005
「ふぁあああぁ。よく寝たなぁ。」
朝日がカーテンの隙間から差し込んできて大きなあくびをしながら俺は起きた。
なんだかとても気分の良い夢を見たかのようだ。ここ数日は怖い夢もリアリティのある夢も見ることがなかったのだが、久々に良い気分だ。
「夢の内容って本当に覚えていられないんだよなぁ。・・・まあ、前みたいにちょっと精神的に不安定になるのも嫌だから・・・別にいいんだけどさー。」
俺は起き上がって居間へと行く。今では母さんが朝食の用意をしてくれていた。
「あら?今日は随分と寝起きが良いのね。」
「おはよー。・・・そうだなぁ。なんだか久々に良い気分だな。・・・いただきます。」
俺は流れ作業のように椅子へと座って朝食を食べる。父さんは今日は休みなのか起きてこない。今日出勤なのは母さんと俺だけのようだ。
「あんた大会ももう近いんだから、気合入れて練習するのよ。・・・木下君だっけ?あの子はまた注目されてるみたいね。」
「あー、うん。・・・ま、あいつは特別だよ。」
前大会で圧倒的な強さで個人優勝を果たした木下は今回の大会でも注目されているのは当然だろう。あいつと俺を比べて見られても・・・。才能っていう根本的なものが違いすぎるよ。
「まあ、ほどほどに頑張りますよ。ははっ。」
母さんは呆れたように食器を片づけている。俺はその様子を横目にそそくさと支度を済ませ、家から出ていった。これ以上長居すると小言が始まりそうだったからな。今日はいつもより早くに出たせいか学校までの道のりで生徒に合うことがあまりないな。この様子じゃひなたと会うこともなさそうだ。
「そういえば・・・最近は全然遊んでないな・・・。」
ここ1ヶ月近く、みんなで集まって遊びに行っていないのだ。俺とか木下が大会が近いっていうのもあるんだけど、ひなたともなんとなく疎遠になっているような気がする。その代わりというわけではないのだが結城とは随分と親しくなっている。もちろん、同じクラスだからというのはある。でも、それ以上にハンカチを貸してくれたり、前にみんなで遊んだりと関わるきっかけもあったせいだろう。
「おっはよーー。相沢君!」
俺の背中をパーーンっと叩くように結城が挨拶をしてきた。正直、もっと大人しい感じの子かと思っていたんだけど、親しくなると素を見せてくれるようだ。・・・嫌いではないけどね。
「結城・・・朝も早いのに、テンション高いな・・・。」
「そうかな?なんか妙に元気なんだよねー。相沢君は眠そうなくらいテンション低いのになんでこんな時間に学校に向かってるの?日直??」
「いや、別に・・・。」
「ふーん。私は日直だから少し早くいかなきゃいけないから、このまま一緒に学校にいこっか?」
「え?あー・・・うん。まあ、いいけど・・・。」
俺の曖昧な返答に結城は不満そうな顔をしている。別に結城のことが嫌いなわけではないのだが、二人で一緒に登校しているところを他の生徒に見られてしまったら変な誤解を招きかねない。結城はそういうこととか考えないのだろうか。
「まあ、いいわ。・・・ほら、いくよ!」
結城は笑顔で歩き出す。・・・まったく考えていないようだな。ま、考えてみれば今の時間なら他の生徒と会うこともそうないだろうし、結城が気にしないのであれば、いっか。俺は結城と並ぶように歩く。横に並ぶとよくわかるのだが、結城は俺に比べてかなり小さめで身長も160は無いんじゃないだろうか?そのくせ体つきはひなたよりも大人びている・・・。アンバランスだな。・・・嫌いではないけどね。
「そういえばね・・・相沢君。」
結城が若干困ったような仕草で話しかけてくる。
「最近・・・ていうか、ちょっと前とかに、ひなたちゃんとなにか・・・あったの、かな?」
「え!?・・・あー・・・。」
俺は結城のいきなりの質問に動揺してしまった。たぶん、最近はずっとひなたと距離を取ってるからそのことを言っているんだろう。
「・・・やっぱり、なにかあったんだね。」
「いやいや、なんもないって。ゆ結城こそ、どうしたのさ、急に・・・。」
「どうしたのって、ひなたちゃんから相談されたから聞いてみたんだけど。そんなに動揺するっていうことはやっぱりなにかあるんだね。あーあぁ、ひなたちゃんかわいそー。」
「だから、なんもないって!」
俺は慌てて弁明する。とは言っても、こんなに動揺してちゃ信用なんてしてもらえないだろうが。
「ひなたちゃん、相沢君になにか悪いことでもしたんじゃないかってちょっと落ち込んでたよ?・・・余計なお世話かもしれないけど、ちょっとヒドいんじゃないかな?」
確かにそう思われても仕方がないのかもしれない。・・・避けているつもりはないんだけど、ひなたと親しくすることになぜか抵抗を感じて、どうしても前みたく振る舞うことができないんだ。・・・一時はあんなに好きだった、くせに。
「まあ、避けたりしてるつもりもないんだけど・・・。」
「相沢君って、ひなたちゃんのことが好きなんだと思ってたけど、違うんだねー。ただの幼馴染っていう感じ?」
「な・・・。」
俺はあまりにもどストレートに結城から言われてしまって言葉が出なくなってしまった。その様子を見た結城ははあぁっっとため息をついて一呼吸を置くと、笑顔に戻って俺をジッと見る。
「じゃあ、近いうちにまたみんなで遊びに行こう。約束!・・・ね。」
「え?・・・ああ、うん・・・。」
俺は結城に流されるまま返事をしてしまった。それを聞いた結城は嬉しそうにしている。これもひなたに頼まれていたんだろうか。・・・まあ、いいか。本当に別に避けているつもりじゃないし、なんとなく距離が離れていただけだから、これは良いきっかけになるかもしれない。俺はそんなことを考えながら学校へと入って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます