第08話 神様は本当に居た
『――』
『やあ』
「……」
『あれ、寝てる? 起きてー』
「……んー」 気持ちよく寝ていたのに、一体何なのだ、男の知らない人の声だ。安眠が崩されて気分が害される。
「って、あんだぁ!?」
世界が白い、壁もない。空もない。ましてや床もあるのかすら怪しいくらいに真っ白な世界。ベッドも家も何もない。
まだ寝ぼけているのか? いやあれ? 俺は何処にいるんだ?
『やあ、起きたね、ここは夢の中だよ』
「何だ夢か、なら二度寝する」
『いや、そうじゃなくて……』
「はいはい、朝になったら起こしてね」
俺は明日に備えて眠たいんだ。睡眠不足でへまなんてしたら顔もむけられない。そっとしておいておくれ。
『ねえ、ちょっと起きてよ、せっかく呼んだのにさ! 意味ないじゃん話聞いてよ!』
「……」
『本当に寝ちゃった!? 一応僕は神なのに何この仕打ちは!?』
「……ん? 今、神って言った?」
『お、やっと起きてくれた。そうだよ僕は神さ』
「姿見えないんだけど」
辺りを見渡しても白いだけで人影どころか白以外の色すらない。ただこの空間へ謎の神の声らしきものが響いているだけだ。
『まあ、神だからね。不便なら誰か代わりに呼ぶよ? 誰でもいいよ』
「メイド服のフィリア」 即断即決、用意していたかのようにスラスラ口に出ていた。
『……服装指定なんてなかなかだね、君は』
指パッチンのような音の直後、ポンと煙と共にフィリアが現れる。もちろんメイド服で。
「え!? 何!? 何!?」 両手を軽く握った形で胸元から離さない。不安になっているのか、とても可愛い。メイド服もエルさんが着てるのよりも、フリルやアレンジが加えられていて可愛くなってる。それにご丁寧にポーニーテールにまでなっている。可愛さの中にも上品さや優雅さが溢れている。
「Wow……Elegant……」
『お気に召してくれたかな?』
「ありがとう! もう話でも何でもお聞きいたしますとも!」 神様は本当に居たんだ。
『調子良いなぁ』
指パッチンと共に煙とソファが現れる。
『さあ、二人とも座って』
フィリアは思考停止してるのか言われるままちょこんと座る。続いて俺もその横に座る。
『さて、銀二君。君をこの世界に呼んだのは僕だ』
神様の話を聞いてから何となく予想は付いてたが、やっぱりそうだったのか。
「何がしたいんだ、何をさせたいんだ、どうして俺なんだ」
『僕はこの争奪戦を楽しみたいだけだよ。今回こっちに君を呼んだのも余興さ、ちなみに君を選んだ理由は、なんとなく予想は付いてるだろう?』
そんなこと言っても……そもそも理由なんてあったのか……。なんだろう? 誕生日だから? お酒を飲もうとしたから? あ、そうだ。
「くしゃみをしたから?」
『それはない』 即否定される。 『ふふ、そうだね、それは宿題と言うことで』
「ええー、教えてくださいよ、御神様~」
『また、近いうちに遊びに来るからその時にでも、それじゃね』 と声が遠のいていく。 『あ、そうそう』 何だ、帰ってきたぞ。 『そこの彼女だけど、夢を見てることになってるからね、何か見たなぁくらいで内容までは思い出せないはずだよ。だから、ね。それじゃごゆっくり』
今度こそ声が遠のいていく。
「夢……。最後のはなんだ。つまりそういうことなの?」 そういうことなのだろう。隣のフィリアの顔を見てみる。ポカンと何だか分からないって顔をしている。突然連れてこられて、神様とか言われちゃそうなるよね。すまない。
何しても良いらしいからとりあえず頬を突いてみた。 柔らかい。これなら無限ぷにぷに出来るな……。「ちょっと、ギン?」 不機嫌そうな顔をされてしまったので反省。
「ぽかんとしてたから反応あるのかなって、ごめん」
「あ、いや怒ってる訳じゃなくて、何が何だか分からなくて……」
「そうだね―――――」
目が覚める。もう朝になっていた。
――えっ、タイミングおかしくね? ぶつ切りにもほどがあるだろ。もう少しメイドさんと話したかったんだけど!! 奇声を上げながら頭を抱え、海老反りになる。
何がごゆっくりだ、あの神。何考ええるのかホント分からんな。今度呼ばれたらいろいろ注文してやる。
過ぎたことはしょうがない。諦めて体を起こすと服が用意されていた。色は少し違うけど物は似たようなのだ、やはりお古なのだろうか。サイズも丁度いい。体形が近いからラッキーだったのかな。
いつものように朝食を済まし、作戦本部へ向かう。
「さあ、作戦開始だよ。気を引き締めて行こう」
門から南東へ馬車で2時間程行くと国境があるそうだ、この世界自体あまり大きくはないのかもしれない。にしても馬車なんて乗る時が来るなんてな、思ったより乗り心地は悪くない。揺れたり、振動がちょっと辛い。
それはそうと、一緒に乗ってたフィリアからやけに視線を感じる。昨日の夢の事だろうか、なんとなく覚えてる程度なら俺に何かされたような、と思っているのかもしれない。
いや、疚しい事なんで何も、頬突いただけだよ。うん。そうだよ! 夢の中でも度胸も何もないんだよ、あれが限界だったんだよ! くっそう……。神の野郎に遊ばれてる気がする。
お、国境に着いたみたいだ。国境を越えてからは、なるべく見晴らしの良い方を行き、土の国以外にも出来れば見てもらいたい。
ここからは敵地だ、何が起こるか分からない、用心しよう。片手剣を渡され腰に携える。軽くて不慣れな俺でも使いやすいのを用意してくれたそうだ。
土の国本部まであと数十分というところで敵に見つかる。昨日の事で警戒網を広げていたのだろう。当たり前か、むしろ目立つ道を来てるのにここまで見つからなかったのは幸運だろう。まだ想定内。剣と剣、魔法と魔法がぶつかり合う。敵陣は薄い、ほどなく突破できそうだ。
「目標はこの先だ! 突っ込むぞ!!」
おそらくもう情報はあちらへ渡った、だけどこちらの方が一手先に仕掛けられるはずだ。
駆け出して数分で建物が見える、あれだろう。
中からぞろぞろと兵士が出てくる。警戒しながら散開して全方位からの攻撃に備えている。
さあ、俺の出番だ。
みんな馬車を降りて俺を先頭に少し離れて進行する。
異様に見えるだろう。防具をしてないで剣だけ腰に下げた人間が先頭を歩いて敵陣に来るんだから。
出来るだけ、ゆっくりゆっくりと歩く。慌てるな慌てるな。やばい奴オーラを出すんだ。余裕のある笑みを忘れるな。
膠着状態が続く。だがゆっくりとだが敵地に攻め入ってることには変わりない。相手の一人が痺れを切らして俺に向けて矢を放つ。
当然の如く躱さない。歩くペースも崩さない。
良い腕をしている。脇腹の真ん中に吸い込まれるように飛んでくるが、勝手に腰が捻られる。 ちょっとその捻り方は無茶だ、軋んだ痛みで涙目になるが、堪えて余裕の笑みを作る。
それを火種に、矢が雨の様に降り注ぐ、数が尋常じゃ無い、ファルテの氷魔法なんて目じゃない。怖すぎる。ホントに死なない? 大丈夫か?
流石に足は止まる。前に行きすぎて剣士でも来られたら俺にはどうしようもないし、空に無数の矢がある。あれは流石に躱しきれない。魔障壁とやらが出るのだろうか。
怖いので顔を顰めて薄めで確認すると、薄い膜みたいなのが体を覆っていた。ギャリンとかカンッとか矢が弾かれたり、受け流されたりしてる。
「マジか」
思わず声を出してしまっていた。試したのは少ない数の飛び道具でここまでの数はやってない、怖すぎる。足が動かなくなる。立ちすくんでしまった。
目だけ動かして兵の様子を確認する。みんな驚愕の表情をしている。後ろからも騒ぐような声も聞こえない。上手く凌げたのだろう。
続けて土の塊? みたいなのも飛んでくる。あれが土魔法か、鈍器みたいな扱いが出来そうだ。早さは氷よりも全然遅い。普通に躱せそうだが、脚が動かない。
操られるように右へ左へ動く。蹴飛ばされたように前に動いたり、後退したりする。 何か扱いが酷い。もう少し優しく躱せないものか。躱してるのに体がボロボロになるって……。
視線の先、門の奥にある高台のようなところで何かが動いてるのに気づく、あれは砲台……?
ッドゥゥンッ!!
と雷魔法よりも低音の響いた音が轟く。身長の半分はありそうな岩石が勢いよく飛んでくる。形も飛びやすいように弾丸のような形になっている。
「まてまてまて!! 砲台は聞いて――」
嘆きは虚しく、障壁とぶつかる衝撃と音にかき消される。
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