第12話 王都アヴィニオンですやんかー

王都アヴィニオン。

 

 四方には広大で巨大かつ堅固な壁を備えている。

 それは真っ白な石造りで、同じ素材で都内も造られている。

  大陸の人口の半分がここで生活をし、多くの生産物があり交通網も発達、商業施設は多種多様にあり、他都市や残存する村々の物資や生産品も集積する。多くの品物を取り扱う商人が多数をしめ、一大交易都市して活況を呈している。


  街の中心には王の住まう白亜の宮殿が建てられ、宮殿を中心として十字方向へ赤茶けたレンガで舗装された道が真っ直ぐに伸びる。その道を境として四つの巨大な地区へと別れている。

 

 まず、入口からすぐ左右へ商業地区が展開する。

 向かって左側、南西には飲食店や娯楽施設、服飾関係のものや露店が占める。

 

 南東には、手前に魔法道具や装飾品屋、それに武器や防具店に冒険者ギルドが並び、奥に宿が連なっている。

 

 さらに宮殿の奥、北西には王都民の住居が区画整理されキレイに立ち並んでいる。

 

 そして宮殿より北東の位置に、その区画全てを使い、白く山のように高く聳え立つこの大陸一番の魔法学校が建てられている。

 

  ┼┼┼

 

 俺はドライ先生の案内により、学校入口まで連れられ入寮の手続きをする長蛇の列に並んでいる真っ最中だ。

 

 ドライ先生はここにはいない。

 何でも外せない用事があるからとかで、大した言葉を交わすこともなくお別れをした。

 その際、読んどけと言われ一通の手紙を渡された。

 

 手続きにはだいぶ時間がかかりそうで、特に暇潰しの物がない俺は、ドライ先生の手紙を開いてみた。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 

 ヴェルデへ

 

 王都はどうだ?凄いだろう。

 連日連夜お祭り騒ぎのように賑やかで、華やかだぞ。

 初めのうちは戸惑うかもしれないが、まぁ楽しめ。

 しかしあれだよな…同じ大陸にあるとは思えない程に別世界だよな。

 なんとな、大陸の人口の半分がここにはいるんだぞ。

 なかなかお目にかかれない代物たくさんあるからな。

 いっぱい見て、いっぱい学んで世界を知るんだ。

 さて。

 

 どうしてもお前に伝えたいことがあるんだが、中々口に出しては言えなかった。

 つまり、俺は恥ずかしがりやさんだ。

 きっとお前は何言ってんだコイツと思っただろう。

 利口なお前はこの手紙を読んだら走りだすかもしれない。

 だから、手続きを済ましてから読んでくれていることを願うばかりだ。

 いいか?よく聞けよ。

 先生はな、お前という生徒に出会えて、この世界の魔法に対する考えが変わったよ。

 いるんだな、お前みたいな奴が。

 子供のうちからそれだけの魔法が使える奴はそうはいない。

 うん、だからな、お前はこの学校で学べ!そうすればお前はまだまだ伸びるだろう。

 

 

 

 でだな、この手紙を読んでいるということは俺はもこの世にいないだろう。

 お前という存在を知り、俺は自分の力の限界を知った。

 過信していた自分が恥ずかしい。

 もし過去に戻れるなら、自分の力に有頂天になっているあの頃に戻りやり直したい。あの頃の俺を殴ってやりたい。

 だが、それは叶わない。決して叶わないんだ。

 だから、自分の命を断つことで転生できればと思う。

 きっと、転生した俺は記憶の欠片も残っていないだろう。

 俺は俺ではないだろう。

 だから、俺という存在がいたことを忘れないでくれ。

 

 そして、俺がこういう行動をとったのは俺の判断であり、お前には関係ないからな。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 

 ここまでで一枚目が終わっている。


 ━━先生!

 さっき別れてからそこまで時間は経っていない。

 まだ間に合うかもしれない。

 俺は、手続きの順番が前に残り二人いうところで列から飛び出した。

 先生に鍛えられた脚力で辺りを探し回る。

  

 くそっ!いないっ!くそっ!くそっ!

 

 ハァハァと息は切れ、頭に酸素が足りないのか思考が回らない。

 あーっ!くそっ!

 どうするか━━あっ、二枚目だ。手紙は二枚あった。

 

 俺は手紙を開こうとするが手が震えてうまくいかない。

 

 深呼吸をして落ちつかせる。

 ふぅふぅ。………よし。

 

 内容はこうだ。

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 とまぁ、これからが本題なんだが列からは抜けてないだろうな?並び直すと大変だぞー。

 まぁいいや。

 

 お前は特待生にはなる気はないし、安い学校でいいと言っていたな? 

 大陸で一番安い学校はエルフ族の近くに建てられているやつだ。

ブルノーブル家からの距離で見ても一番近いし、そこに行くつもりだったか? 

 でもな、安いところは習う内容もそれ相応になってしまうんだ。

 だからな、値段は高いが王都の学校は凄いぞ?

 一流の教師が揃っているし、内容も最先端だ。

 お前にはそこでどうしても学んでほしくてな。先生のエゴだが、金は俺が持つからお前の成長を俺に見せてくれ。

 がんばれっ!負けんなっ!

 

 P.S. 一枚目の前半は頭を縦にな

 

 お茶目な先生より愛を込めて

 

 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 ん??んー???

 

 やべっ、意味がわからん。

 何だよ。前半の頭??

 えーっと……えーっと……。

 

 ………………。

 

 ………………。

 

 あ………。

 

 死ね。

 三回死ね。

 心配して損したわ……。

 

 

しかし、アヴィニオンか……。

 楽しそうではあるけども。

 はぁ。

 家族は俺以外知ってたんだろうな。今にして思えば、両親に特待生試験は受けないこと、安くて近くでいいことを伝えたときにうんうんと頷きながらも、どこかニヤニヤしてたもんな。

 俺はてっきり下心がバレているのかと思ってたよ。

 

 先生のご厚意はありがたい。ありがたいけども……ジル……。

 

 もう、今は考えても仕方がないか…。

 今更、入学には手遅れだし、俺にはあそこまで行く足もないし、伝もない。

 そのことについては後でゆっくり考えよう。

 

 よし、そうと決まればとりあえず入寮しよ。

 

 ┼┼┼

 

…………。

 

 さっきよりもめっちゃ並んどるやんけ。

 先生のボケ、カス! ゴリラぁ!

 

 仕方なく、俺は再度一番後ろに並ぶことにした。

 することもなく、ただただ呆けていたら後ろから声をかけられた。

 「おいっ! お前!」

 

後ろを振り返ると、ちょっと小太りの男の子が何かをかじりながら声を上げていた。

 

 「なんでしょうか」

 「早く前進めや!」

 

 どうやら俺はぼーっとして進むのを忘れていたらしい。

 前を見ると、少し間が空いている。

 

「おっ、ここ空いてんじゃねーか。ラッキー」

 

 今度は図体のデカイ鼻垂れ小僧がやってきた。

 二人のしもべを連れている。

 ガリガリのおかっぱ頭とチンチクリンの出っ歯だ。

 

 「兄貴っ!ラッキーっすね!」

 

 チンチクリン出っ歯だ。

 

 「後ろの奴がとんまでよかったでやんす」

 

 ガリガリのおかっぱがそう言いながらキシシッと笑っている。

 

 「おぃおぃ、お前ら後ろ並べよ! こちとら一時間は並んでだぞ。 何がラッキーだよ!アホか」

 

「あ"? 何だてめぇ」

 「あ、兄貴っ!こいつトンプソン家のガキっすよ」

 「トンプソンでやんすか?」

 

 俺はよく知らないが、そいつはトンプソンという家の子供だったらしく腰に手を当て早口に捲し立てる。

 

 「俺のことはどうでもいいんだよっ!みんな頑張って並んでんだ。 ラッキーとか言ってないで後ろ行けや。 何ならこの先にいる受付の人に言うぞ? 入学前から問題起こしてりゃいいクラスには入れないだろうな。 下手したら入学取り消しかもな! 証人はこんなにもいるんだから、俺の証言は嘘では通らないぞ」

 

 「ちっ、おめぇらいくぞ!」 

 「いいんすかー?兄貴ぃー!」

 「兄貴ー待ってくれでやんすー」

 

 んー、こいつらほんとに俺と同い年か?

 ガキんちょのくせにいっぱしのおっさんと子分だな。

 

 三ばかは尻尾を巻いて逃げて行った。

 やるじゃねーか、トンプトン。ん?シンプソン。なんだっけ。

 

 俺は拍手をする。

 こんな子供のくせによう口の回るやっちゃ。

 

 「おい! 拍手してないで、前詰めろよ」

 

 若干照れているようにも見えるトンに言われ、俺は前を見る。既に俺の前は人がいなくなっていて、俺の番であった。

 

 手続きは何事もなくすんなりと終わり、部屋番号言われた。あと、部屋に荷物置いたらなんちゃらとか。

 そしてそのまま今日は終わりのようだ。ご飯は食堂で風呂は大浴場を使えるらしい。

 んと……、大浴場ってなんだ?

 

明日は入寮手続きの最終日。その次の日に入学式とクラス分け試験があるらしい。

 

 さて、今日は残りをどう過ごそうかな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る