第14話 水の国防衛戦 Ⅰ 三つ巴


 遂にやってきた。来る日。


 確定ではないが攻め込まれる確率が高い日だ。騎士の皆はピリピリと緊張感へ包まれる。


 門で辺りを見回していると一人ローブを纏った人がこちらへ走ってくる。あれは、恐らく偵察部隊の連絡係だ。ここに来たということは、攻めに来たということだろう。実際に姿が見えるまでは待機だ。

 どうやら土の国が来たみたいだ、予想通り。だとするとあと他にどこかから来るはずだが……。


 暫くすると反対側からもう一人。風の国が来たみたいだ。予定通りだが、土の兵が見えてきてしまう。


 仕方ないが、もう出撃を始める。風の国が来るまで時間稼ぎメインの体制で、到着を待つ。攻めに来てる土だが、それほどの突破力はない様に見える。逆に自陣じゃなくてもあの防御力という訳だ。おかげで進軍の速さは遅い。風の国もじきに追いつくだろう。

 噂をすれば正面から大軍が押し寄せてくる。あれが風の国だろうか? と言うか進むスピードが尋常じゃ無い。あれが支援魔法の力なのかな。動き回って切り刻んでるイメージ。至る所で渦が巻いてる。文字通り風になってる訳か。風の速さが想定外だがここまでは順調だ。そろそろ本陣の出番だ。


 俺が前に出て。注意をを引き付ける。嫌でも目に入るだろう。そこに氷魔法をありったり放り込む。前の矢の雨ならぬ氷槍の雨だ。この数は躱せない。障壁が発動する。


 ズザザザザザザザッ!!!


 とてつもない量の氷が辺りを埋め尽くす。これで大まかに蹴散らせた。、入れ代るように前衛兵が突撃する。同時に偵察部隊がかき回しに入った。戦況は混沌として、正直訳が分からない。だが、敵を正面にだけおいてあるから二国よりはやり易いはずだ。水の国を頂点に三角形になってる。


 風の方は何とかなっているけどやはり土の守りが硬い。意識を散らしにそちらへ向かう。剣士は無理だから弓兵や魔術師の方へ行く。 近づいたところでおれは人間を殺すことが出来るのか? 無理だ、出来る気がしない。なら邪魔をするのに専念しよう。

 風と土を混ぜて砂嵐みたいにして視界を奪おう。洗濯機の砂版を作る。大きさは適当な大きさに――。


 加減が上手く出来なくて、予想より大きくなってしまう。3m程の砂嵐は正面の弓兵へ投げつけられる。「うわぁ」とか「ぐわぁ」と悲鳴を上げながら3.4人巻き込んで吹き飛ばす。


 ――あれ、そういえば俺は水以外の魔法も割と使えているのでは? 全体的に使えるが全部平均的なのかな?


 にしてもこれはなかなか使いやすい。砂が目に入って戦いにくいし吹き飛ばせる。味方にだけは当てないように気を付けよう。


 もう一発、右方へ撃つが、吹き飛ばない。足取りこそ鈍ったがそれだけだ。

 もしかしてさっきのは俺が水魔法以外を使って驚いただけなの? これは実にマズいのでは? 焦りで集中力が途切れ、魔法が途切れてしまう。そこへ

「そこ、躱せよな!」

 氷がいくつも飛んでいく。足に刺さったり、弾かれたり様々だが一歩引いていく。

「ギル、お前っ!」

「フハハ、ワイは無敵や! 何でも掛かって来い!」

 その元気さに元気づけられる。そうだよ、お前はそれでいいんだ。


「風!敵将発見!」

「土にもいます! 気を付けて!」


 どうやら親玉さんが居るようだ。顔が分からないからどの人かわからないけど、腕の立つ人だろうから目立つはずだ。土の方にガヌさんとビウスさんが来る。それじゃ風にはファルテかな?


 ビウスさんは動きが軽やかだ、ひらりひらり躱してサッと一撃を入れる。いつも見ていた人とは別人にしか見えない。『柔と剛』まさしくあの二人を表すのにぴったりな言葉だと思う。その二人と互角以上に渡りあっている人物、ガヌさんと同等のガタイ、盾と剣。厳つい顔、あの人がリーダーなのか。大将は一体、誰なのか。


 そこで、戦況の中心部で爆発が起こる。爆発とともに肌を焼くような熱風が全身を包み込む。


 ――息が出来ない。


 数秒後またしても爆発が鳴る。今度は南の方だ。大軍が居る。そしてこの熱さ。これは……。


 火の国、奴らだ。


 ――そう来るかよ。


 1対1対1の三つ巴作戦が、1対1対1対1の四つ巴作戦になってしまった。ただでさえ状況把握が難しい状態だ、この先どうなるか予想もつかない。それぞれの地力に任せるしかない。


 火の国は土の方へ向かって進軍してくる。時折、爆発と熱風が飛び交う。形は変わってしまったが土と火、風と水の構造になってる。悪くはない。

 だけど、やはり土の国は俺を狙う動きが多い気がする。この進軍も厄介者の退治だったのではなかろうか。それに戦況の変化とそれぞれの戦い方のせいか、じわじわ左右に引き離されている。左右には林が茂っている。更地よりは幾分マシだろう。

 本陣に戻るにしても、浮き出て集中砲火を喰らうのは避けたい。だから、隊列から動けない。仕方なく動きに合わせる。幸い腕利きの戦士がこちらにも居る。だが。


 ――多勢に無勢、か。


 腕利きは腕利き同士で戦う。それ以外の数が違いすぎる。何とかして合流、または後方支援を頼みたいところだが、本隊側が少しでも早く終わるのを祈るしかないか……。なるべく外れを位置取って剣術から逃れる。捕まりそうになったら、他の人を盾にするしかない。申し訳ないけど頑張ってくれ、すまない、すまない……。俺には気を引くことしかできない。

 ガヌさんとビウスさんと一人で切り結んでいるのは土のリーダーだろうか、三人とも素人目でもわかるくらい周りとレベルが違う。コンビネーションは下手に組み合わさると一人より弱くなる。だけどあの二人はぴったり息があっている。それぞれが隙を埋め合っている動きをしているが、それでも土のリーダーには一歩届いていないように見える。

 基本受けに回って、攻撃は最小限、常に動きまわって挟まれないように立ち回っている。助けに入りたい気持ちもあるがこちらにも敵が多い。それに戦い方が分からないからかえって邪魔になるだろう。


 逃げ回って感じたけど、これは敢えて魔法部隊や弓兵に入り込んだ方が安全なのでは? 例え魔法や弓を撃たれても当たらない訳だし、慣れない剣術を頼りにも出来ない。だったら、今分かってるこの能力を発揮するべきだろう。


 ――近接も出来る奴がいないと信じて……覚悟を決める。


 踵を返して意表を突き人ごみに紛れる。俺の狙いを察してか、ギルや他の偵察隊が道を作ってくれる。視線で『後でマイナと一緒にカフェ行こうな』と。

 そして狙いの魔法部隊へ乗り込む。水魔法を振りまく、形なんてどうでもいい。ただ辺りを水浸しにすればいい。出来るだけ広範囲に噴水みたいにして振りまく。そして、雷魔法を濡れた地面に放つ。


 一瞬の光と共にクモの巣みたいに光の線が広がる。水に触れていた魔法使いはビクンと体を震わせ、動きを止める。 ほんの一瞬だけ。


 敵はすぐさま反撃に出て、杖で殴りにかかってくる。あぁそうだ、杖も殴られると痛そうな形をしてるのを忘れてた。威力が無いにしても打撲にはなりそうだし、袋叩きにでもされたら普通に死ぬんじゃないか?


 ――あぁもう! 弱ぇ! 俺弱ぇ!


 涙目で悪態付きながらも必死に逃げ回る。警戒して少し離れたところからナイフを投げたり、味方に当たらないように魔法を撃ってくる。勿論当たりはしないが変な動きをしたり、乱暴に振り回されたりで転びそうになるが、無理やり足を動かして袋叩きにならないようにだけ気を付けた。少しでも俺が引き付けて居れば味方に撃たれる魔法や弓の数が減る。


 なんて思ってたけど、無理無理無理無理。死ぬって普通に死ぬってこれ、弓兵もナイフに持ち替えて追いかけてきてるし、怖えよ、顔見えないし。

 土魔法を上に塊で投げるように放ち足止めをしたりしてるが、厳しいな。あ、そうだ、ギルの所へ持って行ってはどうか。昨日に許可は得ているから文句は言わせんぞ。とは思ってもそう簡単にはいかない。近くにいないし、何より追っ手のせいで動きたいように動けない。


 どうしたものか、と近くで聞きなれた爆発音がした。これは――ガヌさんのだ。丁度良くこちらへ近付いてきている。これは使わせてもらう他無い、すいません、ガヌさん。

 一直線に音のする方へ向かう。体力もそろそろ無くなってきてる。息が荒くなる。後ろとの距離も詰められている。重く、棒の様になり始めてる足に鞭を撃ち、走り続ける。

 視界が少し開けて、人の気配が多い所へ出る。そしてガヌさんたちもいる。良かった――?


 ――あれ。




 少し離れたところに立っているガヌさんの右肘から下が――。




 ――無い。


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