第07話 魔法と敵襲



 俺の案は一応通った。

 カッコつけていった割に穴だらけのクソみたいな案だったけど、埋め合わせしていくうちにそこそこの形になったとはいっても、当日に出した案だったから決行は速くて明日、遅くても明後日となった。


 もう日食は過ぎたが、始まって早々に攻め入る国なんていないと信じて、昨日今日感じた疑問を解消しに行こう。

 まずは魔法を使えるか否か、恐らく暇であろうギルを捕まえて聞いてみた。


「選ばれた理由酷いな? 暇だけどさ。ワイは作戦とか立てられない人間だから、命令が来るまでは暇なんよ」

「いざとなったら機転とか利きそうじゃないか? そんな雰囲気あるぞ?」

「お? 分かるか? いざとなったらワイにすべて任せたまえ、何でも万事解決してみせる!」

「分かった。襲われた時、敵をひっ付けてのギルの所へ連れて行くわ」

「おう、任せとき!」

 胸をドンと叩いて満足気な顔をしている。明日以降、危なくなったらギルの所へ行こう。許可は得た。


「あ、魔法の事だったな、すまんすまん。魔法は生まれた時から持ってる物で、第二の心臓なんて言われてる。心臓の裏側と言うのかなそこにある感じというか、そんな感じなんだ」


 大分曖昧だ、そういうものなのかな。

「じゃあ、俺も使えたりするの?」

「そうだな、やってみるか。ワイの言う通りやってみ?」



「目を瞑って」

「さっきの第二の心臓を意識して、そこに魔力があるものだと認識するんだ。」

「胸、心臓部が熱くなってきたと思うが、それは魔力が動いている証拠だ」

「手の平を上に向けてそこに魔力を溜めるイメージ」

「そう、良い感じ。水の泡を思い浮かべて」

「そう、よし、目を開けて」



「何だこりゃ」

 平べったいぶにょぶにょした何か手の平の上を泳ぐように浮いている。


「ぷっははは! 下手くそだな!」 お腹を抱えて転げまわっている。こいつ……。あ、そうだ、昨日の殴るの忘れていた。今、丁度良い位置にいるし代わりに蹴飛ばすか。いや、チョップくらいにしておこう。

「うるせぇ! 初めてやったんだよ!!」鳩尾にチョップをかまし、動きを止めてから思い出す。


「あの氷ってどうやってるんだ?」 魔力が混ざりやすいと言ってたが、今のでも結構難しかったぞ、二つの魔法を使うなんて高等技術なんじゃないのか。

「それは、感覚だ、感覚」

「はぁ感覚」 まったなんか曖昧な……。

「手に水を出す前に風と混ぜて温度を下げる感じ」


「いや、分からねぇよ!」 と嘆きつつもやってみる。

「……」 風……つむじ風みたいなのでいいかな。水と合わせて……。掌の上に……。


 ――バシャバシャバシャバシャ――。


 うわぁ、絶対違う混ざり方してるよこれ……。恐る恐る薄く目を開けてみると思った通りの光景が掌の上で起こっていた。


 ――洗濯機じゃんか……。


 30cm程の水の竜巻みたいなのが出来ていた。魔法が出てから混ざったってことか、出す前に合わせるのはなかなかに難しい。

 ふと横に目をやると。声を潜めて笑い転げてるギルが見えたので、ミスった振りをして『合成魔法洗濯機』の餌食にしてやった。


「ちょ、ポゴォ……」

「おっと悪い、間違えた」

 手の平の意識を解くとバシャ―と水が散布する。今度は鼻が、鼻がぁぁ……と転げまわる。ちょっとやりすぎたかもしれない。そうだ。


「ギルは凄いんだな。氷作れるし、正直3枚目キャラかと思ってた」

「ん”ん”-。ざんまいめっで?」

 面白いから鼻摘まみながら話さないでくれと心で突っ込みつつ「思ったより出来るやつだってことだよ」 なんか違う気がするが、凄いと思っているのは本当だ。


 合成は出来るけど練り合わせは難しい。でも魔法は使えることが分かった。魔力も恐らく平均値くらいはあると思われる。魔法も色々組み合わせが出来そうだ。


 そうだ、今度洗濯機をメイドさんに教えてあげよう。洗濯の手助けになるだろう。



「ギル、あともう一つ聞きたいことがあるんだけど」



「文字が全然読めないんだ、助けてくれ」







 言葉の本を貰って、見聞きした感じだと、ひらがな50音に近い。発音は同じだから、置き換えして覚えるやり方で大丈夫そうだ。暗記科目は得意だった。それに一夜付けも、しっかりと記憶には定着してくれないんだけど、あれは使って無かったからで、使えば自然と覚えるだろう。多分。


 時間のある時にチマチマ覚えて行こう。


 さて、明日に備えて、シミュレーションやら作戦の見直しでも……。





 ――ッドォォォォン!!!


「っ!!?」

 なにかの爆発するような、落雷でも落ちたかのような凄まじい轟音が響き渡る。鼓膜が破けそうなほどの振動が来て思わず耳を塞ぐ。

 黒煙も上がっている。南側だ。


「敵 襲 ! 敵 襲 !」


 見張り台の上にいる男が大声で叫びながら、警報を促している。まだ日食が終わって数時間だぞ、何考えてるんだ。


「おいおい、どうすんだこれ……」

「どうするって、放っておく訳にもいかんだろ、ワイはとりあえず現場に向かう。ギンジはリーダーや、フィリアの方へ頼むわ」

 言うだけ言って走り出す。俺も作戦本部へ向かうことにする。

 本部へ向かう途中にファルテ達を見つけ合流する。

「ちょっと、どうなってんの!?」

「雷の奴らだ、ここまで早い段階で来るとは予想もしてなかったよ」

「数は少ないみたい、様子見のつもりなのかな。もしかしたら全部の国に同じことしてるのかもしれない」


 前回みたいな終わり方は避けた、ということか、考えてやり方を変えたんだろうけど、結局特攻してるよ。

「すでに交戦が始まってるみたいだから向かうよ、ギンはなるべく後ろで待機、見てて」

 今も走りながら話していたが、一層速さを増す。みんな速いな、全力で走ってやっとだ、鍛えている者とそうでない者の差か、くっそ、こんなことなら部活にちゃんと出ているんだった。


 南門に付くと、前衛部隊は門から出て、俺は壁の小窓へ向かう。相手は、20人ほどだろうか、みんな騎士の恰好をしている。

 雷の魔法のせいか、動きが俊敏だ、電気で筋肉を刺激して活性化してる的なやつだ。時折、雷が落ちて轟音が響く。あれは当たるとまずい、普通に死ぬんじゃないのか? 魔法も雷らしくジグザグな軌道で飛んでくる。

 こちらも水を自在に操り、脚を取ったり、氷を飛ばして攻撃している。

 どちらともあまり深く切り込まず、本当に様子見と言う感じでことが進んでいる。こちらは余裕があるからそう見えるだけか?

 門の方を見ると一人、前衛に向かう人がいた。ガヌさんだ。相変わらず身長位の大剣を抱え、重さを微塵も感じさせない動きで、歩いている。

 一振りで二人なぎ倒して、さらに前進。強すぎではなかろうか? 完全に此方が有利になり、相手も撤退ムードだ、大きな雷をまた一発撃って、粉塵に紛れて撤退していった。


 ――何がしたかったんだ。


 もしかして、序列4位だからこんなものだったのか? 他の所はもっと大混戦だったのでは? 分からないことが多い、ファルテの判断を聞こう。

 戦闘も終わり怪我人は数人、死人は居ない。でも、一歩間違えば死ぬ。そんな世界に踏み入れてしまったという実感は湧いてくる。今まで居た死ぬ心配なんて殆どしなかった日本とは違う。周りがみんな水の国のような人ばかりじゃない。


 今日の事もあり、俺が言った案は明日することとなった。一番良くない流れが、攻めに行ってその間に本部を襲撃されることだ、その点、今日の襲撃で明日別の所へ攻めに行く国は少ないとみて、明日決行となった。

 フィリアについてだが、基本的に一番層の厚い所へ行くから攻めに行く場合はそちらへ組み込まれる。本人も守られてるだけは嫌だと言ってたそうなので、そういうことになったらしい。魔法も弓も使えるし、戦える力があるなら戦いたいということだろう。なんだか俺と似てる……気がしなくもない。そう思うこと自体烏滸がましい。

 まあいい、深くは考えないでおこう。


 今度こそ明日に備えないと、何が起きても良い様にいろいろ考えておこう。

 夕飯も終わり、お風呂でのラッキースケベも何もなく、スクワットだけして静かに眠りに付く。




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