第12話 回復魔法の使い方
カフェのようなところへ連れられ、テーブルへ座る。お金は少量だが一日は食べれるくらいは渡されていた。価値もレートも全然わからないから任せていたのだけど、なんとなく掴めて来ていた。金、銀、銅銭があって100枚ごとに上のランクへ上がる感じと言うのか。日本で言うと胴銭一枚が10円と言ったところか。リンゴが銅銭7枚で売っていた。日本円換算するとなんとなく掴みやすい。
俺はお茶を頼む。銅銭10枚だ。にしてもまだお昼じゃないよな……?体感だとまだ10時かそこらだぞ?
「腹が減っては戦は出来ぬ」「拙者も、続くでござる」
「「いざ参らん!」」
二人してオムライスをがっつく。この世界は本当に日本は無いんだよな? いや、確認はしてないんだけどさ、俺の名前聞いて変わった名前って言ってたから近くにはないのは確かだと思うんだけど……。
「その言葉、何処で?」
「何じゃ知らぬのか、小説の『SAMURAI伝記』って言うんじゃが」 言葉遣いがおかしいぞ。
「そうじゃよ、今巷で大流行なのじゃよ」 それはただの年寄りだ。
――SAMURAI、侍か……。向こうの本をこっちに持ってきたなんて神様は言いそうだ、今度聞いてみるか。
てか、キャラ大分変わってるし。さっきまでの丁寧な子と人見知りな子は何処へ行った。
「佐々木小次郎とか宮本武蔵とか出てくるの?」
瞬間、時が止まる。二人して握っていたスプーンを手から滑り落とす。スローモーションになってる。
「昨日裏ルートでフラゲした本の内容をなぜ……!?」
「いや、好きだったら裏ルートから入手するなよ……」
「もしかしてギンジさんも好きなんですか!?」
「好きと言うか、有名だと言うか」
名前くらいならみんな知っているだろう。物干し竿だとか燕返しだとか二刀流だとか。
「有名ですって、この人なかなかやりますよ。会議の時も物怖じしてなかったですし、ただ者ではないですよ」
「姉さんがビクビクしすぎなだけです、ギンジさんだって見たときから悪い人ではないのは分かるでしょうに」
「一目でわかるって、そんなに分かりやすいの俺? あとギンジでいいよ」
「はい、私達も敬称無しで結構ですので。ではギンジ、私達は衛生兵ですので多くの人と関わってきてます。敵でも治療するのが流儀です。だから悪い人もたくさん見てきました。なのでそこらの人よりは人を見る目があると思ってますよ」
――そうなのか、やはりこの子達も人が良いのか、いらないトラブルも多く招いているんだろうな……。
「さて、ギンジは回復魔法の事が知りたいんですよね、なら姉さんに聞くといいです。わたしより腕がいいので」
「えぇ!? ちょっと教えるのは苦手だってマイナがやってよ」
「私だって苦手ですよ。それにほら、人見知りも直さないといけないじゃない?」
言ってからオムライスをもぐもぐ食べ始める。この子はただ食べたいだけなんじゃないだろうか。
「えっと、それじゃギンジは魔法の使い方は分かりますね?」
「はい、第二の心臓と手の平に集めるくらいなら」
「それが出来れば大丈夫です。回復魔法は各属性魔法と違って命を魔力にする感じと言いますか、生命力、精神力とか、輸血する感じに近いです。なので普通に魔法を使うよりは体力を消耗しますので注意が必要です」
「感覚としては体中の血液を手の平に集める感じでしょうか、生命力を集めると言いますか。発動すれば分かりますのでやってみましょう」
――体中の血液を集める。
――生命力をかき集める。命を燃やすイメージ?
――手がほんのり温かくなってきた。同時に体も重くなってくる。
「――ストップ!」
「――!」 呼吸が浅くなっている。眩暈もする。こんなに苦しいのか……。
「そんな感じです。ですけど今のはやり過ぎです。続けると命に係る奴ですよ。それをうまくコントロールして怪我に合わせて使うんです」
「なるほど、ちなみにだけどどの位の怪我までなら治せるの?」
「切り落とされた腕をくっ付けるくらいなら出来ます。ただ、切り口や経過時間等の要因で完全に治せないときもあります。後遺症が残る場合もあります。万能だけど完全ではないのです。それは昨日痛いほど思い知ったはずです」
鋭い眼光でこちらを見る。死んだ人間は生き返らせることは出来ない。と言いたいのだろう。
「……分かりました」
「それそれじゃ私達はこれにて」 いつの間にかデザートまで食べ終えて、満足気な妹マイナ。
「え? ちょっとまだ食べ終わってないんだけど――」
「明日に向けて色々調整しないとでしょ? ほらほら」
「あぁーオムライス~……」 手を掴まれ連行される姉。何だか可哀想になってくる。そしてマイナが去り際に「(か)・(ん)・(せ)・(つ)」 と口パクをして店を出ていく。
――関節。連行する時に関節を決めるとスムーズに出来るということか、いつか使えるかもしれない。覚えておこう。
残されてしまったオムライスは店員さんに謝って片付けてもらった。人の食べかけだ、俺は気にしないけど相手が嫌がるかもしれない。
あ、関節って間接か。こっちの事!? しまった勿体ないことをしたのではないだろうか。許しもあったのに、俺はなんということを……。
食材よ、成仏しておくれ。 涙目でオムライスを見送る。
「ちょっとちょっと、ギンジ! なんじゃ我ェ! なに一緒にランチしとんねん!?」
店を出ると血相を変えてギルが詰め寄ってくる。関西弁みたいになりながら凄い顔をしている。何かあったのだろうか。
「ランチって、シイナとマイナの事?」
「もう呼び捨てする仲なのかぁぁぁ!!!」
頭を抱えて絶叫する。ムンクの叫びみたいな顔になってて面白い。
「まあ、そう呼んで良いって言われたから」 なんて口に出して言ったのは今が初めてだけど。
「プライベートで他の人と話してるの初めて見たで……。ギンジお前、どんな手を使った!?」
「どんな手って言われてもな、回復魔法の事教えてとしか」
「そんなことでいいのか!? ならちょっと用事思い出した! 行ってくる!」
凄まじい勢いで走り去ってしまった。嵐みたいなやつだ、と言うか何がしたかったんだ。あの反応、もしかして双子に気があるのかもしれない。だけど二人は一目で人が分かるみたいなこと言ってたから、欲塗れなギルを見透かして断られる。そんな未来しか見えない。
まあ、放置しておいて大丈夫だろう。魔法の練習でもしよう。
色んな組み合わせができるから普通に楽しい。土と水で泥投げたり、足元悪くしたりできるし、火と水で水素爆発みたいなことも出来る。土の国で逃げる時に使ったあれみたいなやつ。他属性と混ざりやすいのは大きな武器なのではなかろうか。土で外壁作って中で火と水で爆発させて爆弾みたいなのも出来そう。
魔法を出して飛ばす分には何とかなってきた。実践でも使えなくはない。だけどあの戦闘の中で集中できるのだろうか、そこが一番の問題な気がするな。
あ、ギルが戻ってきた。
「だめじゃん! 本当にあれだけだったのか!?」
「本当にあれだけだったよ」 他の考えなんてさっぱりなかった。純粋に回復魔法を教えてもらいたいってだけだったから。
「ギルさ、双子の事好きなのか?」
「……まあ、うん……。妹の方、誰にも言うなよな」
大体の人は気づいてるんじゃないの? 経験皆無な俺でも察しはついたぞ。それにあの二人も気付いてるんじゃないかな。
知らないふりをして助言、になるか分からないが。
「回復魔法をダシに使おうとしてるだろ? それが嫌なんじゃないのかな。あの子らは人を良く見てる気がするから、下手な考えで近づくのは――」
「――下手な考えじゃない。ワイは真剣や」
声色が変わって、雰囲気も変わる。正直驚いた。いつもへらへらしてただけだから、こんな真剣なるのかなんて。
「――悪い。でも本当に好きなんだよ。2年前からずっと――」 ずっと片思いだったのか、それで懲りずに何度もトライしていたのか、その精神力は俺も見習わないとだな。でも、そんなに真剣なら無下に扱うような真似をあの子がするか? 見えてるなら尚更。少しお調子者なところがあるけど優しい人だ。年相応な可愛らしい所もあったし。
「……その気持ち、ちゃんと伝えたのか?」
「う”っ……」
「おいおい、伝えてないのか。思ってるのと口にしないのとじゃ大分違うぞ」
いろんなものが見えてしまうなら、口から出る言葉を余計に大切に思うのではないだろうか? 何となくだがそう思った。
「……だって、ハズいやん……」
乙女か。
「好きなら言え、伝えろ。それが大切だ。いつものギルみたいに前を向いて突っ走れ!」
「……うん、わかったわ。ギンジはなんか話易くて相談しやすいのかな、すまないありがとう」 顔を叩いてすっきりした顔になる。いつもの顔だ。
「よっしゃ! ワイ、この戦いが終わったら、ちゃんと告白する!」
「それ死ぬ奴! 死ぬ奴だから言うな!!」
見事に死亡フラグを立てる。ぎゃあぎゃあ騒ぎながらいろいろ話していたら、日も暮れてきていた。
夕飯を済ませ、後は寝るだけ、今日も疲れた。明日こそ作戦の本番だ。やってやるさ。
微睡む視界、心地良い疲れと共にベッドへ沈み込む。
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