冒険者登録編

第11話 馬車に揺られて俺は行く?どこへ行く?

俺は一通ひととおりの身仕度を済ますと外に出た。

 

 まだまだ外は眩しく、思わず目を瞑ってしまう。

 少しずつ目が慣れるようにゆっくりと開いた。

 

 すると、目の前には豪奢な造りの馬車が止まっていた。

 イースト家の馬車である。

 

 って、馬車かよっ!!

 今日から入寮の予定なのに今日到着しねーじゃねーか!

 

 御者の男はもちろん彼、ゴリである。馬車の横に立っていた。

 「これはこれはブルノーブル家のご子息様。 お久しぶりにございます」

 「ゴリさん、お久しぶりです。 これから少しの間お世話になります」

 「これはご丁寧に。 まだ小さいのにしっかりしてらっしゃいますね。こちらこそどうぞよろしくお願いします」

 

 俺とゴリさんがそんな会話をしていると、後ろからゴリラがのしのしとやって来た。その後ろには家族とメイドの姿も見える。

ちなみに兄ももうすぐ出発をするらしい。

 今は学校が長期休暇で帰省していたがもうすぐ新入生を迎え、一学期が始まるのだ。 

 

 「待たせたな。 では、行こうか」

 ドライ先生は家族とあいさつを済ませてきたのか、さっさと馬車に乗り込んでしまった。

 

 「━━では、いってきます」

 

 母とマオは目にうっすらと涙を浮かべている。

 

 「いってらっしゃい。体には気を付けてね」

 

 頷くと、俺も馬車に乗り込む。

 ハッ!っというゴリの掛け声とともに、馬車は一路学校を目指す。

 

 ┼┼┼

 

 馬車に揺られ揺られているのだが、フカフカの座布団に衝撃を吸収する材質で作られているらしく、この馬車の乗り心地は最高だ。

 これなら道中ストレスもなく目的地へ行けるだろう。

 「ドライ先生。 今日、入寮予定なんですよね?馬車で悠長にしてて大丈夫なんですか?」

 

 てっきり転移とかで一瞬に行けるのかと思ったよ。

 

 「んあぁ。 まぁそうだな。 入寮期間は一週間設けられているから大丈夫だ。 しかし、あれだ。 馬車の手配をすっかり忘れててな。 馬車がこっちに来る時間を計算し忘れてた。 ハッハッハッ」

 

 豪快に笑う先生ののどちんこが目に入った。

 すごくプルプルしている。

 健康そうなピンクだ。

 

 というわけで、目的地である都市アミアンまでは二日ほどであろうか。

 

 さて、以前マオに聞いたアミアンについて少し思い出してみる。

 

 アミアンというのは、数百年前に活躍した勇者の名前だ。

 当時、天界人と魔族が戦争をおっぱじめた。

 発端は天界人が魔族の大陸に堕ちてきたことからとされているが、その真実はわからない。

 元々仲悪かったから難癖つけただけかもね。

 

 とにかく、その被害を受けたのが他の種族が住まう緑の大陸である。

 その大戦による被害は甚大であった。森は焼け、地は割れ、生き物は死に、このままでは全てが消滅するだろうと思われた。

 四種族は考えた。

 自分たちには関係なくねぇ?と。

 彼らはどげんかせんといかんと同盟を結ぶことした。

 他種族をあまり良しとしないエルフや自民族以外に興味のない閉鎖的なドワーフが手を結ぶ、それは歴史的快挙な瞬間であった。

 人族からは勇者アミアンが。

 その力は圧倒的で、他の三種族から選ばれた英雄はアミアンの眷属とされ、一行はその多大なる力で終戦へと導く。


 というのが、マオから聞いた歴史にあるお話。

 そして、教材に記述されている都市アミアンについてはこうだ。

 

  ━━宗教都市アミアン━━

由緒ある神殿をもつ宗教上の中心地に発達した都市。大陸の東に位置する。

数百年前に起こった天魔戦争を終結させた『勇者アミアンと三人の眷属』を崇拝している。

 この都市を治めている教皇は人族であり、そこに住まう人々も人族が多くを占めている。占めているだけであって、中にはエルフに獣人、ドワーフの姿もあるらしい。

 都市アミアンは寛大であり、救いを求める者には何人にも手を差し伸べる。特に信仰心の厚い者には手厚い。

 

 そして、この大陸にいる全種族を祀っているために、参拝する者は人族に限らない。数ある都市の中でも一番に四種族の出入りが激しい。

 市場にはそれに合わせた多種多様な飲食店、土産店が建ち並び、街は活気に満ち溢れているという。

 

 近くにはエルフの里があり、唯一エルフが心許す都市といっても過言ではない。

 エルフの学校とアミアンが経営する学校は隣接しており、交流は頻繁であるらしい。


(すごく楽しみだなぁー。 ジルは元気にしているだろうか。 俺のことを忘れていないだろうか。━━早く会いたいなー) 

 

 ┼┼┼ 

 

 次の日。

 

 天気は快晴。

 カラッとした空気は馬車を快適に進ませる。

 辺りは鳥のさえずりと、馬車のカラカラと回る車輪の音がするだけだ。

 

 昨日は道中、魔物はおろか肉食動物などの獣に襲われることもなく予定通りに進むことができた。

 今日も何も無ければアミアンに着く予定だ。

 

 長閑だ。

 特にすることもない。

 向かいに座る先生は、最初の頃はぺらぺらとお話しをしていたのだが、話が尽きたのかずっと瞑想をしている。

 目を開けるのは食事の時とトイレの時くらいか。

 

 先生の生家であるイースト家はブルノーブル家よりもずっと位の高い貴族だ。

 そこの嫡男であるドライ先生はほとんど道楽で先生をしている。

先生としての歴史は浅い。

 俺が三人目らしい。

 要するに丸三年しかやっていない。

 そして、その中でも俺が群を抜いて優秀だったらしい。

 不遇属性にも関わらず嬉しい限りである。

 

 と、そんなことを考えていると馬車が急に停車した。

 

 「……坊っちゃま。 野党です。 全員武装しております」

 

 ゴリさんが前から声をかけてくる。

 

 「何人だ」

 

 ドライ先生はゆっくりと目を開く。

 

 「十人にございます。 どういたしますか?」

 

 「やれ」

 

 なんとゴリさんがやっちまうらしい。

 

 「……先生、手伝いますか?」

 「いや、ゴリに任せておけばいい。それよりも俺は寝るから、何かあれば起こしてくれ」

 

 何かあればって……今まさに何かあってるけど……。

 

 「……わかりました」

 

 先生が目を閉じ、寝息が聞こえてきたかと思えば、外から野党の声が聞こえてきた。

 

 「━━おいおい、ここを通りたければ金を払ってもらおうかッ!」

 「ほっほっ、ここはあなた方の私有地ですかな? 聞いたこともないですが?」

 「うっせーな、じじいがッ! 黙って金を置いてけやッ! いいか、よく聞け。俺らは泣く子も黙る『フォレストパラダイス』だ。 死にたくなけりゃ全財産置いてくんだよッ! おっ、よく見りゃ高そうな馬車じゃねぇか? それもバラして売ってやるから渡しやがれ!」

 「あぁ、あの有名な賊ですな。しかし、無理なお話でございます。 あなた方にお渡しできるのはこの鞭の味だけでございますが、それでよろしいですかな?」

 「チッ!なめてんなじじいがッ! おめぇらやっちまえ」

 

 そんな会話が聞こえてくるが……あれ、たしか『フォレストパラダイス』って西の方で出没するって聞いたことあるんだよな…。今は東に向かってるから、その情報もあてにならないなぁー。

 しかし、ゴリさんは鞭使いなんだな。

 どれだけの腕前なのか興味はあるけど、窓から見えない位置にいるみたいで音以外は全くわからない。

 姿が見えれば車内からでも魔法で援護できそうなものだけど、ドライ先生が信用してるゴリさんだ。

 ここはお任せしよう。

 

 外からはハッ、というゴリさんの声と鞭の叩く音、それから盗賊達の「ぐあぁ」とか「ぎぃやあぁ」とか「このじじいつえーぞ」という声ばかりが聞こえてきた。

 

 それから十五分程すると辺りは静まり返っていた。

 ……終わったのか?

 

 ちょっと外へ出て確認しようかと悩んでいたら、ゴリさんの声がかかった。

 「━━お待たせ致しました。 では、先を急ぎましょう」

 

 俺が返事をする間もなく、また馬を叩く音が聞こえたと思ったら、すぐに出発となった。ドライ先生は寝ている。

 

 「ゴリさん、大丈夫でしたか? お怪我ありませんか?」

 「ほっほっ、ご心配の必要はございません。 あの程度の輩に遅れをとるほど、まだまだ歳をとってはいませんぞ」

 

 このじじい何歳だよ。でも、怪我なくて良かった……。

 

 「…それなら良かったです。 それで、盗賊はどうなりました?」

 「ほっほっ、大地の恵みと相成りました」

 

 要するに天に召したのね……。

 なかなかあっさりとしたもんである。

 この世界では命のやりとりは普通なんだろうね。

 

 さぁ、気を取り直して先を急ぐぞ。

 急ぐのは馬だけど。

 頑張れ!馬!

 

 ┼┼┼

 

 あれからは何もなく、休み休みではあるが都市アミアンに到着することはできなかった。

 ゴリさん曰く、予定以上に順調に進んでいるとのことだが。

 

 そして、朝から走って現在は夕方。三日目の今日にして、やっとこさ街が見えてきた。

 

 ぐるッと囲む壁は圧巻の一言である。

 壁を越えて都市の中に侵入するのは難しいと思えるほどに高い。

 入り口は一つしかなく、巨大で重厚な扉で閉ざされている。

 門番がおり、その前に多くの人が列をなしていた。

 入門に手続きが必要なようだ。これはだいぶ時間が掛かるようだな。

 と思ったら、イースト家の馬車はごぼう抜きしていった。

 

 屈強な、これまた筋肉パンパンな門番に、ゴリさんが簡単な手続きを済ませると、これまたあっさりと通してくれた。

しかも、あの巨大な扉ではなく、その横に普通サイズの扉が作られていて、そっちからの通行となった。

  

 馬車の全体が通過すると、見送る門番がにっこりと敬礼をし、一言大声をかけてくれた。

 

 「ようこそ!! アヴィニオンへっ!」

 

 はぁ~。やっと着いたーーー!

 アヴィニオンへ着いたーー!

 ……。

 へっ……?アヴィニオン??

 

 どこそれ。

 

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