失恋事件

【失恋が動機? 少年が供述】


 岡崎市の新山正治さん(七八)を殺害した容疑で逮捕された少年(一七)が、犯行の動機について「失恋したから」などと述べていることが分かった。警察は事実関係も含め確認を急いでいる。


 三河新聞 八月一七日朝刊


   ※※※ ※※※


 ――動機を訊かれて失恋したからって答えてるね。


 そう。


 ――彼女にフられなかったらあんなことはしなかった?


 ううん、どうなんでしょう。こういうのは巡り合わせの問題だと思うんですよね。だから、「しなかった」と云えるかもしれませんけど、自分の性格を考えると遅かれ早かれやっていた気もします。時間の問題だったんじゃないかと。


 ――彼女は君にとって大きな存在だった?


 そう。たくさん時間を割いた。


 ――フられたとき、どう思ったの。


 自分としては男女交際というものに興味があって付き合ってみたんですけど、思った以上の感動はなかった。それでどうしようかなーって思ってたら向こうから別れ話を切り出してきたので、特に断る理由もないかなと。


 ――そんなに簡単に諦めたの。


 諦めるも何も、努力してまで維持したい関係でもありませんでしたから。


 ――さっき彼女は君にとって大きい存在だったって云ったよね? なのに、どうして?


 どうしてというのは?


 ――だから、本当に大きい存在だったらそうは簡単に別れられないんじゃないの。


 そうでもない。僕にとって大きい存在だったと云うのは、彼女との付き合いにそれだけのリソースを割いていたと云うことですから。別れればそれまでです。


 ――じゃあ彼女のことは特別好きでもなかった?


 どちらとも云えない。好きなところもあったし嫌いなところもあった。


 ――恋愛感情はなかった?


 たぶんそう。


 ――付き合い始めたきっかけは何なのかな。向こうから告白してきた?


 告白と云うか、約束? 契約かな。とにかく付き合ってみないかと訊かれたのでいいよと。


 ――特に好きでもなかったんだよね。何で承諾したの。


 だから、それは男女交際というのがどういうものか興味があって……


 ――実際に付き合ってみてどうだった。彼女の印象は変わった?


 変わったところもあれば、変わらなかったところもあります。


 ――でも好きにはならなかったんだ。


 解りません。でも解らないってことはそうなのかも。


 ――相手の子はどうだったの。君のこと好きだった?


 それも解りません。訊いたこともないですし。


 ――そのことは気にならなかったの。


 自分も相手のことが好きで付き合ってたわけじゃないですから。


 ――フられたとき、どう思った?


 それまで彼女にたくさんの時間を割いてきたわけですけど、それが明日から空白になるんだなと思いました。何をしようかなと思ったけど、せいぜい勉強くらいしか浮かばなくてがっかりしました。


 ――彼女との付き合いは暇つぶしだったの?


 それよりはもうちょっと積極的な意味合いがあったと思います。体験と云うか学習と云うか。


 ――受験生だよね。勉強しなきゃいけなかったんじゃないの。


 でも勉強ならそれまでもやってたし、新味がない。生活がそれ一辺倒になるのはつまらないなと。


 ――事件の後、そのことについてどう思った?


 祖母が死んだときと同じだなと思いました。周りはああだこうだ騒ぎ立てるけど、自分一人が取り残されてる気がする。


 ――自分のやったことについて悪いとは思ってる?


 悪いとは思ってます。でも僕はそれも承知でやったので……後はしっかり罰を受けて更正するだけです。


 ――それだけ? 死んだおじいさんに対して何か思うところはないの。


 そうは云われても、僕はおじいさんのことを知らないですから。知り合いだったらもうちょっと思うところがあったのかもしれませんけど。


 ――結局、君はどうして事件を起こしたの。


 さあ。でも考えてみると結局はフられたからと云うのが大きいと思います。

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