第13話 王都を散策しよう

部屋は一人部屋だった。

 新入生のほとんどは四人で一部屋が基本らしいが。

 貴族や王族になると一人部屋は当たり前だ。

 要するに金を払えば一人部屋を与えられる。金額に応じて部屋の大きさも変わる。

 世の中金だ。

先生ありがとう。

 

 部屋はそこそこ広く、ベッドと机と棚があるだけだ。

 自分で部屋をカスタマイズするのはいいらしい。

 ジャングルにしてやろうか。

 

 特にすることもなく、部屋に荷物を置くとすぐに廊下に出てみた。

 荷物といっても最低限しか持ってきてないからほとんどない。

 そのため着替えの洋服も乏しいから街へ買い物に出掛けようと思っている。

 廊下は閑散としていた。

 はて、俺以外の子供達はどこへ行ったんだろうか。

 部屋から出てこないだけなのか?

 

 金によって部屋のグレードは違う。

 グレードの高い部屋があるフロアは廊下のグレードも高い。

 

途中に裸の赤ん坊がしっこをしているような湧いてる水があったりもする。あれは飲める水らしい。ほんとに水なのだろうか。

 

 とまぁ、人気ひとけはないし廊下のことも割りとどうでもいいから、このまま外出をすることにした。

 

 ┼┼┼

 

 寮は学校入口近くに設置されているため外に出るのは容易い。

 

 門から外へ出て、商業地区へと移動する。

 道には溢れ返った人、人、人である。

  路上販売してる人もいれば、見せ物のようなのことをしてる人もいる。

 あちこちから様々な音が聞こえ、音楽もいくつも聴こえる。

 

 毎日がお祭り騒ぎとは誇張でも何でもない、それに騒ぎどころではなく、文字通りにお祭りだ。

 毎日フェスティバル。

 特に今の期間は入学を迎え、人の流入が激しい。

 それに合わせたイベントがめじろ押しのようである。

 

 こんな光景を見たこともない俺は、平静を装っているが実はめちゃんこ興奮している。

 珍しい物、いい匂いのするものに目移りしてしまうじゃないか。

 俺は餞別としていくらかのお金を両親に渡されていた。

 しかしお金が湧いてくるわけでもないから、無駄遣いはしない。よし、ガンガンいくぜ。

 

ご飯は寮でタダ飯でいけるから、とりあえずは足りないものだな。

 俺はいい匂いのする店には目もくれず、服屋を探すことにした。

 

 こうして見ると、あれだな。親子の姿はちらほらとあるが、子供だけの姿が見えないな……。

 まじでみんなどこ行ったんだろ?

 

 そんなことを考えながら歩いていると、人だかりの出来ている所へと差し掛かった。

 

 「さあさあ、お立ち会い。ここにいるガルムント君を見事一発で倒したら、なんとっ!金貨五枚だよー! 我こそはと腕に自信のある方っ! 参加費は銀貨一枚っ! パンチでも魔法でも一発だけだよー! さあさあ━━━」

 

 ハットを被り黒の服を着こんだ男がそう叫び、客を呼び込んでいた。

 この世界の貨幣は銅貨、銀貨、金貨、白金貨の四種類だ。


  銅貨十枚で銀貨一枚

 銀貨十枚で金貨一枚

 金貨百枚で白金貨一枚の価値がある。

 

 一発で倒せれば銀貨一枚が五十枚に化ける。破格だ。

 

 しかし当のガルムント君、筋骨隆々という言葉では足りないくらい筋肉がパンパンだ。ドライ先生よりも筋肉量は一目瞭然に多い。高身長で上半身は裸で、肌は黒光りの艶々。

 髪は茶色だから見たところ土属性かな。

 

 「よっしゃ。 いっちょうやったるわ」

 

 赤髪のおっさんが参加表明した。髪は短髪の真っ赤。火属性だろう。

おっさんは参加料を払うと、ガルムント君に相対する。

 すぐに何やらぶつぶつと言い始めた。呪文詠唱だ。

 あれは恐らく攻撃力を上げる魔法であると思われる。

 

 ドライ先生曰く、四大元素属性にはそれぞれ身体強化に特化した魔法があるのだとか。

 風なら素早さ。『エウロスレッグス』は足の速さを上げる魔法だ。

 火は物理攻撃力、土は物理防御力アップである。

 水は鎮静化を司っていて、相手の物理攻防力と素早さを下げる魔法があるらしい。

 

 おっさんの呪文が何なのか分かっている様子のガルムント君は、それに対して防御力を上げる魔法を使ったようだ。

 

身体強化したおっさんが拳を握った。

 そして雄叫びをあげる。

 「オラアァ!!!」

 ドライ先生にも勝る一撃のようにも見える。

 大きな岩石を殴り付けたような鈍い音が響いた。

 

 「ぐおおぉぉぉ!!」 

 

 おぉ!これはなんということか。

 苦悶の声を上げる。地面を這いつくばるようにして悶絶している。

 あまりの痛々しさに直視できん。

 

耳に残る骨折音を響かせたと思ったら、おっさんの腕がプラプラとしている。

 そう、ガルムント君の防御力がおっさんの攻防力を圧倒的に上回っていた。

 ガルムント君は傷一つなく、笑顔だ。

 おっさんは腕の状態厳しく、地獄だ。

 

 「はい、残念でございましたー。 またの参加お待ちしております。 さあさあ、お立ち会い。ここに━━━」

 

 司会進行役の男はおっさんに対して目もくれずに、淡々と口上を述べていく。

 

 しかし、これは中々の強者だな。ガルムント君。

 この中に倒せる人いるのかなー。

 なんて思ってたらまた一人手を上げる奴がいた。

 

 「━━フゥフゥ。……よし、やってやる。俺はやってやるぞ」

 「兄貴っ!兄貴ならいけるっす。お願いっす」

 「そうでやんす!兄貴なら倒せるでやんすっ!やるでやんす」

 

あの三人組だ。

 はな垂れ小僧の兄貴が無謀にもヤル気らしい。

 参加費のお金を渡す手が震えているじゃないか。

 どうしたんだ?緊張しているのか?

 

 「こ、ここでふや、増やして、こここ、こ、こいつらのぶ、分もはは、払うんだ。や、やるしかない。やるしかないんだ」

 

「さあさあ、勇敢にもこの少年がガルムント君に挑むぞー!みんな応援だー!」

 

 司会野郎がそう言うと、回りの野次馬達からは声援が飛び交う。拍手や口笛も聞こえる。

 

両手で頬をパンパンッと叩く兄貴。

 気合いは十分だ。

 

 「いくぞっ!おらぁぁー!」  

 

 兄貴は腰を下げて気合いのタックルかます。

 ちょっと図体のデカイくらいの子供が、筋骨隆々の大人にタックルしたところで敵うはずもない、と俺は思った。

 もちろん、思った通りだ。びくともしない。

 と思った次の瞬間、股間を押さえて膝を地面につくガルムント君。膝をつく時にさらに兄貴の頭に顎をぶつけたのか、ぐるんと白眼を剥いて泡を吹いた。

 

 「うおおぉーーー!」

 

 勝利の雄叫びを上げる兄貴。

 

 兄貴のタックルは見事に股間に命中していた。兄貴をなめかかっていたガルムント君は魔法を使っていなかった。その股間に石頭がピンポイントだ。

 子供が大人にじゃれてパンチやキックをしていて「ハッハー!効かねーぞガキー!」って余裕こいてたら、ラッキーパンチが股間に当たって悶絶しちゃう、あれと一緒だ。

 

 しかも、股間に頭突きした後にがむしゃらに繰り出したパンチも股間にアッパーしていたし、顎が頭に当たっていた。実質、三発だ。

 が、司会野郎からは見えない位置になっていたから気づいていない。

 子供にまさかガルムント君がやられるとは思っていなかったから、驚愕と悔しさが混じったような顔をしている。

 野次馬からは称賛の嵐だ。

 

 「いいぞー!坊主!」

 「俺の金だがお前のもんだー!」

 「やるじゃねーか!持ってけドロボー!」

 

 うん、お前のじゃないしドロボーでもないね。

 

 「あにぎ、あにぎー!」

 「ざずがあにぎでやんすー」

 「へっへ。 これで暫くは生活が大丈夫だな」

 

三人ともめちゃめちゃ泣いてんじゃん。

 三人とも裕福ではないのか?

 見た限り身なりはあまりよくはないな。素行もな。

 無理して王都の学校に来たくちなのか?

 

 苦い顔をしながらお金を渡す司会野郎。

 

 「さあさあ、もう今日はお開きだよ!散った散った! 起きろ!ガルムントっ!くそっ」

 

 尻を蹴られたガルムント君は恍惚な表情を浮かべたまま起きた。気持ちわりい。

 意味わからん。

色黒い。


 さてと、気を取り直してお店いこ。

 

 「おい、お前もサボりか?」

 

 唐突に後ろから肩を掴まれた。

力強いし。

 振り返るとそこには

 

 「あ、シャンテントン」

 「トンプトンだ」

 

 トンプトンが何かをかじりながら立っていた。

 

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