短編小説の書き手から

 長々と君の作品を批評してすまなかったね。君はもしかしたら途中でこの手紙をずたずたに切り裂いてしまうかもしれない。でも、作品の中に、これだけは譲れないという強い意思を感じたよ。


 たしかに、それらはたびたび話の流れを断ち切り、せっかく盛り上げたサスペンスを台無しにし、全体から見れば作品の完成度を貶めているように見える。けれど、それらはすべて君の中では切り離せないものだったんだろう。それがなくては世界が崩壊してしまうというような。扇の要のような、大切なパーツだったんだろう。


 わたしも何度か長編小説に挑戦したことがある。うまくいかなかったよ。わたしの登場人物はみんな奔放に過ぎた。ブロードムア病院に放り込まれた研修医のようなものだ。気が狂いそうになる。話がまったくまとまらない。だから、わたしは短編小説しか書けないのだと思う。


 君はそれを制御する術を知っている。それ単体でも鮮烈な悪夢を縫い合わせて、よりグロテスクに見せる方法を知っている。また書いてほしい。わたしは君の悪夢が好きだ。君を苛む悪鬼たちともう一度戯れたいと思っている。コンラッドの『闇の奥』にこんな一文がある。「自分が選んだ悪夢に忠実たれと」 。願わくば、君も自分が選んだ悪夢に忠実であってほしい。

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