ぶらぶらと。


 どこまでも続いている。さっきまで夜だったというのに、今はどうだ。昼じゃないか。バックミラーで後ろを確認したが、そこにはもうあのトンネルはなかった。戻れない不安よりも、もう少しここにいたい気分になってしまっていて、ささいなことだと流して、車を走らせた。


 柔らかな明かりが辺りにある。太陽が真上にあるのに、眩しいと感じることはない。それでも辺りはとても明るいのだ。道端にはその光を浴びて育ったであろう草花が生えている。道路は舗装されていて、それでも標識や横断歩道などはなく、アスファルトだけがただ続いていた。

 数十分ほど車を走らせたが、民家もなければ店もない。あるのは、田畑とこの舗装された道だけ。これだけ舗装されているなら、メインの道であるとは思うのだが、違うのだろうか。標識もないし。


 「コンビニすら見えてこないぞ。おかしい…」


 道を引き返そうか?

 Uターンも余裕でできそうなほど、広い道路だった。対向車もない。田園風景がひたすらに続いていることしかわからないぐらいには、見晴らしはよかった。

 でも、Uターンしても帰る保障はされていない。通ってきたトンネルはなくなっていたし、ナビは死んでいる。第一、ここがどこかすらわかっていないのだ。現状を確認した方がいいのではないだろうか。

 結局数分悩んで、一旦状況を整理することにした。

 ハザードをつけて、左端による。


 「…圏外?」


 手持ちのスマホを開いてみたが、ネットに繋がらない。右上には、圏外と表示されている。そりゃあ繋がるはずがなかった。ナビが死んでいるのも、電波がなかったからか。

 現代社会人にとって、電波とはなくしてはならないものである。どうしたものかと考えて、ガソリンの残りの量を見た。昨日、満タンにしたばかりなのが幸いし、まだまだ充分に走れそうだった。電波はなくとも、ガソリンはある。

 電波が入るところまで走るしかないか。できれば、コンビニとか店とかがあればいいんだが。

 再び車を走らせた。



 ◇◇◇



 「あっ」


 車を一時間ほど走らせてようやく店らしきものが見えた。その店ののぼりらしきものがひらひらとゆらめいている。

 よかった。のぼりがあるということは、店を営業しているということだ。人がいる可能性が高い。ここがどこだかようやくわかるのだ。辺鄙な田舎に来てしまっているような気がするのだが、どうやって帰るのかも考えなくてはならない。少し、頭が痛くなってきた。


 のぼりにはよくわからない言葉が書かれている。それでも、喫茶店ということだけはわかったので、ウィンカーをつけて駐車場へと入った。

 長時間の運転で疲れ切っていたようで、車から降りると足がふらついた。外の空気を吸うと、なんだかその疲れさえもどこかへ行ってしまうかのようだった。

 目の前の民家風の喫茶店を見る。外からはやってるかどうかすらわからない。普段であれば絶対入ることはないだろう。


 「いざとなったら逃げよう…」


 なんて失礼なことを思いながら、ドアを開けた。


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