!トンプソンは知ってるんだ。 そう、そのトンプソン家も
━━よし、僕が
「━━ありがとうございました。 では、続いてクラス分け試験を行います。先生方にはこのまま試験にお付き合いをお願いします」
うわ、一人の紹介も聞かずに終わっちゃったよ。
あの見たことあるっぽい人だけでも名前知りたかったのに。
「お、試験だってよ。 じゃあ説明はまた今度なっ!」
「………」
そいつはニカッと笑って、ヴィヒレアさんの言葉に耳を傾けた。しゃべるだけしゃべって……。
まあいいや。
とりあえず俺も説明を聞かないと。
「試験はこの場で行います。 ちなみに試験とは言いましても、みなさんをクラス分けするためだけに力をみるだけですので。基本的に、全てのクラスの実力が平均化するようにさせていただきます。クラスは一クラス二十人の十クラス。総勢二百人です。
では、全員起立っ!」
ヴィヒレアさんの言葉に生徒全員がイスから立ち上がった。
立ち上がる際の音以外には一切何も聴こえない。
若干の緊張感が漂う。
と、ふと頭上に気配を感じ、俺は上を見上げた。
すると、空中に光の文字が浮いているではないか。
それもすぐ目の前だ。
そして、そこにはこう書いてある。
『ゆっくり座れ』と。
俺は周りを見渡し、ゆっくり席についた。
気づいた者は俺と同じようにイスに座っていた。
気づいていない者は呆けている者、なんで座ってるの?という疑問が顔にでている者、釣られて座ろうとしている者がいるようだ。
「なあなあ、何で座ってんの?」
おしゃべり君が後ろから話かけてくる。
ここにも一人いた。どうやら彼には見えていないようだ。
もちろん俺は何も言わないが。
「おーい!聞いてます━━」
「はい。 今、立っている人、それからそこのアナタとアナタとアナタは前に出てきてください」
おしゃべり君のおしゃべりもピタリと止まる。
エッといった言葉が口の出口まで来ているが、ギリギリ発音されていないようだ。
ヴィヒレアさんに言われるがままに前に出ていくおしゃべり君。
何度も俺の方へ振り返るが、俺は無表情でそれを見送る。
そのまま同じ前に出てきた数名と一緒に、テーブルとステージの間の少し拓けた場所に座らされているのが見える。均等な人数に分けられ、十列になったようだ。
まあ人数が少なく、列というほどでもないが。
ちなみに指をさされて呼ばれた三人は、釣られて座った人達のようだ。
ステージにいる教師たちがそれを監視していたのだ。
「はい。えー、今のは、魔力を光の文字に変化させたものをみなさんの頭上に浮かべました。魔力を感知できる人なら見えたかと思います。ですので、ここに残っているみなさんは、魔力感知はできる人達です。
続いてですが、そのまま席に座ったままでテーブルを確認してください。そこには一人に一枚の紙があります。その紙は特殊な素材でできていますので、魔力に反応すると色が変わります。ですから、今からみなさんは魔力を操作し、紙に魔力を移し色を変えてみてください。━━では、始めてください」
クラス分け試験というのは、ふるいにかけて実力の乏しい者からクラスを決めていくようだ。実力の無い者、有る者の人数を全てのクラスが同じくらいの人数にし、力の差がないようにしているようだ。
俺はてっきり、なるべく成績の近い者を一クラスにまとめ、カースト制のようになるかと思っていたが、それは違ったようだ。
周りを見ると、次々と色を変えている生徒が多数。
さすがというべきか、身なりを見ても貴族っぽい子達が多く成功しているようだ。
さぞかし練習をしてきたのが、そのギリギリ成功したと思わせる顔からも滲み出ている。安堵の息がそこらじゅうから聞こえてきた。
もちろん、俺は余裕で紙の色を元々の白から緑へ変えている。
どうやらその人それぞれの属性の色に変化するようだ。
そして、ここで色を変化させることができなかった者は、感知出来なかった生徒の後ろへと並ばされていく。
この段階で残った者は、二十人くらいだろうか。
だいぶ減ってしまったのをみると、魔力操作が入学時点でできる者はほんとに少ないんだと実感する。
いや、二百人中の二十人は多いのだろうか?
「お疲れさまでした。 ここで二十二名のみなさんが残りました。 私の記憶する限りでは今まででトップだったと思います。 優秀です!」
どうやら多かったようだ。
そんなヴィヒレアさんの声には、少し熱が籠っているように感じる。
「本来ならこの残ったみなさんをクラスに均等に振り分けて終了となるのですが……そんなみなさんへ質問です。みなさんの中に既に魔法が使える人はいますか? もしくは秘術でも技術でも、戦闘ができる方は挙手をお願いします」
そんなヴィヒレアさんの言葉に会場がざわざわとする。
教師達を見ても、どうやら予定にはないことのようだ。
ヴィヒレアさんの独断か?
俺はどうするか……。
悩みつつ他の人を見ると、手を挙げるものがちらほら。
そして、ここまで残っているマホンは手を━━━挙げていない!?
まあ一子相伝の秘術だからあまり言いたくないのだろうか。
しかし、俺は不遇属性だし、それに俺以外にも割りと魔法が使える同年代はいるようだから隠すほどでもないな。
「おお、ありがとうございます。 一、二、三……六人! 多いっ!! あっ、すいません。興奮して取り乱しました! ゴホンッ、えーっと、ではこれから会場を移しまして六人の方には実力を見させて頂きます。 模擬戦を行いますので、準備をお願いします」
まじかよ……。ここなら魔法を見せることないと思っていたのに会場移すのか…。しかも、模擬戦ときたか。
俺以外の五人はやる気に満ちているし。
仕方ないな……。
俺達六人を除いた、十六人は既に前方の列に加わっている。
「少し待っててね。ガール達」
そう言いながらウィンクをし、投げキッスを飛ばすのはアレキサンドリア家のご子息だろう思われる少年だ。
俺と彼を除いた他の四人は、緊張しているように見える。
そして、ウィンクと投げキッスをくらった女子の黄色い声がうるさい。
その黄色い声に混じって陰口も聞こえてくる。
もはや、声が大きく陰口になっていないが。
「不遇属性のくせにいきがってんじゃねーよ」
「どうせ、風で草の葉っぱが揺れたのを自分の魔法でできたとか勘違いしたんじゃねーのか?」
「おい、あいつ樹属性のくせに模擬戦だってよ。笑えるなっ!ハッハッ」
俺の耳に入ってきたのはこの三つ。
他の五人を見ても樹属性はもちろんいないから、これは俺のことなんだよね。
まあ俺はこれっきしのことでは腹を立てたりはしないさ。
さてさて。
もう本気出しちゃおうかな。あわよくば、陰口叩いてる奴らのほうへ誤爆しちゃおうかな。
ふん。
俺は、移動し始めた五人の後ろについて行くことにした。
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