第05話 オラシオン家
ボロボロの泥だらけのままご飯を頂くわけにもいかないので言葉に甘えてお風呂へ行くこととなった。
「おわっ広い」
シャワーのようなものが二つ着いてる、浴槽も3人は余裕に入れそうだ。
……。
体を洗おうと思ったけど、真っ直ぐなシャワー? のような物の使い方が分からない。これは困った。見る限り桶のようなものもない。体を改めて見てみる。この汚い手で浴槽に触りたくはない。何とかシャワーを使うしかなさそうだ。
えーっと、このボタンかな……。
……押した間隔はあるけどカシュカシュ擦れるだけで何も起きない。覗いてみたり、振りたくってみたり、叩いてみたけど、うんともすんとも言わない。
うん、これは聞いた方が早そうだ。
お風呂場の戸を開けようとした時、銀二に電撃が走る。そうだ、こういう時は注意しないと外に女性がいるかもしれない。そうだ。危なかった。またしても? 取り返しのつかないことになる所だった。
少し開けて誰もいないことを確認する。よし、これで一安心。風呂場から踏み出して、脱衣所に着く。ここから廊下へ声をかけるだけだ。よし、そーっと開けてから声をかける。
……誰もいない。どうしようもないので、脱衣所へ戻るとそこにトイレから出てきたらしいメイドさんがハンカチを片手にそこに立っていた。
「……」 俺は勿論すっぽんぽんだ。何も隠していない。時が止まる。
「……」
「……」
「……洋服お持ちしますね」
「あ、その前にアレの使い方を教えて下さい」
「それなら……」 こうこうと教えてくれた。「それではまた何かあれば」 と綺麗にお辞儀をして出ていく
「あ、どうも」
「ようやく汚れを落とせる、良かった」体を一通り洗って湯船につかる。疲れが一瞬で流れ出すかのようだ。気持ちいい。
「いや、なんで全裸であんな平然と話してたんだ」 俺もメイドさんも。今になってすごく恥ずかしくなってきた。異性に裸を見られたのなんて初めてじゃないか……。すごくなんかもう、ああああああああああ。
メイドさんはあれかな、昔からお世話してた。的なやつでファルテの裸を何度も見たことがあるとかで見慣れていたってことかな。といってもファルテが子供の頃の話だろう。メイドさんも同じような年齢のはず……。いやだれが子供みたいな物してるだよ。大人な筈だろ。
「はぁ……」
忘れよ。
お風呂を上がると服が用意されていた。Tシャツにジャージみたいな穿きやすいズボン。ファルテのお古だろうか? サイズは問題ないみたいだ。
そういえば着るものあれしかないんだった。あとでどうするか聞いてみるか。
台所へ向かうと食事の用意がされていて、みんなが待っていてくれたようだ。「ちょっと量は少なくなってしまうけど、ごめんね」
「いえいえ、待って頂いて本当に申し訳ないです。すいません。お風呂ありがとうございました」
とメイドさんに食事スペースに通される。若干戸惑ったが気にしないようにした。
ご飯は、付け合わせのサラダに見た目はビーフシチューの汁物にパンだろうか。シチューの香りが食欲をそそる。甘いような不思議な匂いだ。スプーンとフォークが用意されていた。
戴きます。とみんなで合掌。ここは日本みたいだ。
まずはシチューを一口。ビーフシチューと言うよりカレーぽい、肉は鳥だろうか柔らかくて美味しい。野菜も良く煮込まれていて、噛む暇もなく解けるように口に広がる。それに甘味とスパイスが絶妙、食が進む。もしかして一から作ってたりするのかな、ルーみたいなのはなさそうだし、手間がかかりそうだ。 そしてパンはファミレスで食べたことがあるフォカッチャに近い。独特の触感が堪らない。サラダは、レタスのようなものだった。
「ふふふ、美味しい?」
カノンさんが食事の手を止めてニコニコとこちらを見ていた。
「はい! とても美味しいです!」
本当に、本当に美味しい。優しい家庭の味……。家族の事を思い出して、なんか泣きそうになってきた。
ファルテがチラッとこちらを見て思考を逸らすように話を振る。
「そうそう、夕ご飯はみんなで食べるルールなんだよ、一応無理そうなら雰囲気で先に頂いたりすることも有ったり、一番は事前に言っておくことだね」 指で円を描きながら少し考える。 「あ、そうだ、お風呂は先に女性、最後に柱となる人が入る、つまり僕や父さんのことだね。普段は客人を先に入れるんだけどギンはもう家族だからね。間にでも入ってよ」 今日はお初だったから一番風呂ってことで。と付け加える。『家族』と言った時にフィリアに一瞬ジトッとした目線を向けられた気がした。
「なるほど、分かった」
「……タイミング的に裸のフィリアと出くわすかもなぁ……」 アルスさんがニヤニヤとこちらに目配せする。
……。
裸の……。
……駄目だ、想像力が追い付かない。ここまで想像力が無いのを悔んだ日はあるだろうか、いや、無い。フィリア程綺麗な人は初めて見たから……。駄目だ、処理が追い付かない。うすらぼんやりとは出てくるがブラーが掛かったようにもやもやしてハッキリ浮かんでこない。 あれ、これはこれでいいのではないだろうか、見えないエロさというか、神秘は神秘のままに……いや見えても神秘だろう。どんなでも被写体が素晴らしいのだから何があっても大丈夫な筈だ。なんだ、この気持ちは。新たな何かが芽生えそうな――。
「ちょっと何考えてるの!」
ハッとして我に返る。危ない意識がトリップしていた。頭を振りたくり煩悩を消し去る。
「大丈夫、注意するきゃな!!」 盛大に噛んだ。
「そうだ、トイレもお風呂場と隣接しててそこも注意してね。他は流れやらなんやらで曖昧になってるんだ、ルールといってもそこまで縛るものじゃないし出来たらでいいからね、慣れてないギンは特に」
トイレとお風呂、脱衣所か……時すでに遅し。メイドさんは澄ました顔をしている。何事もなかったかのようだ。あの胆力を見習いたい。
まあ、あとは……ご飯とお風呂くらいか、後は食事の手伝いも出来たらやっておこう。
ご飯も終わり、満足して、片付けやお皿洗いを手伝おうとしたけどそれはメイドさんの仕事だと言われてしまったので、どうしようもないのでファルテに部屋の間取りを聞いておいた。
1階は台所に休憩スペースに、客間お風呂にトイレ、洗面所。2階は個人部屋と物置
「あれ、五人にしては部屋足りなくない?」
「あぁ、父さん母さんは隣の家に居るよ」身振り手振りで部屋を示しながら。「この家は広くて落ち着かないって、でもリーダーだからこちらにも住まないといけないし、隣同士だからまあ問題ないかなって」
「こっちに来たり、私もあっちに行ったり良くしてるし、好きにして大丈夫」
仲は良いけどベタベタはしてない感じの仲の良さ? 緩いというか、変わっているなぁ。それがこの優しさと仲の良さの秘訣だったり?
「で、部屋だけど、お客さん用の部屋だったんだけど、ここ使って。必要な物があったら言ってね」
戸を閉められ一人になる。灯りは魔力で動いているのだろうか、結構明るい。部屋もお客さん用とだけあって綺麗で広い。今まで使ってた寮の部屋2個分はあるんじゃないか?部屋全体は薄茶色ベースで目立つ色は少なくて目に優しい。大人な感じの落ち着く雰囲気。窓際でコーヒーでも飲んだら絵になりそう。
引っ張られるようにしてベッドへ向かい、沈み込む。ふかふかしてて気持ちが良い。こんなのホテルとかでしか味わったことが無いぞ……。メイドさんのおかげ……。あぁ、思い出してしまった。忘れろ忘れろ……。
ゴロンと寝返り視線で宙を仰ぐ、天井はシミも無く綺麗で均一な線が走っている。
――他にも色々聞きたいことがあったけど、それは明日でいいか、でも聞く余裕あるのかな……?
色々あって今日は疲れた、そうだ、こちらに飛ばされたのが夜だったから2日近く起きてたことになるのか、そりゃ眠くもなるわ。
ふぅと軽く深呼吸をして目を瞑るとすぐに深い眠りへ落ちていく。
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