003

今、俺とファムはフィリアさんの家に来ている。二人でうな垂れている状態だ。そんなを俺たちをフィリアさんは呆れたような様子で見ている。リーナはアカデミーからまだ帰ってきていないようでここにはいない。

「それにしても、まんまとアスタ様に乗せられてしまいましたね。・・・あのお方も執念深いと言いますか・・・。」

「フィリアさま・・・私、どうしたらよかったのでしょうか?」

「そうね・・・。」

俺はてっきり今回はスムーズに婚約式ができると思っていて、まあ、アスタさんはファムの保護者みたいなもんだから、娘をよその男にやる前の最後の小言的ななにかで文句を言われる程度だと思っていたんだけど、まさか、ねぇ・・・。さすがのフィリアさんも掛ける言葉が見つからないのか、困っているようだ。

「ユウタさま・・・。私も早くユウタさまと婚約式がしたいです。」

「う、うん。」

「ファムはユウタさまがこちらに戻ってくる日をどれだけ、どれだけ待ち遠しかったか・・・。」

ファムも色々と楽しみにしていた分、やっぱり落ち込んでいるみたいだな。・・・ここはとにかく少し話題を変えて落ち着いたほうかいいかもしれないな。

「・・・ふぅ。あ、そうだ。フィリアさん、リーナは元気にしていますか?こっちに戻ってきてからまだ顔を見てないから。」

「え?ああ、はい。もちろん元気ですよ。」

フィリアさんは俺がとりあえず空気を換える為に話を振ったのを察してくれたのか慌てて返事を返す。

「リーナも御霊様に会いたいと言ってましたよ。あの日以来、アカデミーでの修練にもしっかりと打ち込むようになりまして・・・。きっと御霊様とルイスとの決闘に刺激されたのかもしれません。」

「刺激ね・・・。」

あれは今思い出しても無茶苦茶な戦いだったな・・・。あんなのは本当にもう願い下げだ。

「ファム?いいかげんにしましょう。御霊様とファムはあんな戦いを乗り越えて素晴らしい絆で結ばれているのではありませんか。ちょっと・・・試練が増えたくらいで落ち込んでいてどうするんですか?・・・それとも、諦めるの?」

ファムは顔を上げて首を振る。そして、深呼吸をしている。

「こんなことくらいで落ち込んでいるようじゃ、リーナに御霊様を取られてしまいますよ。」

「リーナには絶対に渡しません!!」

「おお!?」

ファムは勢いから宣言したが、俺のリアクションで我に返ったのか顔を赤くしてアタフタしている。その様子にフィリアさんも安心したのか、お茶を入れるのにキッチンのほうへ行ってしまった。

「えっとー、ファムさん?・・・リーナとなにかあったの・・・かな?」

「え!!?いえ!いえいえいえいえ!!な、なにもありません。気にしないでください。わわわすれてください。」

うーん、なにかあったのかもしれないな。でも、今は追求するのはやめておこう。

「あら、ファム?リーナとのこと。御霊様にお話ししていないのですか?」

フィリアさんがお茶を持って戻ってきた。

「フフィリアさま。それは、ちょっと。その、・・・。」

「・・・まぁ、私からは何も言いません。御霊様?その時が来たらファムかリーナから聞いてあげてくださいね。」

「・・・フィリアさんがそうやっていうとすごく意味深に聞こえるんですが。」

「ふふふ。それでいいかしら、ファム?」

「・・・はい。」

「それじゃ、この話はこれでおしまいです。お二人のこれからの話をしましょう。」

「そうですね。」

フィリアさんが座って一息つく。その様子を見てファムも真剣な顔つきになっている。

「御霊様、もう一度、細かく教えて頂けますか?経緯といいますか・・・」

「あ、はい。アスタさんは・・・要するに・・・ファムが外の世界へ出て行って、その力が知られて利用されるのを恐れているっていうんですかね?それでその敵達からファムを守りきれるのか・・・みたいな感じから、だったら一つ試練を課すみたいな・・・。」

「・・・そう、ですか。・・・それで試練というのは?」

「えっと・・・なんだかの洞窟、だっけ?・・・えっと、ファム?なんだっけ?」

ファムはいきなり話を振られて驚いたのかビクッとしている。

「あ、すいません。少し考えごとをしていました。フィリアさま、試練は北にあるあの洞窟で探し物をしてこいとのことでした。」

「北のって・・・暗闇の洞窟のことですか?」

「え?暗闇の洞窟!?・・・そんな名前だったかな?」

俺がアスタさんから言われたのはもっと違う名前だったような気がするんだが、ファムが言うならきっと間違いないんだろう。

「ユウタさま・・・私は暗いところは苦手なんです。どうしましょう?」

「どうしましょうって言われてもね。」

「・・・・・・。」

フィリアさんが黙ったまま何かを考えているようだ。

「あの?フィリアさん?」

「え!?ああ、申し訳ありません。・・・探し物というのはなにを探すかは言われましたか?」

「えっと・・・指輪?だったと思います。」

「・・・そう、ですか・・・。」

フィリアさんの様子に俺とファムは顔を見合わせて首を傾げる。なにかまずいことになっているんだろうか。

「御霊様?アスタ様はもしかしたら・・・」

バーーーン!!

勢いよく扉が開いて急にリーナが突撃してきた。俺に抱き着くようにくっついている。

「おにいちゃん!おにいちゃん!!」

リーナは顔をスリスリと俺の胸にこすり付け嬉しそうにしてくれている。横目でファムを見るとちょっと不機嫌そうだ。

「リーナ、久しぶりだね。もうアカデミーの方は終わったのかい?」

「うん。おにいちゃんが来てるって聞いて急いで帰ってきたの。」

「ちょっとーーー、リーナァ。ユウタさまから離れてよーー。」

ファムがリーナを掴んで引っ張っているがリーナはがっちりと俺にしがみついているのでなかなか外れない。その様子をフィリアさんは微笑ましく眺めている。どっかでこんなことを似たようなことあったっけか。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る