第16話 水の国防衛戦 Ⅲ 蛮勇は生か死か
「――!」
「―ン―!」
「ギンジ!!」
「――っ!!」
「「痛っ!?」」
目を覚まし飛び起きるとおでことおでこがぶつかり、鈍い音が響く。
「あ”あ”あ”……痛ぇ……」 ここに来てから頭を抱えてばっかりだ、精神的にも物理的にも。いや、そんなことよりも俺とぶつかった相手は――。
すぐ横で仰向けに身を投げ出して倒れてる。シイナだ。倒れたまま動かない。
「うっそ、マジで? ちょっと、大丈夫?」
待って待って、死んでないよね? 頭突きで人殺しとか洒落にならん。 肩揺さぶる。頬を軽く叩いてみる、首の動脈らしき所を触り、脈を計る。良かった。生きてはいるみたいだ。
「すぅーー、はぁーーーー……」自分が落ち着く為のと安心の混ざった深呼吸。
「……ん……っ……」
シイナも目が覚めて、ゆっくりと体を起こす。おでこを押さえながら顔を顰める。
「シイナ! 大丈夫!? ゴメン、飛び起きたときにぶつかったみたいで……」
「いえ、大丈夫です。魘されてたから前のめりになって声をかけた私も悪かったんです。それよりも無事みたいでよかった」
「そう、なのか。ありがとう。えっと俺はどれくらい寝ていたんだ……?」
「10分ほどです。怪我も疲労もしていたみたいですから」
「そうだ、ガヌさんは!? ビウスさんは!? ギルは!?」
「ビウスさんは手当てした後、まだ来てないガヌさんを捜しに行きました」
――まだ、来てない――。
嫌な予感がしてきた。通ってきた道以外の所? ふらふらしてたから道に迷った? もしくは敵に出くわしたとか……。
……ガヌさんはそっちに任せよう。俺はギルの所へ行かないと。
体が軽い、痛みも消えている。治してくれたのだろう「ごめん、治してくれてありがとう。だけどギルの所へ行かないと……」
「ギンジ」 普段は少し自信なさげな声で喋るのだが、今のは真っ直ぐに芯のある真剣な声だった。俺を睨むように見据える。 「回復魔法、無理して使ったよね? 命に係るって言ったはずよ」
「……相手も命に係っていたから……」
「それでも、自分は死んでも相手だけは助けるような真似だけはもうしないで、絶対に」
「……」 この感じ、まさか過去に何か――。
「……あ、ごめんなさい。みんな生きていて欲しいだけなんです……」 いつもの声色に戻り、視線を泳がせ、胸の前で手を合わせて指をぐるぐるしている。
「……もしシイナが良いなら、今度、話を聞かせてよ」
「――」
「あ、いや、ごめん、無理はしないから、ギルを探しに行くわ」
少し気恥ずかしくなり話を逸らしてから逃げてきた道を戻る。あっちじゃこんなキャラじゃなかったんだけどなぁ。もしかして元々はこういう質だったのかな。ここにきて本当の自分が出始めているのかな。
余計なことは今はいい、ギルを探しに行こう。
あの時の怪我で、体調の悪さを考えると歩くペースは大分遅かったはず、そこまで深い所ではないと思うんだけど……。通ってきた道としては少し形になっていたから分かりやすい。けど、本当にこの道で合ってるか確証は持てない。
少しすると騒がしくなってくる。爆発したり剣と剣の交わる音が辺りから聞こえ始める。近くにいるのか? 声出して確認するか? いや、敵だらけだったらどうするんだ。ここは慎重に――。
言いかけてから動きを止める。正面から誰かが走ってくる。あれは……。
「ギル! 無事だったか!」
「おうよ、って言っても今はそんな余裕がない、魔力が切れてな。門まで走るぜ」
俺の方を見てから後方へ視線を向ける。
「――なるほど」
敵だ、5人程が追いかけている。俺じゃどうしようもないし、ギルも魔力切れならあの数は捌けないだろう。ガヌさんは……。回復したビウスさんが居るから大丈夫か? そもそも俺が行っても一人じゃ何もできないし、後ろの敵をどうにかしてから考えよう。
「分かった、とりあえず逃げるか」 来た道を引き返す。「ビウスさんは、ガヌさんを捜しに行った。まだ門に着いてないって、後ろの敵をどうにかしたら探しに行こう」
「了解だ、門まで行けば警備の人達がいるはずだし、今のワイらよりは戦えるはずだし」
――警備の人、待てよ俺が寝ていた辺りに人影はあったか? 門のすぐ前とは言え、完全に中で迎え撃つなんてことをするだろうか? でも行くしか選択肢はない。俺の杞憂であってくれ。
「……うそだろ、なんで人居ないんだよ」
先を行くギルがぼそりと呟く。門の前はがらんとしていて、どう見ても守っているようには見えない。
「後ろからも来ている……ギル、門の中へ行って助けを呼んできてくれ。俺は魔力がまだある時間稼ぎは得意だ」
「……すまない、分かった。無理はするなよ!」
良くて1、2分で助けは来る。なんとか振り回してやり過ごそう。5人はヤバい。何で増えてるんだよ……。無理して先に行けとか言ったけど、俺よりギルのが生存確率高かったんじゃないのかな、いやそれでも魔法で遠距離攻撃が出来るのは大きな利点か。できる事を精一杯するしかない。長くはもたないだろう。無茶はしないって言ったんだけどな……。どうしようもない。
風と土。さっきと同じくらい、いやもっと大きく。根性出せ、これくらいなら出来るはずだ。
先ほどの倍以上の7mはある砂嵐が完成する。この大きさだと俺も巻き込まれてもみくちゃなる。外で目立つよりはマシだろうか。にしても視界が悪い。目に、口に砂が入ってじゃりじゃりする。風の音で足音も声もわからない。記憶を頼りに門の方へ向かってみる。
――バァッン!!!
砂嵐に向けて何か爆発した。この爆発するような音は火魔法か? なんでここにいるんだ?
今の爆発で風の勢いが弱まり、視界が晴れてくる。完全に消える前に先手を取ろう。風水で――。
――バァッンッッッ!!!!!
目の前に火魔法が落ちてきて視界を光と熱で埋め尽くす。とっさに目を瞑ったが目が焼けるように熱い。視力は大丈夫か? と言うより俺は大丈夫なのか?
気が付くと地に転がされていた。爆発で吹き飛ばされて背中をぶつけたのか、背中に何か刺さったような痛みが走る。腕も、脚も、体も動かない。耳も上手く機能してないみたいだ。
「……っ……っ」 何とか酸素を取り込もうとするが上手く息が出来ない。 敵が向かってくる。どうしようもない。
諦めかけたその時、後ろから何人かの兵士が敵に向かって行く。良かった。間に合った。ギルも加わっている。数では有利だ恐らくあとは問題ないはずだ。あ、シイナだ、何か言っているが上手く聞こえない。ごめん、声も上手く出せないんだ。何か言いながらも魔法で手当てしてくれる。 じわじわと痛みが引いていき、聴覚が戻ってくる。
「ねぇ! 無事なら返事して!! ねえ!」
「……ぃあ……」 声がまだうまく出せない。だけど意思表示くらいは出来る。ひねり出して無事を知らせる。
「っ! 生きてる!?」
「……ん」
「良かったっ!」
後ろから覆いかぶさるように抱き付かれる形になる。なんでこんなに心配する必要があるのか。心配してくれて嬉しいのだけど、理由が分からない。話して1日なのになんで――。
「ギンジが師匠に似ているからじゃないかな」
俺の様子を察してか、上の方から声が聞こえた。マイナだ。綺麗な赤い瞳を細める。
「外見、というより中身や雰囲気が本当に似ているの、それは見たときから感じていた。だから――」目を伏せる。
「続きはまた今度、ね。今は目の前の事に専念しましょ」
話をしている間に傷は殆ど癒えて動かせるようになっていた。
「ごめん、ありがとう」 立ち上がって前線へ向かおうとすると立ちくらみのような症状に襲われる。そういえばやけに頭がボーっとしている。
「血を流し過ぎてる。ギンジは休んで」 肩を支えられて、ドクターストップ……。
俺はここまでか。
後はみんなに任せよう。
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