第11話 水の国 防衛作戦


 早くて今日にも攻め込まれる可能性があるため、しばらくは出張れない。守りを固めて出迎える。


 昨日の作戦内容をを思い出す――。








 ―――――




「先手を取るとかさ」




「何か考えがあるんだね、続けて」


「俺の能力、見た目こそ凄いかもしれないが、魔法に関しては結構貧弱なんだ。土と氷くらいにしか作用されない。だから、先手で能力が効果的であろう土の国を倒すなりして、この能力の印象を他の国へこじ付ける。やばい能力を持っている。迂闊に手出しできないって思わせるようにさ、この国は元々守りが得意ならそれも加味してそう易々と攻め入ることはなくなるって思ってさ」


「お? 言うじゃねぇか!」口角を吊り上げるガヌさんに対して横で考え込むビウスさんが。 「でも、逆もまた叱り。ですよね? やばいなら先に潰すってなるかもしれない。下手したら複数の国で攻め込まれるかもしれない」


「そう、それこそ俺のやりたいことなんだ。複数で攻め込まれる形としては1対2になるけど、攻め込む側同士でもやりあって欲しい。つまり1対1対1の形にしたいんだ」

「なるほど、1対1よりは攻めるにしても守るにしても良いという訳だ。それにもとからそれを目的に動いていれば優位に立てる、ってことだね」

「そう、例え攻め込まれなくても、他の所でつぶし合えばそれで良しだし攻め込まれたら従来通りやればいい。こちらの手の上に引きずり込むんだ」


「あらぁ、あなた、結構そういうタイプなのねぇ。以外だわ。それで、その引っ掻き回す役が私達というわけねぇ」 右手を頬に当て、絡みつくようにこちらを見る。なんだろう、敵にだけは回したくないタイプの人だな……。

「はい、危険な役割になってすいませんが、どうでしょうか」

「勿論受ける、もとより危険な役割が多い立場なんでな、慣れてるから任せてくれ」


「土の国に攻める方は、ファルテに任せるとして、そのあとの話をする。攻め入られる場合を想定して動いてもらいたい。偵察部隊は本部を中心に散ってもらって、敵国を見つけ次第、南側へさりげなく誘導して欲しい。この能力を過信する訳ではないけど、未知の能力を知って無暗やたらに攻め入る国は……雷の国はちょっとわからないけど、無いと思う。攻め入る場合は他の国が行くのを待っているはずだから」

「来るとしたらまずは土、後は風か火か。雷は動きが読めないから保留と言うことで」



「正直、リスクは高い。上手くいく保証もどこにもない。だけど今まで通りじゃ勝つのが難しいのもまた事実。反対なら反対してもらって構わない」


「俺は賛成、だがお前は大丈夫なのか? 見たところ戦闘は慣れてないだろう。いくらその能力があるとしてもだ」 ガヌさんがおれを見据える。その通りで俺は怖い。戦場で動けなるなるかもしれない。普通よりは死ににくいとはいえ死ぬのだ。何が起きるか分からないんだ。だけど。

「俺はやります。大丈夫です」

 俺はやる。やってみせる。ファルテ達と約束したんだ。


「分かった。他の人も賛成でいいかな。よし、それじゃ攻め込むところから煮詰めていくよ――」





 うーん、思い出してみても確かに俺らしくは無かったかもしれない。いつもは様子を見て周りに合わせていたから。いや、本来の俺がこっちなのか? ……言われてみれば向こうより気は楽かもしれない。自分らしくあるような。無理をしなくても良いというか。俺としてはこちらの世界の方が性に合っているというか……。


 ――この争奪戦が終わったら、俺はどうなるのかな――。


 ふとそんなことを思う。戻りたい、けど。戻りたくもない。ような……。親愛なる人はもう居ない。大学も終われば家からも離れて完全に一人になる予定だ。楽しくやってはいたけど、心の底から信頼が出来る人間は思い当たらない。


 だけど、この国の人達は――。


「……」

 まだ終わってないのに終わった後の話をする。アホらしい。頭を切り替えろ。今は争奪戦に勝つことを考えろ。

 今日、攻めに来るだろうか。出来れば明日にしてほしい。疲労も貯まっている。一日休めればだいぶ楽になる。それに魔法をもう少し使えるようにしたい。戦略の幅を広げて自分自身を駒として使えるようにしたい。その辺は今日の話し合いが終わり次第やろう。とりあえず作戦本部へ向かおう。



「さて、これからの事だけど、今は偵察部隊が頑張ってくれているから居ないけどそのあとの話だね」

 アマンさんとクレイトさんは攻め込まれた時の為に待ち伏せをしてもらっている。


「警備兵の二人は、守りを固めてもらう。今回の要になりそうだから気合入れてね』承りました。と丁寧にお辞儀をするトニオさんに比べ、あわあわして髪を振り乱しながら敬礼をするナナさん。対照的でなんだか面白い。ここにいるのだから腕は確かなのだろう。守りは任せよう。

「そうだ、そうなると衛生兵の二人も忙しくなるよね、よろしく」 こちらは二人とも同じようにお辞儀をする。綺麗に揃っててさすがは双子。それぞれ個性があって見ていて飽きない。


「そして前衛の人は、前に行くから守りとは少し離れてしまうけど気を付けて、それと一番危ない所にいる偵察部隊を出来ればフォローしてもらいたい。勿論僕も最前に行くつもりだから」

 偵察部隊は上手くいった場合に敵国二つに挟まれることになるからこちらに逃げてくるまでがかなりの危険を伴う場所だ。何とか無事に帰ってきてもらいたいけど――。昨日の事を思うとどうしても人の死がチラつく。


 アマンさんだって、クレイトさんだってもしかしたら――。


「ギンは前に出て引き付けて魔法部隊の氷で一掃するのが手っ取り早いと思う。フィリアは後方支援、基魔術部隊の指揮をお願い。次の戦いは大混戦になるから、みんな心して掛かってね」







 俺の作戦も大詰めだ、まずはこれをどう乗り切るかだ。今日はこれから魔法の練習でも、と思ってふと双子が目に入った。


 ――そうだ。回復魔法ってどうやるんだろう?


 水や風は具体的に想像が出来るから出来た。だけど回復魔法は何をすればいいのやら、人体の構造や怪我の治る仕組みとかなんて詳しく分からないぞ? 人体の成分なら漫画で覚えて無駄に暗唱出来るけど、人間を作るわけじゃないから必要ないとして。話しかけ難いけど、聞いてみるだけ聞いてみようか。


「あの、マイナさんとシイナさんはこのあと暇かな? 少し付き合ってもらいたいのだけど……」


「あ、昨日の泣き虫ボーイじゃないですか」 マイナさんが赤い目をキラキラさせながら答える。何だか楽しそうに見える? ていうか、昨日のアレを見られていたのか……。

「ぐぅ」

「いえ、失礼。決して馬鹿にしたわけではありません。お気を悪くしたのならすいません謝ります」

「いやいや、気にしてないし大丈夫。ははは」 単純に恥ずかしいだけなんだ。大勢に泣き顔を見られて、しかもかなり大泣きしていたからなぁ。それに昨日の夢の事もあって余計に。

「それで、私達に何か御用で? 聞いた限りだとナンパにしか聞こえないのですが……」


 思い返せば、また要件を言い忘れている。ただのナンパにしか聞こえないな。俺にはそんな度胸も下手くれもないのだけど。

「あぁごめん、回復魔法に付いて教えてもらいたくて、どうかな?」

「そういうことですか、大丈夫ですよ。姉さんも大丈夫ですよね?」

「……うん」 気配を消してマイナさんの後ろで小さくなっていたシイナさん。呼ばれてひょっこりと現れる。「すいません、初対面だといつもこんなで、すぐに慣れてくると思うでお気になさらず」


 どっちが姉か分からないな。確かシイナさんが姉だったはずだけど……。大雑把? な妹と人見知りな姉。変な組み合わせだ。



「それではお昼でも食べながらお話ししましょうか」


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