004

俺とファムは街の鍛冶屋へと向かっている。

試練の洞窟には獣や最悪魔物なんかも住み着いているかもしれないらしいから、とにかく身を守るための武器が必要だということで、フィリアさんがオススメする鍛冶屋へ。そもそも俺にはあの宝刀があったんだけど、それはアスタさんが一時的に預かると言って持って行ってしまっているのだ。あれがあればある程度は怖いものなしなんだが、アスタさんはとことん俺に試練をクリアさせたくないらしいな。

「ユウタさま?鍛冶屋さんはどこになるんでしょうか?」

「んー?もう少し向こうじゃない・・・かな?」

俺はフィリアさんに渡された地図を元に歩いているのだが、これがなかなかたどり着けないのだ。こういう時こそ、魔法とかでかるーくいけそうなもんなんだけど・・・。

「すみません、ユウタさま。私がこういうときに使える魔法があれば良かったんですが・・・。」

「ああ、いいよいいよ。人それぞれ得手不得手はあるからね。・・・でも、ファムってアカデミーを首席で卒業したって聞いてたから、できないことなんてないのかと思ってたけど。意外にそうでもないんだね。」

「・・・すいません。私、戦闘魔法以外は本当になにもできなくて・・・。」

ファムがシュンとしてしまった。

「あ、ごめんごめん。悪くいうつもりじゃないんだ。ただ、意外だって思っただけだから。でも、ま・・・なんでもかんでも魔法でできちゃったらこうしてファムと一緒に街を散策することもなかったわけだし。・・・これはこれで良いんじゃないかな。」

「ユウタさま・・・。」

ファムは嬉しそうに俺の腕をギュッと掴む。確かにこうしてデートみたく歩くこともなくなるのはちょっと寂しいよな。便利すぎるっていうのも良くないだろう。

「ちなみにリーナはどんな感じなのかな?やっぱり戦闘魔法重視なの?」

「リーナはどちらかと言えばサポート重視だったと思います。フィリアさまと同じく治療術などの特性に才能があるようでしたから。」

「そっかぁ。フィリアさんと同じかぁ。」

俺の言葉にファムが少し心配そうな顔をしている。

「ユウタさまは、本当は支えてくれる女の子のほうが・・・良かった・・・でしょうか?」

「え!?・・・いや、どうかな?」

「私は戦うことしか能のないダメな魔法士ですし、傷ついたユウタさまを癒すことができません。・・・本当は、本当ならこんな私みたいな魔法士が御霊さまの傍にあるなんてことは・・・ないんです。」

ファムの顔色がだんだんと曇っていく。

「私自身がユウタさまを傷つけたときだって・・・。」

ファムはハッとして口を閉じる。そして、悲しそうな表情を浮かべている。

「ファム。大丈夫。俺にとってはサポートとか戦闘とかそんなことより、ファムが良い。ファムがどんなタイプだろうが関係なくって、ファムがファムだから傍にいて欲しいって思っているよ。」

「ユウタさまぁ!!」

ファムはひときわ強く俺の腕にしがみつくようにしてくる。

「・・・それに、まぁ・・・癒されていない、わけでは・・・ないかな?」

ファムがギュッと腕にしがみつくもんだからファムの胸の感触がしっかりと腕に伝わってきている。その弾力と言ったらもう・・・。

「キャッ!?・・・もう!ユウタさまの、えっち。」

ファムは恥ずかしそうに腕から離れてしまった。言わなきゃいいんだけど、俺はどうしてもこういう余計なことを言ってしまうな。

「ユウタさまは・・・大きい、胸は・・・お好き・・・ですか?」

ファムは顔を赤くしながら言っている。俺もさすがにそんなことを聞かれると思っていなかったから、焦っている。

「え!?ああ、うん。まぁ、好き・・・かな。」

できるだけ平静を装って言ったつもりだけど、どうかな?ファムはさらに顔を赤くして、その顔を隠すように手で覆っている。そして、スタスタと俺の背後へと回り両肩に手を乗せて胸を背中に押し当ててきた。腕に当たっていたよりもより鮮明にその感触が伝わってくる。俺の心臓はバクバクと高鳴っている。

「ユウタさま・・・。嬉しいです。」

ファムが耳元で妖しく囁く。その言葉に俺の心臓が破裂せんばかりにドックンドックン鳴っている。すぐにでも振り返って正面から抱きしめたい。だけど、この状況はたまらない。決められない!決められないよ!!そんなどうでもいいことを頭の中で巡らせていると見たことのある亜人が近づいてきた。

「よぉ!にいちゃん!あのルイスをいてこましたんだってなぁ。」

「ああ、あんたか・・・。」

この鱗に包まれた体のおっさんは、賜物の儀で神殿に向かう時にルイスにバターにされかけていたやつだ。元々はいきなりファムに絡んできた無礼な奴だったんだけど今日は随分と陽気だな。

「実験材料に何の用だよ!」

俺も前に言われた言葉は忘れていない。少し嫌味っぽく言ってみる。

「がはは、悪かったよ。この間はすまねぇなぁ。随分と失礼なことを言っちまったな。この通りだ。水に流してくれ。」

亜人のおっさんは頭を下げて謝罪している。

まあ、俺はいいんだが、あの時はファムにも感じ悪く絡んできていたからな・・・。ファムは俺の背中に隠れたまま、前には出てこようとしない。あの時のことを未だに怒っているわけではないのだろうが、結構きついことを言われたから気まずいのかもしれないな。おっさんはファムのことも気にしているようで俺の背中に隠れたままのファムを見ようとキョロキョロしている。

「あの・・・ファフニール様。この間は大変失礼を言いました。この通りです。許してください。」

おっさんは深々と頭を下げて謝罪をしている。なんだ?俺と随分と対応が違うんじゃないかい?・・・ていうか、どうした!?急に。

「あの日、酔っぱらって、嫌なことを全部ファフニール様にぶつけちゃいまして、本来なら極刑も当然なのに自ら庇ってくださいまして・・・。本当にすいませんでした。」

「きょきょ、極刑!?え?本当なの!?ファム。」

俺は驚いてファムへと振り返りその顔を見る。ファムは少し困ったような様子を浮かべながらもどこか安心したような表情をしている。

「あの後、うちのかーちゃんにもどやされちゃいまして・・・どれだけファフニール様が温情を与えてくれたのかを思い知りました。命を救って頂いてありがとうございました。」

俺はファムをおっさんの前に出すように避ける。そして、俯いているファムの肩を軽く叩いたあと、頭を撫でる。

「ファム?」

「おじさん・・・無事でよかったです。守らなければいけない大事な人がいるんでしょう?酔っていたとはいえ、命を捨てるような真似はもうしないでくださいね。約束ですよ?」

おっさんは何度も振り返ってファムにおじぎをしながら去っていった。

「ファム、そんなことがあったんだね。・・・でも、極刑って。」

「この街では神官や魔法士は上位種として逆らうこと自体が罪なのです。ましてや暴言や危害を加えるなんていうのは極刑・・・死刑、という厳しい決まりがあるんです。」

・・・暴言を吐くだけで、死刑か。ちょっと行きすぎな気がするが、それなりの理由があるのだろうか?

「そんなの、間違ってる、って思うんですが・・・ファムも魔法士なので。」

「・・・難しい問題だね。でも、ファムはファムらしいことをちゃんとしているんだね。」

「・・・そう、ですか?」

「俺がこっちにいない間に色々あったんだね。そういうのも色々聞かせて欲しいな。」

「そう・・・ですね。」

ファムは少し困ってはいるようだが精一杯の笑顔を見せてくれる。まだ、俺とファムには見えない壁があるみたいだな。


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