第06話 作戦会議

「――う―――」

「んん……」

「おはようございます」

「……おはよう、ございます」

 朝、目が覚めるとベッドの横にメイドさんが立っていた、何とも見慣れない光景だろうか、万が一にもこのような状況になるとは思いもしなかったし、予定もなかったであろう平凡な俺の人生は昨日付けで終幕を迎えたのだった……。と言うかなんでメイドさんは部屋の中に居るんだ。鍵かけた、よな? あれかけてなかった? かけ忘れてたかもしれない。眠かったし、考え事してたし。


「お召し物と朝食の用意が出来ましたので、お呼びに上がりました」

 では、と早々に出て行ってしまう。


「あ、はい、ありがとうございます」

 次から気を付けよう。いや特に疚しいこともないし、かける必要はないけどさ。何というか義務と言うか、しないと落ち着かないというか……。まあいいや、着替えて朝食を食べよう。


 服は動きやすそうな黄土色のズボンに白のシャツ? ファッションは良く分からないから何とも言えない。着てみるとサイズは丁度いい、動くのにも不便はない。今日から争奪戦が始まる。気合入れていこう。


 着替えて気合も入れ直し部屋を後にする。ついでに鍵を確認してみた。

「鍵ないやん……」

 不用心な、他の部屋は兎も角、客室くらいは付けた方が良いのではないだろうか? 俺みたいな善良……な一般市民だけじゃないだろう。そこに、この国の人柄が出ているのか。人が良すぎる。すぐに信じてしまう。いや、もしかしたら何か見分ける術を持っているのかもしれない。まさか魔力で鍵が閉められるとかそういうのだろうか?

 ――あ、そういえば俺は魔力を持っているのだろうか? 使えるのと使えないのでは大分違うこれも後で聞こう。


「とと、早くいかないとだ」

 呼ばれていたんだった、さっさと顔洗って行こう。 そこで気付く、頭のチリチリが無くていることに。いや、良く見ると残っているが上手く整えられていた。そこまでじっくりとみられることは無いだろうから問題はなさそう。寝ている間にメイドさんがやってくれたのかな。ありがたやあがりがたや。



 台所へ向かうとファルテとフィリアとメイドさんが椅子に座って待ってくれていたみたいだ。

「やあ、おはよう、良く眠れた?」

「おかげさまで、起こされるまでグッスリ眠ってたよ。待たせてたみたいだね、ごめん」

「いいの、大分疲れてた様子だったし、色々ボロボロになっちゃってたし、しちゃったし」申し訳なさそうに視線を逸らしながらもみ上げをくるくる指で巻いてる。「さ、朝食頂きましょ」


 用意されていた朝食は、洋風の定番と言った感じのパンとスクランブルエッグにベーコンが混ざってる。サラダにオニオンスープだ。シンプルながらもどれも美味しい。塩加減が丁度いい。あとベーコンだとおもったけどこれ、なんだ? 魚の燻製だろうか?食べ慣れない味がするが、良い味と風味だ、なんというんだ、お酒に合う。というやつだろうか。


「食べ終わったら作戦本部へ向かうよ、今日から大変だからね」

「そうだ、作戦とかってどうなってるの? 何時に攻めるとか罠仕掛けるとか」

「水の国は基本的に受け身なんだよね、攻めるより守るほうが向いてるみたい。いつもそんな感じみたい」

「なるほどね」

 分かってはいたけど攻めに行く感じではないよね、ならそれを逆手に取るべきなのではないだろうか。この能力も無理が効かない以上、相手に勘違いをしてもらう必要がありそうだし、やりすぎても逆効果なのも難しいところだ。それは作戦本部とやらに行ってからにしよう。今は朝食をしっかり食べて、戦に備えよう。



 朝食も終わり、準備が出来て基地へ向かう途中、一つ疑問が浮かび上がる。

「ねぇ、これから仮にも戦争が起きるのに穏やかと言うか……」 いつも通り過ごしている感じだ、子供も外で遊んでいる。どう見ても戦争のせの字もない。

「それは、此方が狙われないからだよ、本部と街で別れてるって言ったよね? つまりそういうことだよ」

「向こうだけしか狙われないんだ、それが分かってるんだな」

「逆に言えばあっちは大変だよ、死人も出るからね」


「……」 戦争だし、当たり前っちゃ当たり前か、死人の出ない戦争なんてどこにもないだろう。でも死人を減らすために大将がいるんじゃないのか? でも、そうか大将を殺すのに全滅をさせる必要もなくなるわけだし、結果的には減っているのかな? 標的を一つにしたのは決死の反撃とかを減らすため? 中途半端に削られたりすると特攻隊とか出たりするかもしれないし。それとも負けそうになっても逆転の一手を残すため? うーん、どれもありそうだしピンともこない。


 ブツブツ考えてたら大分時間が経っていたみたいで、いつの間にか知らない所へ出ていた。

「さあ、着いたよここが作戦本部さ」



 ……でかいわ、街一つ分あるでしょこれ……。でも、兵士をみんな住まわせるならこんなものか、全体でひとつの砦になってるのかな。高さが無い分、横に伸びた感じで、周りからだとそこそこに見えやすいしなるべく工夫して作られたのだろう。灰色の城壁と所々に空いた穴、様子を見る窓という所か。見たところ後ろは水辺だ、完全包囲が無いのは大きい。水を活用できるだろうし、守る方が得意と言うのも頷ける。

 門を開けて中へ入る。こちらは物々しい雰囲気だ、空気がピリピリしてる。武装もしてるし、肩慣らしだってしてる。みんな真剣そのものだ。やってることはゲームぽいけど、人の生き死にに係るもんな、それにフィリアだってそうだ。


 少し浮かれていたかもしれない。気を引き締め直そう。この場の空気のおかげで気持ちが落ち着いた。


 そして中心部ぽい建物へ着いた。重々しい扉に閉ざされその扉の前には見張りの兵がいる。軽く会釈して中へ通してもらう。



「お待たせ、さて作戦会議しようか」


 中は会議室みたいな間取りで、妙な機械? がいくつかある。椅子は正面に一つ、左右に五つずつ。正面と左右の一番奥だけ空席になっている。俺たちが一番遅かったみたいだ。

 フィリアが左側へ向かったので俺は右側へ行く。俺の前を歩くファルテに向かって一人の男が話しかけた。


「遅かったじゃねぇか、眠っちまうところだったぜ」

「ごめん、色々とあってね」


「あ、筋肉……」

 やべっと思って慌てて口を押える。『筋肉おじさん』って言う所だった、いつも通りの声で言ってしまって結構響いてしまう。反対側のフィリアが口を押さえてそっぽを向き早足になっている。吹き出しそうになってるなあれは。


「おう、小僧。筋肉がどうしたって?」

「いや、良い筋肉してるなって思いまして」 我ながら酷い言い訳だ。

「お? 分かるか? 俺の趣味は筋トレってもんよすげぇだろ? この上腕二頭筋」


「まあ……」 凄いけど、そんなに近づけないで、むさ苦しいです。

「ガッハハ、筋肉の良さが分かるとは、今度一緒に筋トレしような! な!」と背中をバシバシ叩かれる。


「ははは……」 背中痛ぇ……。


「雑談はそこまでにして早速本題に入るよ、まず先に彼の事を紹介しておくね、ギン、ちょっといいかな」

「お、はい」 唐突に呼ばれて、慌てて変な返事が漏れる。


「彼は特殊な能力を持っていて、力添えを頼んだ。信用における人物だからみんな安心してくれると嬉しい。軽く自己紹介だけお願い」

「はい、えっと紹介に預かりました、銀二です」 アイコンタクトで能力の事を話しても良いのか確認を取る。態々言い濁したのだから何かあると思ったけど、言っても大丈夫そうだ。「俺の持ってる変な能力は『固形の飛び道具が当たらない』という能力なんだ。恐らく後ろからでも躱せると思う」


 その瞬間、身体が勝手に動き出す。動いた後に後頭部を矢が掠める。

「は?」

「ほう? ホントみたいだねぇ」

 一番扉側に居た人がゆらぁと音も無く立つ、声的には女性か。纏わりつくような喋り方だ。フードで顔が見えない。

「完全に刺すつもりだったんだけどなぁ、躱されちゃったねぇ」


 いやいやいやいや、言って早々にやる奴がどこにいるんだよ、しかも思いっきり頭だったじゃねぇか。刺すじゃなくて殺すの間違えだろう。しかも確証をもって伝えてないよね? 嘘だったら死んでたぞ!?

「言うより見せた方が早いだろうし、その方が信用が出るからねぇ」


 ぐうの音も出ない。


「……そうねぇ、こちらも自己紹介しておこうかねぇ」フードを脱いで顔が露わになる。整ってる顔に、眠たそうな目、殆ど黒だが少し赤が混ざっているのだろうか、不思議な色の瞳をしている。口元の黒子が何ともセクシーなお姉さんという感じだろうか。軽くウェーブの掛かった深紅の髪が腰くらいまである。「私は『アマン・ローランド』よ。攻撃兼偵察部隊を率いているわ」


「同じく攻撃兼偵察部隊を率いてる、『クレイト・バイパー』だ」 アマンさんの横に座る男性だ、低い声で空気が締まりそうだ。同じくローブは着ているが顔は隠していない。アマンさんと同じくらいの年齢だろうか、利発そうな顔立ちに三白眼で目付きが悪い、刈り上げのツンツンヘアーで橙と黒の中間みたいな色をしている。体形は細身でいかにも偵察部隊と言う感じがする。


「次は僕だね、『ビウス・ライブレ』。一応、前衛兵士を率いてます」 兵士とは思えない風貌だ、短くさっぱりした髪型、赤茶色の髪色、俺が言うのもなんだけど、ぱっと見ごく普通な人、良くて一般兵だろう。申し訳ないのだけどとても率いてるようには見えない。


「こいつこんな形してるが剣の腕はすげぇんだぜ、俺が剛ならこいつは柔だな。おっと、俺は『ガヌ・ブルード』俺も前衛兵士の頭だ」 疑問を速解消してくれた筋肉おじさんことガヌさん。次は口を滑らせないように気を付けよう。


 左に移って扉側から

「私はマイナ。衛生兵です。双子です」「私はシイナ。同じく衛生兵です。一応姉です」

 双子の衛生兵。綺麗な銀髪は肩甲骨辺りまで流れてる。身長が少し高いように感じる。歳は俺と同じか少し下だろうか。表情があまり変わらないせいか、可愛いというより美人な印象がある。フィリアは若干のあどけなさがあったが、身長と表情が相まってこの二人は歳以上に大人びて見える。 マイナが赤い瞳、シイナが藍色の瞳 それくらいしか見分けがつかない。そっくりでカラコンでも入れたら見分けがつかなくなる自信がある。

 ところで衛生兵って魔法が使えるなら必要ないのではないか、と思ったけどみんながみんな程度の良い回復魔法を使える訳ではないのだろう。酷い怪我でも治せる完全に回復特化なのかもしれない。


「私は『トニオ・トルナーク』。警護を任されている者です。宜しくギンジさん」 老人だ、だけど立ち振る舞いは若者にひけてないほどで、綺麗な背筋だ。昔は滅茶苦茶強かった人とかかな。糸目で、皺こそあれど肌の張りもあるし、実年齢よりかなり若く見えるのではなかろうか? 優しそうなおじいさんで飴とかくれそう。


「私は、いえ、私も警備を任されている。『ナナ・キボシ』と言う者です」 日本でもありそうな名前で少し驚く。『木星奈々』なんて探せば絶対いるよ。金髪で首が隠れるくらいの長さ、新緑の瞳で少し緊張している様子の女性。歳は同じか少し上くらいかな、若い人が多いものだ。若い方が魔力が育ちやすいみたいなのがあるのだろう。漫画で見たことがあるぞ。


 ――ん? いや、気のせいか。

 今なんか。まあいいか


「僕らはもう知ってるから省略として、作戦を練るよ」

 宙に手振りで動作をすると、テーブルに何か浮かび上がる。3Dマップみたいだ。凄いなこれも魔法で出来るのか、はたまた神とやらが用意したのか。良く見てみると映ってる地図は簡易地図のようなもので現在の地形そのものを映しているわけでななさそうだ。そんなのがあったら作戦もクソもない。ただ円滑に話を進める道具として使われている。

 それはそうとして、やはりと言うかチラホラ出てくる文字が読めない。言葉で判断できるから何とか話に付いて行っているが聞き逃しでもしたら大変だ。集中しよう。



「まず初めにそれぞれの標的と位置関係についてだけど、この紙に大将とリーダーの生死が分かるようになっている。死ねば光は失われる。弱っていけばだんだん光も弱くなる。分かりやすいものだ」

 紙に5つの国とその横に2つの丸が並んでいる。名前と光。凄いな、本当に、ゲームをさせるために作られてるようにすら感じる。神様は本当に何をさせたいのだろうか。


「そして位置だけど一番北のここが僕らの国。そして右回りに土、風、雷、火だね」

 位置も複雑じゃなく、簡単に言うと大雑把に円を五等分して、その一つがそれぞれの領地、ということか。両隣に2トップが居るのは何ともキツイ状況だ。それぞれの距離もそこまで離れてはいない。



「いつも受け身だから、どうしても後手後手になっちゃうけどしょうがない。戦況が動くのを見て――」



「あのさ、ひとついいかな」

 みんなが俺に注目する。朝に考えてたこと、進言してみるチャンスだ。ワザとらしく咳払いをして。みんなの注目を仰ぐ。




「いつものパターンのようなものがあるんだよね? 雷は特攻するように、うちは後手に回って守るようにさ、勝つことを考えてるなら、やり方を変えてみるってのはどうかな? そう、例えば――」





「先手を取るとかさ」



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