第18話 水の国防衛戦 Ⅴ 結果と休養


 どんなに支えられていても、どんなに励まさされても、人の死に自分が関わっているなら、人の命を背負う責任が重く圧し掛かってくる。平和ボケしてるレベルの国から投げ出されれば普通はこうなってしまうだろう。

 そう、俺は普通なのだ。特別体が頑丈な訳でもない、頭が良いわけでもない、運動神経が抜群な訳でもない、強靭な精神力を持っている訳でもない、強力な特殊能力を持っている訳でもない。


 フィリアに褒められたからと言って調子に乗って、人の命が自分が立てた作戦で何人も犠牲になって、精神が壊れそうになって、またしてもこうして人様に迷惑をかけている。







 あれから3日、精神面と肉体面からあのまま救護室のベッドで休養することになった。毎日誰かしらお見舞いをしに来てくれているのが本当にありがたかった。一昨日はギル、昨日はファルテ、今日はまだ来てない。


 ……今回の作戦、それ自体は成功と言っていいだろう。風の争奪戦離脱、土のリーダーを落として、火のリーダー核と思わしき人物も二人落としたそうだ。こちらはガヌさんが亡くなった。それとアマンさんが片目を失ったそうだ、あと前衛兵と17名、偵察隊8名の合わせて25名が命を落とした。2名まだ行方知れずだ。決して少なくない犠牲だ。






「おい、貴様、身体は大丈夫なのかよ?」

 横にいるシイナファン? のスポーツ刈りの男、名前は『オーガス』さんと言うそうだ。


「……まあ、うん」

 正直良くはない。毎晩、顔も分からない死んでしまった人の夢を見る。酷く苦しくて痛くて辛い夢を見ているせいで睡眠不足、頭痛、そして食欲も無い。


 ――でも、5日程前の自分だったら廃人になってたかもしれない。壊れになったけど、壊れてはいない。ボロボロなのには変わりないけど。


「ゆっくりと休めるといいよ、雑談相手にならいくらでもなるからね」

 糸目の好青年の『トルト』さんがさらに窓側から声を発する。この部屋は自分合わせて3人だ。

「ありがとう、だけど貴方方は何故まだここに? こう言っちゃなんですけど元気ですよね」


「ん、お前の見張りだ、シイナ嬢に何か――」

「えっと、僕らは今日で退院、だから今日でお別れだね」


 邪魔するなよ、と突っ込みながらも頷く。

「ふん。まあそうだ、貴様はいつまで居るか分かららんが、手を出してみろ分かってるよな?」

 威圧が凄い、俺はそんなつもりも度胸も何もないよ、身の程は弁えているつもりだし……。


「ギンジはそんなことする人ではありませんよ」


 シイナだ、またタイミングの悪い時に来たものだ……ほら、また凄い目でオーガスさんが睨んでくる。布団の端を噛んでキィーってやっている。少女漫画でよくある奴だ、やる人は初めて見た。


「貴方達は今日で退院ですね。最後に検査してからです。荷物の整理だけお願いしますね」

「俺はもう少しここでこいつを監視しないといけないんだ!!」

「はいはい、分かりましたよ。それじゃトルトさん後は宜しくお願いします」

「了解でーす」


「あぁ! 待ってください!」


 嘆きの声は届かず、伸ばした手は空を切る。やり場に困った手は俺に来る。

「ちくしょー、貴様ァ! 桜の木の下に埋めてやる! 生き埋めにしてくれる!」

「まあまあ、落ち着いて」

「お前だって、フィリア嬢があんな風だったらどうなんだよ!!」

「そりゃ、まあ、埋めるしか……」


 うわぁー、なんかやばい電波拾ったぞこれ……。


「銀、お見舞いに来たんだけどー……後、着替えも」


「よし、何処に埋めようか、場所はオーガスが考えて、殺り方は僕が……」



 ――そうなるよねー!



「よし来た、南の外れに――」

「待って、違うんだ! 同じ家に住んでるから着替えを――」



「ん?」「ん?」

「あっ」



「処す? こいつ処す?」

「いや、長く辛い目に合わせてじっくりとやろう」

「待って待って! 違……わないけど違うんだ! 別に何かある訳でもする予定も――」

「ん? そうよ? 私達は家族なんだし、何もないよ?」


 多分深い考えがない発言だろう、雰囲気が『家族になろう発言』の時にそっくりだ。



「……」

 うん、分かってはいるけど、分かってはいたけど、そう面前できっぱり言われると心が傷つく。


 ホロリと一筋、涙が頬を伝う。魂が抜けかかっていると肩を両サイドから優しく叩かれる。



「えっと、なんだ、すまん」

「うん、ごめん。僕らは仲間だ」



「うるせー! 俺に優しくするなぁぁー!!」

 もぎゃぁー!と喚いていると、くすっとフィリアが口元を押さえて上品に微笑む。



「良かった、元気そうで。心配してたのよ? 私はあの場に居なくて、聞いた話なんだけど結構大変なことになってたって」

「うっ……。まあ、ええ、はい」 俺はうろ覚えだったけど何となくやばいことになってた記憶はある。


「その分ならすぐに家に戻って来れそうね、退院したら約束の特製オムレツ作ってあげるから、それじゃ着替えはここに置いておくよ。また来るね。お大事に」




 ……去り際にまた大きな爆弾を置いて行ったな……。




 肩に触れていた二人に手が肩を潰さんばかりの力で握ってくる。逃れようにも上から押さえつけられえていて、動けない。




「やっぱ処す」「異論なし」


「いやー!」


「絶対に許さん!」


「流石の僕にも許しがたい事だ、観念して――」



「 煩 い で す 」



「「「あ、はい。すいません」」」


 シイナが謎のオーラを放っている、怒ってるようには見えないけど威圧感が凄い。

 平常時はあんな感じでも作戦本部に呼ばれるくらいの人なんだから凄いんだ、と改めて思う。そういえばあまり人との関わりが無いってギルから聞いたけど、単純に言葉足りてないだけで、実際は『異性』と話してるのを見たことないっていうのなら納得できる。マイナなんて特に友好関係が広そうだし、人付き合い上手そうだし。


 何かそれ有りそうだなぁ。そもそもギルの言ってたことが正しいとも限らない。ストーカーしてる訳じゃないだろうし、全部を知ってる訳じゃない。むしろ俺のが近い位置に居るのが何とも皮肉なものだ。これが無欲の勝利(?)というやつだろうか?



 何にせよ、双子の師匠についても話を聞く予定だしその時にでも色々聞いてみようか。


 ……今みたいに軽口でも、人と話すのは気が紛れる。今日は特にいつもより元気な気がする。そう考えると俄然食欲も湧いてくるってものだ。そんなことを考えていたら『きゅるる……』と気の抜ける音がする。



 ――お腹、空いたな――。



 数日振りに、そんな感覚に見舞われた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る