ゴーストハンター
ゴーストハンターは約束から少し遅れてやって来た。
縦に長い男だった。雑踏の中ではさぞかし目立つことだろう。自分だったら、あんなに高い位置に頭があることに耐えられない、と楓は思った。
だが、男は楓とは意見を別にしているらしい。男は自分の細長いシルエットを強調するようにして長いハットをかぶり、ストライプ柄のジャケットを着込んでいた。背筋はピンと伸び、歩き方も堂々としている。卑屈に見えた瞬間があったとすれば、入口をくぐるために頭を下げたときくらいのものだ。
小柄なウェイターが男を見上げるようにして接客する。男はウェイターよりも頭二つ分高い位置から微笑みかけ、待ち合わせをしていることを伝えた。ウェイターが男を伴って店の奥に陣取った楓の元へと近づいてくる。
すると、あれが自分の待ち人なわけだ、と楓は思った。確かに少し変わった風体の男ではあるが、ゴーストハンターという肩書きに釣り合うほどのものでもない。神主や、牧師のような恰好でこられたらどうしようと思ったが、それは杞憂に終わったようだ。
「お待たせして申し訳ありませんでした。堀井楓さんですね?」
男が微笑んだ。
「ええ」
男はウェイターにエスプレッソを注文し、席に着いた。男の長身は、座っていても目立った。帽子など被っているからなおさらだ。
「これは失礼しました」男は言い、ハットに手をかけた。彼の頭が現れた瞬間、楓は息を飲んだ。
「では、さっそく依頼の話に入りましょう」
楓の席は店の奥から店内を望める位置にある。探偵はその向かいだ。探偵には楓しか見えないが、楓には店中の視線が探偵の頭部に集まるのが確認できた。
奇妙な髪形だ。大学にも、髪型で個性を主張しようとする輩は少なくないが、男の髪型はそのどれにも似ていなかった。男の髪は複雑に編み込まれ、まるで内側から何かに支えられているかのようにそそり立っていた。その頂点では、赤いリボンがポタージュに添えられたパセリのように控えめながらも存在感を主張していた。重力への挑戦。天空への意思。楓は建築史の講義で目にしたゴシックの尖塔を連想した。
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