第14話 冒険者ギルドにいっちゃうか

「ああ、トンプソンか」

 「それは家名だがな。 まあ好きに呼べ」

 「じゃあデブ」

 「マホンと呼んでくれ」

 

 マホンの話によると今は入寮生を集めて、食堂や大浴場の使用方法等のルールについて説明会をしているらしい。

 だから人が全然いなかったようだ。

 

 どうやら俺はさぼってしまったらしい。

 う~ん、そんなこと言ってたかな………。


 「で、マホンはここで何を?」

 「俺はスルスルイカを買いに来たんだ。 あまり持ってこなくて心許なくてな。 お前もか?」

 

 何だよ、スルスルイカって。知らねーし。

 

 「俺はヴェルだ。 スルスルイカって何だ? 初めて聞いたぞ」

 

 そう答えた俺に対し、マホンは目を限界まで開き信じられないと言った顔をしている。

 

 「おいおい。貿易都市トゥールの特産品だぞ? しらねーってまじかよ」

 これだぞとマホンは言いながら、かじっている得体の知れない棒みたいのをヌチャッと抜いて見せてくる。

 

 「お、おおう。 それね」

 「先っちょだけいくか?ん?先っちょだけだぞ」

 

 マホンはヌロンヌロンになっているスルスルイカの先を向けてくる。

 くさっ!

 「間に合ってるから大丈夫だ! それ美味しいの?」 

 めちゃくっせーけど。

 

 「……残念だ。 これは噛んでると味が出てうまいし、痩せる効果もあるんだ」

 「そ、そうか。 なんかごめんな」

 くっさ。

 

 「まぁいい。 おま、ヴェルは何を探してるんだ?」

 「ちょっと生活品を。 服とか少なくてな。 でも金にそんな余裕がなくて……いい店をしらないか?」

 「いい店は知らないな……だが、金がないなら冒険者ギルドに行ってみたらどうだ?金稼ぐなら冒険者ギルドだろ」

 「あっ! それだっ! ありがとうっ」

 

俺は思わずマホンに抱きついた。

 

「おい。やめろ! 」

  

 すぐに離れる俺。

 こいつ少し頬を赤くしてやがる。

 

 「後で行ってみるわ! んじゃな!」

 「ああ。 せいぜいがんばれよ」

 

 しかしあれだな。俺も大概だけど、こいつも年齢相応の話し方しない奴だな。

 もしかして……まあいいや。

 俺はマホンと別れ、商店街を散策することにした。

 

 ┼┼┼

 

 いくつかのお店を回ったがこれといって収穫はなかった。

 服屋はあったのだが、大人サイズばかりだった。

 子供サイズもあったにはあったが、数が少なくて値段がばか高い。安いのは小さい物か女性物ばかりだ。

 う~む、どうするか……。

 

 一応、まだ全てを見たわけではないから、たぶん探せばありそうではあるけど…けど、何せ広いっ!広すぎてもう既に足が疲れちまったよ。

 

 今日のところは寮に帰ろうかな。金をほいほい使えないし…。

 金稼げるなら高いやつでもいいか。

 金欲しいな。今欲しい!すぐ欲しい!

 よし、冒険者ギルドっ!

 行くしかないな。

 

 冒険者ギルドまではだいぶ距離がありそうだけど、登録にいくだけ行ってみるか。

 俺はとりあえず冒険者ギルドへ向かうことにした。

 

 

 

 人通りを抜けて十字に走る大通りにでる。

そこまでにすれ違った兵士を見て思うが、兵士の数が多い。

 街の中には槍と銀色の甲冑で全身を包み、その場から動かない兵士と、黒の革鎧を装備し、腰に細身の剣と短い杖を差した兵士が見廻りをしているのを頻繁に見かけた。

 他の街を知らないから比べることはできないが、これだけの兵士を抱えるその姿こそが、この街が資金力に優れている証なのだろう。

 そんなことを考えながら歩いていると、また前から二人組の兵士がやって来る。

 

 「すいません!」

 「ん?どうしたんだい坊や」

 「あの、冒険者ギルドはどこですか?」

 俺はよくよく考えたら冒険者ギルドがどの建物なのか知らなかった。

 「えっとね、あそこに盾の看板が見えるかい?」

 「はい」

 「あれは防具屋なんだが、その隣にあるよ。 袋からお金が溢れているマークのある建物が冒険者ギルドだから」

 「ありがとうございます」

 

 俺は兵士にお礼を言うと、早足で冒険者ギルドへと向かった。

 

 そして、いよいよ辿り着くといった所で、ギルド店内へと入っていくマホンの後ろ姿が見えた。

 

あれ?あいつもギルドに用事あるのか?

 

 マホンに続いて次々と大人達が店内へと入っていく。

 俺も続くようにしてさりげなく滑り込む。

 

 一歩踏み込んだそこは、酒と酸っぱい汗の臭いとが漂う男だからけの空間だった。

 フロアには丸テーブルがところ狭しと並べられ、傷だらけのおっさんや屈強そうなおっさん、ガチガチに装備を固めたおっさんが座っている。おっさんばっかりや。

 

 中には赤く染め上げた革鎧のようなものを装備した、露出高めの女性っぽい人も目につくが、筋肉質で一見して性別不明だ。

 

 奥にはカウンターテーブルがあり、三人の受付嬢らしき人が見える。

 その前をおっさんが列をなしている。

 一ヶ所だけが異様に長い列だ。人気の受付嬢か?

 

 そして右手には貼り紙がびっしりと壁に貼られ人だかりができている。あれはなんだろうか。

 その人だかりの中に大人に絡まれているマホンの姿も見える。

 

さてと。

 俺は受付しなくてはいけないから並ばないと。

 

  「━━━のところへ帰れや。ガキは家で大人しくネンネしてろ」

 「ギャハハハ!」

 「はっ、俺はガキじゃねぇ。それに冒険者になるために来たわけじゃねーし。人探してるんだよ」

 

 俺の耳にそんな声が聞こえてくる。

 

 「あー? ガキだろうがよっ! ここはお前みたいのが来るとこじゃねーって言ってんだよ」

 

 おー、キレてるキレてる。

 

 俺は巻き込まれないようにそちらを見ないようにした。

 

 「うっせーな。すぐ出てくよ。知り合いがここに━━あっ!おい! ヴェルっ!」

 

にも関わらず、巻き込まれた。

 まあそうなるよね。

 

 「よ、よお!」

 

 「あー?何でガキがいやがるんだよ。なんだなんだ、ここは公園じゃねーんだぞ」

 

 スキンヘッドの強面のおっさんが酒を片手に絡んでくる。

 マホンにのとこにいる奴とは別のおっさんだ。

 ここのおっさんどもは暇なのか?

別におっさんどもに害はないのに、なんでこんなしゃしゃり出て来んだろ。

 

 「公園だなんて思ってません。 僕は冒険者になるためにここに来ています」

 

 「おいっ!聞いたか? ガキが冒険者だってよ!しかもお前、樹属性じゃねーかっ! 無理!無理! ヒャハハハ!!」

 

 俺はその一言でフロア中の嘲笑を買った。

 

 おっさんは何が面白いのかめちゃめちゃに笑っている。

 近くにいるおっさんの肩を叩きながら笑っている。

 叩かれているほうは、それが痛いのか全然笑っていない。

 というか、笑っているおっさんを睨み付けている。

 

  面倒くさいから俺はそれを無視した。

 

 「マホン、こんなところにどうしたんだ?」


  マホンはさっきのおっさんに、さらに何やかんやと絡まれていたが振りほどいて俺の側へとやって来た。

 

 「━━あのさ、これ見てくれよっ!」

 

 そう言って差し出してきたのはくせーあれだ。

 

 「スルスルイカ?」

 

 「そうっ! 五年熟成のすっごいレアなやつだってさっ!衝動買いで箱買いしちゃったぜ」

 「そうか。お前、家帰ってネンネしろや」

 より一層くせーよ。

 

 そんな会話をしていると、俺とマホンは頭をガシッと掴まれた。

 「無視してんじゃねーぞ。 大人を舐めんなよコラッ」

 

 スキンヘッドが顔を真っ赤にしてキレていた。

 しつこいなー。

 

さて、どうすっかな。

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